ゲーム用語を使用してはいけない
ネット小説にあふれる「ゲーム系ファンタジー」とは、ハイファンタジーというジャンルとは一線を画するものだと考えます。
その理由をここにはっきりと提示します。
世界観を作り込み、設定の矛盾を生まないこと。これは大切なことです。
「おもしろければいいじゃん」
みたいに言う人もいますが、本格派の、王道ハイファンタジーというのは、その世界観に読者を引き込まなければ間違いなく失敗します。
はっきり言いますが、だからハイファンタジーには「ゲーム用語」は使ってはいけません。
「レベル」とか「スキル(スキルポイント)」とか「ステータス」とか、「チート能力」とか「アイテムボックス」とか……
苦労もせずに幸運から手に入れた強力な武器とか、無限に湧き出る魔力とか、都合が良すぎてチープに感じます。
トールキン(『指輪物語』の作者)もファンタジー世界を書くときに、「これは架空の世界」と認識させるようなまねをしてはいけないと言っています。
わたしも世界観の見せ方には注意を払ってます。当然ですが上記に記したゲーム用語は使用していません。
現実世界とゲーム世界の用語は、二つの世界が異なっているものだと認識させるからです。
(簡単に個人の状態などの情報がやりとりできる「ステータス画面」が出て、さらにはそれを第三者に見せることができる世界。それは完全にゲーム内の出来事です)
ハイファンタジーが架空の物語だとしても、それは現実感を獲得したものでなければ、たちまちファンタジーとしての魅力を失って輝きをなくしてしまう。
ファンタジーに登場する竜や精霊、魔法といったものは、幻想的で豊かな「イメージ」を与えてくれるものです。
ところがゲームから生まれた用語は違います。
明確にゲームの、機械的な、二進法だのなんだのの、イメージの欠片もない、効率的な記号にすぎないからです。
イメージを想起させる記号(竜、妖精など)と、効率を重視する記号(レベル、ステータスなど)では役割が違います。だからその言葉を出されると、それはハイファンタジーでもないし、文章による表現ですらなく、ただの記号になり果てるのです。
簡単に言うとユニークな話づくりにそうした記号(ゲーム用語)は貢献しますが、同時にリアリティは失われます。
もしハイファンタジーとして物語をはじめておきながら、とつぜん現実感のないゲームの設定(用語)が登場すれば、それは画面を通した実体のない数字や何かを見ている気分になるのです。
(だからゲーム系ファンタジー物は、最初にゲームをプレイしている主人公などの描写が入る。──主人公のいる世界が異世界なのか、ゲームの中なのか曖昧にするため)。
「異世界の物語」を読んでいると思っていたら、それは「ゲームの中の話」だったと、そう感じてしまいます。
いわば「ごっこ遊び」みたいなものです。
偽物のファンタジー世界だったのです。
竜や精霊も魔法も、それらは画面の向こう側にある、機械的なデータになり果ててしまうでしょう。
それはハイファンタジー(異世界の物語)ではありません。
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独創的な世界観を書くときも注意が必要になります。あまりに現実離れした世界観とは、読み手には受け入れにくい内容である可能性もあります。
もちろんそれでコアな読者層は喜んでくれる可能性も否定できません。──難しいところです。
現実感のあるファンタジー世界とは、そこに表現されているものが文章によって生き生きと書き出せているか、それが問題でもあります。
設定だけ作り込んでも、その世界を表現する文章が稚拙で、代わり映えのない日常的な言葉(口語)ばかりであると、あまり冴えない印象を持たれる可能性もでてきます。
ハイファンタジー独特の文章表現。
それは作者にとって悩ましいものです。
個人的には「ギルドランク」という(横文字)表現もいかがなものかと思ってます。さらに言えば「Sランク」とかのローマ字表記の階級も避けたいところ。そうした表現はハイファンタジー特有の世界観を台なしにしかねません。
AとかSとか単純な記号的なものは、現実世界のイメージが強くなるので、雰囲気を大事にする場合は、その世界の価値観を盛り込んだ階級の表現のほうが好ましいでしょう。