プロットと世界観を分けて考える
ハイファンタジーという言葉の意味は、「架空の世界の物語」を指します。
ローファンタジーとは、「現実世界での物語」を意味している点に注意。
「ハイ(高い)」と「ロー(低い)」と誤解している人もいるようです。
ハイファンタジー(異世界の物語)に大切なものは、異世界の雰囲気やイメージといったものです。
世界観が作り込まれ、その世界が実際に存在しているかのように読者に思わせる。それがハイファンタジーの世界観ではないでしょうか。
ファンタジーの世界に魅力がなければ、それは異世界を舞台にした物語である必要はありません。
そのためにまず、(極端に言うと)プロットと世界観・設定を分けて考える。ということを提唱したい。
プロットとは物語の道筋のようなもの(構想)です。
これこれこうしたお話を書きたいから、「世界観をその物語の都合に合わせて設計する」という作り方をすれば、世界観はリアリティを失う可能性があります。
──もちろんこれは極端な言い方で、多くの物語は描きたい物語に合った世界観が構築されているでしょう──
だからこそ読者に「これはこの物語のために構成された世界や、用意された登場人物だな」と思われてはいけません。
主人公に物語の根幹部分が集中するとしても、あまりに主人公に都合のよいことばかり起きたりしては、物語は嘘くさくなります。
プロットと世界観(設定)を分けて考えるというのは、主人公がその世界で生きている大勢の中の一人だ、ということを強調したいからです。
異世界のお話でなくとも、現実世界で主人公に都合のよいことばかり起こる話なんて、正直そんな物語を読んでも「そんなわけないでしょ……」と思ってしまいます。
主人公は物語の中心にいる人物ではありますが、世界の中心にいるのではありません。
だから「転生してずるい能力を授かって生まれる」とか、そういう舞台装置は現実感を殺してしまいます。
そうした設定が出る物語は「本格派のファンタジー」とは言えません(過剰な虚構の世界はマンガを思わせます)。
安っぽさを消したいなら、主人公が持っている強力な能力に対する理由を、読者が納得できる根拠を提示しなくてはならないでしょう。
「生まれ変わったときに神様に与えられたから」では、大人の読者はまったく受け入れられません。
本格派のファンタジーとは何か。
それは海外の(古典的)ファンタジー小説にあるような意味での、「幻想的な物語」であると考えます(もちろん日本人の書く「本格派」もあります)。
異世界の世界観を構築するのはリアリティ(現実感)のある「イメージ」です。
(決して「現実と一致した」という意味ではありません)
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神話や伝承など、こうした話の中にあるイメージを利用したファンタジー小説は多いです。
神話伝承や物語の中に現れる共通点について、心理学者のユングは「元型」といった言葉を使って説明しています。
元型とは、人間の心には共通する(潜在的な)イメージが存在する。といったことを意味しています(それが心理的な内容に現れる、というのが元型)。
つまり人には受け入れやすいイメージがあり、そこをうまく突けば、読み手に受け入れてもらえる可能性が高いと言えます。
言い換えればテンプレートとは、いわば人間の精神に共通する想像力に訴えるもの。とも言えるのではないでしょうか。
たとえばドラゴン。これはとても強力で獰猛で──神話学ではこれらの存在は天変地異や自然災害、または権力を象徴しています。
つまりある場所でドラゴンが暴れており、それを○○という騎士が討伐した。というお話(伝承)は、もしかすると暴君を倒したある人物のお話かもしれません。
こうしたことを理解しながら物語を書くのは大切なことだと思います。
それは世界観を描くときにも重要で、含蓄のある世界を構成するには、現実の事柄について知っておくことも大切です。
異世界の物語を作り出すときには、イメージを読み手に伝わりやすい形に構成するのが一番ですが、それだけだと単調で、どこかで見たものにしかなりません。
(邪悪な魔王が人間世界に攻めてきて、それを倒すために勇者が立ち上がる──みたいな)
それを嫌う作者は──派手で、意表を突いた話を作りたがるものですが、そうなるとやはりリアリティは失われます。
何事もやりすぎはよくありません。
本格派魅力ある物語を書きたい、リアルさを表現したい作者は、あまり逸脱した世界を作るべきではないでしょう。
読んでいて引き込まれる物語とは、今まで見たことのないような世界での話ではなく、世界を彩る風景やそこに住む生き物、人々の生活や文化が緻密に描かれた物語ではないでしょうか。
一部のタイトルはあくまで「強調した表現」です。
そこまで突き詰めて考える作者も読者も、そんなにいないでしょう。
読んでくれてありがとうございます。
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