第3話 盾のバアル、大活躍する
「私達だけでなく、町まで救って頂き本当に感謝します!」
「あなた方は町の英雄です!」
「俺は英雄じゃないですよ。ただ、守りたかった……それだけですよ」
男女は自分達と町を救ってくれた事を俺達に深く感謝し、何度も何度も頭を下げる。
すると、ふっと男は何かを思い出す。
「そう言えば、私達の自己紹介をしてませんでしたね。リニームという町で山猫亭という食堂を営んでいます、オットと申します。こっちは妻のアンナです。それとこの子は、私の娘のナーシャです」
男女は夫婦だったらしい。
幼女はその二人の娘だった。
リニームという町で山猫亭という食堂を営んでおり、食料を調達する為に隣町まで来ていたそうだ。
「その帰り道でフレイムボアに襲われたのです」
「……なるほどな。フレイムボアの群れの1体が運悪くあなた方の幌馬車を発見し、襲撃したという訳か」
「皆さんはどうやってフレイムボアの群れに気付いたのですか?」
どうやらその事に疑問に感じたオットさんは俺に質問をしてきた。
「それはこのマレンがもふもふな猫耳でフレイムボアの群れの足音を微かに聞き取ったんだ」
「この子か?」
「この子は白銀猫耳族でね、数十km圏内なら微音でも聞き取る事が出来る程、聴力が人族よりずば抜けているんだ」
「足音だけでフレイムボアの群れに気付いたのですか?」
「それだけじゃありませんよ。この盾のバアルにも協力して貰いました」
「盾? この深紅色の盾にですか?」
オットさんの頭上にはクエスチョンマークが沢山浮かんでいた。
俺の言葉の意味が理解出来ていなかったようだ。
「バアルに【感知】スキルで数十km先にいるフレイムボアの魔力を感知して貰いました。位置特定と数も検出しました」
「この盾にそんなスキルか……」
『私からすれば、この程度であれば朝飯前よ♪』
「へ? た、盾が喋った!?」
お約束通りのリアクションをするオットさんは目を点にして唖然としていた。
「……ガルトさん、今この盾……喋りましたよね?」
「喋りましたよ。この盾の名はバアル。7つ神器の1つである盾なんです」
「7つの神器!? 神話に出てくるあの神器!?」
『そうよ♪ 私はその神器の盾、バアルよ♪ 宜しくね♡』
「よ、宜しくお願いします……」
余りにも情報量が多すぎて思考が追い付かない。
「話が少し脱線してしまったので戻しますね。フレイムボアの群れが俺達の目的地であるリニームへと進行している事を知りました。進行を阻止する為に追跡していたところをあなた方の反応をバアルが感知しました。後はあなた方も知ってる通りの展開です」
「……なるほど。リニームが目的地と言ってましたか?」
「そろそろ身体を休めたいと思いましてね。それに色々と補給もしたかったので……」
「そうだったんですね。あのぉ……もし良ければ、私達の店に来ませんか? 是非、皆さんにご馳走をおもてなししたいのですか」
オットさんからお礼として山猫亭の料理をご馳走したいと言われた俺は、ご迷惑かと思い断ろとした瞬間、マレンと爺さんに睨まれた。
「……私……オットさんの……料理食べたい……」
『わしも食べたいぞい』
この二人は食べ物の事になると貪欲になる。
もうこうなると二人は頑固一徹となり、何を言っても話を聞こうとしない。
「ったく、二人は……。オットさん、ご迷惑では?」
「ご迷惑なんで思っていませんよ! 寧ろ大歓迎ですよ!」
「ただ、1つ問題がありまして……」
「問題?」
「はい、ご馳走したいのは山々なんですか、調達したばかりの食料がほぼさっきのフレイムボアに食われてしまって何も残っていないのです」
と、オットのその言葉を聞いたマレンと爺さんはガーン!!とショックを受け顔が一気に青ざめ落ち込む。
「……そんな……楽しみにしてたのに……」
『残念じゃのお……』
二人からどんよりとした重たい張り詰めた空気が漂う。
相当のショックであり、相当のダメージだったようだ。
涙目になっているマレンを見て、さすがに可哀想だと感じた俺はある提案をオットさんに持ち込む。
「……あのぉ、オットさん? もし良ければ、これを使って下さい」
「え?」
「バアル、ありっだけの食料をここに出してくれ!」
『りょうか~い♪』
俺が地面に向けて盾を翳すと白色に輝く魔法陣が展開された。
バアルが【倉庫】スキルで冷蔵で保存していた野菜、果物、肉、魚などの食料を全てこの場に一瞬にして魔法陣から出した。
大量の食料が山のように積まれている光景をオットさんはただ見上げていた。
「……これだけの食料があれば、かなりのおもてなしが出来ますよ! でも、こんなに食料を良いんですか?」
「大丈夫ですよ。まだ、食料を調達すればいいので問題はありませんよ」
「何から何まで、本当にありがとうございます!」
オットさんは何度も何度もペコペコして頭を下げる。
何度もお辞儀をする姿勢はもはや職業病とも思える。
そんなオットさんはある事に気付くとまだ顔を青ざめる。
「せっかく食料を得たのに運搬する手段がありません。幌馬車が大破してなければ運搬が出来たのに……」
「じゃあ、その幌馬車を復元しましょう」
「へ?」
「バアル、度々悪いけど【復元】スキルでこの大破した幌馬車を復元して欲しいんだが、頼めるか?」
『そんなの朝飯前よ♪』
大破した幌馬車に目掛けて盾を翳すと、盾の中心が口ように開く。
すると、バアルは大破した幌馬車を一瞬にして吸い込んだ。
開いた部分が閉じると、バアルが【復元】スキルの能力効果で大破した幌馬車を数秒で復元させる。
『幌馬車、復元完了よ♡』
「へ?」
『今から吐き出すわね(笑)』
再び盾の中心が口のように開き、前方に白色の輝きを放つ魔法陣が展開され、その中から復元した幌馬車がひょいっと軽々と出てきた。
「……う、嘘!? 真っ二つに大破してボロボロになっていた幌馬車が完璧に復元している!?」
『私からすれば、こんなもん朝飯前よ♪』
さすがにもう驚きに慣れたと思っていたが、全然だった事に気付く。
「これなら食料を運搬出来ます!」
「その事何ですか、この量の食料を幌馬車で運搬するのは困難だと思うので、一度この食料を【倉庫】にしまいますね」
「確かにこの量の食料を運搬するのは難しいですね。じゃあ何故、幌馬車を復元したのですか?」
「あなた方の移動手段を確保したかったんですよ。今後も幌馬車が無いと何かと不便でしょ?」
「ガルトさん、あなたって人は……」
オットさんは、俺の手を握り何度も何度も感謝をする。
「取り敢えずはこれで問題は解決しましたかね?」
「はい! マレンちゃん、シルバーフェンリル様、目一杯料理をおもてなししますから、楽しみにしてて下さい!」
「……やった~♡……」
『誠か!? こりゃあ楽しみじゃわい(笑)』
「それじゃ目的地のリニームへ行きますか」
こうして俺達とオット一家は、山猫亭があるリニームへと向かった。