第4話 勇者、死す!?
「……なあ、誰が止めた方が良いんじゃないか?」
「だ、誰が止めるのよ!」
「ガルトさん、完全にキレてますよ!?」
「一番怒らせてはいけない人を怒らしたのでは?」
鬼神の如くグロリアスの顔をエンドレスで殴り続ける俺の姿を見た仲間達は、俺やマレンにしてきた仕打ちを今頃になって後悔し始めた。
自分達も同じ目にあうのではと恐怖に怯えていた。
が、ヴァルカス一人だけが手を組んで平然とした表情でこちらを見つめていた。
「お前ら、何を怯えている?」
「な、なんでそんなた落ち着いているんですか!?」
「あのグロリアスさんがあんなにボコボコにされてるんですよ!?」
「だから、何だ?」
「へ?」
「アイツは不死身だ。あの程度では死なん。グロリアスはこのパーティーの勇者だぞ? 守備役に負けると思ってるのか?」
ヴァルカスの発言はこの場の空気を一瞬で変えた。
俺に対する恐怖が仲間達の中から徐々に消えかけていた。
「……そ、そうだ! 勇者のグロリアスさんが負ける訳がない!」
「そうよ! 私達もグロリアス様の援護をするのよ!」
仲間達は俺を敵視し、それぞれの武器を構え始めた。
グロリアスの援護に回ろうとしているようだ。
『……ほう、お主らは邪魔をする気か?』
その様子をずっと観察していた爺さんが仲間達の頭上から睨み付けるかのように見下ろしていた。
「へ?」
『邪魔をするなら食い殺すぞ……』
「ひっ!?」
爺さんの威圧感が半端じゃないのが背後から伝わってきた。
並みの実力者なら一瞬でこの威圧に呑まれて戦意喪失する。
ヴァルカス、エリシス、ノルエ以外の仲間達は金縛りにあったかのように身動きが取れなかった。
爺さんの威圧で死の恐怖を植え付けられたからだ。
「……ちっ、シルバーフェンリルめ、余計な事を!?」
「こうなったら、私達でグロリアスの援護をしましょう」
「それが得策かと……」
「なら、話は早い。エリシス、援護を頼む! 俺はガルトを斬る!」
「了解! さっさとあんな奴、殺しちゃって!」
「私はグロリアスの治癒に専念します!」
爺さんの威圧に呑まれなかった三人は、グロリアスの援護に回る為に連携を取り始めた。
エリシスはヴァルカスの背後でS級の業火魔法【煉獄業火】の詠唱を唱える。
その間にヴァルカスは大剣を構え、俺の方へと直進し、気をこちらへと向けようとしていた。
ノルエはその隙を狙って【瞬歩】でグロリアスの側に近付き、グロリアスの身体を支えると、俺から少し離れた距離の場所へと【瞬歩】で移動した。
『ほお、以外と連携を取れておるのお。エセ勇者より、あやつの方が指揮に向いておるな』
爺さんはヴァルカスの事をべた褒めしていた。
詠唱を終えたエリシスの目の前には巨大な業火の炎の塊が宙に浮いていた。
「業火に焼かれて死ね!!!!!」
エリシスは躊躇う事なく、俺に目掛けて【煉獄業火】を放った。
【煉獄業火】は周囲の木々を業火で焼き払っていく。
その光景を俺はただ見つめていた。
回避する気が毛頭なかったからだ。
俺は娘のマレンを覆うように強く抱きしめた。
【煉獄業火】は俺の背中に直撃し、周囲の木々を巻き込み轟音を立てて大爆発した。
大爆発に巻き込まれる前にエリシスとヴァルカスは回避し、爆発の衝撃波から身を守る為に大剣を盾にした。
「……直撃した。さすがの奴でも塵となっただろ」
「この魔法を防げる人間はこの世界に存在はしないわ」
「私達の勝利です」
爆煙の中は全く何も見えない。
肌から見れば、俺とマレンは業火に焼かれたように見える。
三人が勝利を称えていると、爺さんがそんな三人に釘を刺す発言をする。
『喜んでいるところを水を差すようで申し訳ないのじゃか、ちゃんと確かめた方がよいぞ?』
「へ?」
爆煙が徐々に落ち着いていき、中から人影がうっすらと微かに見えてきた。
「……う、嘘でしょ!?」
「我々の想像以上の防御力だったって事か……」
「あ、あり得ないわよ!? あの【煉獄業火】を食らって生き延びた人間なんで聞いた事ないわよ!?」
爆煙の中から傷一つもない無傷のままで俺とマレンが姿を現した事に三人は顔を青ざめ驚愕していた。
聖剣もS級の魔法も全く効果がなかった事を思い知った三人も戦意喪失した。
「あの三人でもダメだったのかよ……」
「誰だよ、あの人を無能って言った奴は!?」
「全然無能じゃねえよ……むしろ、主要メンバー達よりも最強じゃん!」
俺を無能と思う者は誰一人とこの場にいなかった。
いや、訂正する。
たった一人だけ、俺の事をまだ無能と思っている者がいた。
「……お前は……お前は最強何かじゃない……最強なのは俺だ!!」
【超回復】とノルエの治癒魔法で急速で回復したグロリアスは、激痛を堪えながら足をガタガタさせて起き上がった。
「聖剣を全部失っても、俺にはこの最強の魔法がある!!」
「最強の魔法?……まさか、あれをここで使用する気か!?」
俺は顔を青ざめ、慌ててグロリアスの行動を制止しようとした。
が、正気を失っているグロリアスは狂乱し、無詠唱で浮遊魔法を使用し、自身の身体を宙に浮かせ、そのまま上空へと浮遊した。
「俺に害をもたらす者は、逆らう者は全員殺してやる!!」
狂乱したグロリアスは右手を地上に目掛けて翳す。
掌に白銀の輝きを放つ塊が姿を現し、徐々に塊の大きさが膨張し、グロリアスよりも遥かな大きさへと変貌し、極大の塊へとなった。
グロリアスは対魔王用の勇者魔法【終焉審判】を地上へと解き放った。
「なっ!? 【終焉審判】!?」
「この地形そのものを変える気なの!?」
「グロリアスは私達まで殺す気!?」
「完全に狂ってる……」
【終焉審判】は対魔王用の勇者魔法であり、この魔法を地上に解き放てば、この辺の地形をマップ上から跡形もなく消し去るグロリアスの最大魔法の一つである。
「に、逃げろ!!」
「逃げろって何処に!?」
「逃場なんで無いでしょ!」
地上の仲間達は死の恐怖で完全にパニックっていた。
信じていたリーダーに殺されそうになっているのだから。
白銀の輝きを放つ極大の塊はどんどんこちらに迫っていた。
誰もが終わりと悟った瞬間、俺は呆れた表情で盾を上空に目掛けて翳した。
「……バアル、食え」
『え! 良いの!?』
「あぁ。全部、食っちまえ」
『久々のご馳走だわ(笑) いただきま~す(笑)』
上空に目掛けて翳した盾の中心がパカッと口のように開き、白銀の輝きを放つ極大の塊を吸引のようにどんどん吸い込んでいく。
「なっ!? た、盾が【終焉審判】を食べてる!?」
「相変わらず、良い食いっぷりだな(笑)」
『美味し♪ とっても美味し~♪』
あっという間に盾は【終焉審判】を全て吸い込んでしまった。
盾なのにゲフッと大きな音でゲップをした。
まるで生きているように見えるこの盾は、次にもっと誰もが驚愕する行動を取る。
『ご馳走様~♡』
「た、盾が……しゃ、喋った!?」
そう、盾が当たり前のように普通に喋ったのだ。
『な、何よ! 私が喋っちゃ悪いの!』
「こらこら、怒るのは後でだ。今食べたのを空に解き放ってくれるか?」
『えええ―――――!!!! せっかくお腹が満たされたのに!!』
「頼む。後で美味しい物をご馳走してやるから」
『え! 本当? 本当に本当?』
「あぁ。だから頼むわ、な?」
『了解♪ ドッカ~ンと空に解き放ちましょう♪』
再び盾は中心を口のように開き、グロリアスがいる上空へと目掛けて先程食べた【終焉審判】を全て20倍にして解き放った。
「なっ!?」
「お前の【終焉審判】を返すよ。20倍にしてな(笑)」
「そ、そんな!? い、嫌だあああ―――…………」
盾が放った【終焉審判】は上空で浮遊していたグロリアスを絶叫と共に容赦なく飲み込み大爆発をした。
大爆発の轟音は大陸中に鳴り響いた。
爆煙で何も見えないが、跡形もなくグロリアスは吹き飛んだらしい。
「……グロリアスが死んだ?」
「勇者は不死身ですよ? そんな簡単に死ぬ訳か……」
「あぁ。あいつは死んでねえよ」
「な、何を言ってるの? 現に今目の前で木っ端微塵に!?」
エリシスが俺の胸ぐらを掴み、グロリアスは死んだと怒鳴り散らす。
も、俺はグロリアスは死んでいないと全否定した。
「肉片や血が残っていれば、そこから【超回復】と【細胞再生】で蘇生する事が出来る。勇者なんだから、そんな簡単に死ぬ訳がないだろ?」
と、俺が説明しているうちに【細胞再生】で俺がグロリアスの顔面を殴り続けていた時に飛び散った血の細胞からみるみるうちに再生していく。
ただ、その過程が余りにもグロく、仲間の数名が胃の中のモノをリバースしていた。
「うぇ、キ、キモいんですけど……」
「お、俺、吐きそう……」
グロリアスの身体は完全に再生したが、灰となった服までは復元が出来ず、当の本人はすっぽぽんの丸裸だった。
「な、何じゃ、こりゃあああ――――――!?!?!?!?!?」
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