第3話 勇者、制裁を受ける
娘のマレンがグロリアスに蹴り飛ばされる少し前の時間に遡る。
疑問に感じた伏線を回収する為にも必要だからだ。
前回の話で、何故俺と爺さんはグロリアスに蹴られる前にマレンを助けなかったのか?
ほとんどの者はそう感じただろう……。
その理由は助ける必要性がないと判断したからだ。
この言葉だけを聞くと娘に対して冷たいのではと思う者はほとんどだろう。
だが、そこにちゃんとした理由があればどうであろう……。
「……爺さん、孫が可愛いからって助けに行くなよな」
『分かっておるわい。そもそも、助けなくともわしの孫があんなひよっこ勇者に負ける訳がなかろう!』
「まあな、ステータスや経験は圧倒的にグロリアスの方が断然上だが……」
『スキル、魔法、防御力は圧倒的にマレンの方が上じゃ(笑)』
そう、二人は助ける気がないのではなく、マレンの方が圧倒的にグロリアスよりも実力がある事を知っていたから、敢えて助けずともマレンが自力で突破出来ると判断していたのだ。
が、いざとなると親バカなのがスキル【瞬歩】を使用して、自分のいた場所から一秒でマレンのいる場所へと移動し、頭をはって娘の身を守ってしまったのだ。
『馬鹿者か! 何をやっておる!』
「あはは……やっぱり我慢出来なかった(笑)」
『笑って誤魔化すな!』
「爺さんだって、さっきの場所からかなり跳び跳ねたみたいだけど?」
『う、うるさいわい! 孫を心配して何か悪いのじゃ!』
二人とも親バカになっていた。
俺と爺さんが口論していると、マレンがこちらを呆然と見つめていた。
「……父……助けてくれたの?……」
「え? あ、そ、そのだな……」
マレンの問いに俺はどう説明すれば良いのか戸惑っていた。
すると、地面に膝を付け、青ざめた表情で砕けた聖剣の柄の部分を握って俯いていたグロリアスが何かを呟いていた。
「……お、俺の聖剣が砕けた!?」
「う、嘘でしょ……」
「頭で聖剣を砕いた!?」
「どんだけの石頭なんだよ!」
グロリアスは聖剣が砕けたショックで地面に膝をつけ座り込んでいた。
ずっと砕けた聖剣の柄を握って、砕けた部分を何度も何度も見つめている。
余程のショックだったのだろう。
本人だけでなく、周囲の仲間達も動揺の衝撃を受けている様子だった。
シルバーフェンリルの爺さんがゆっくりとこちらに歩を進め、爺さんの口からボソッと何かを述べた。
『そやつのスキルじゃよ』
「へ?」
『スキルの効果でガルトの頭は世界一硬いからのお……』
「どういう事ですか?」
『頭だけでなく、全身が世界一硬いのじゃ。スキルの効果で防御力が限界値まで底上げされておるからのお、聖剣だろうが、神剣だろうが、魔剣だろうが、いとも簡単に粉砕する事は朝飯前じゃよ……』
爺さんの衝撃的な発言に驚愕する仲間達。
目の前で聖剣が砕けたところを目撃していた為、爺さんの発言がよりリアルに感じたのが、全員の顔が青ざめていた。
その発言を聞いたグロリアスは聖剣の柄を握りながらぶるぶると恐怖で身体が震えていた。
聖剣が砕けたショックと爺さんの発言で俺に対する恐怖が芽生え始めていたのだ。
「て、手の震えが止まらない? 俺は奴に怯えてるのか? 聖剣を砕かれたからか?」
グロリアスは震えが止まらない手を必死に制止を試みるが、全く制止する様子がなく、どんどん震えが増していくばかり。
徐々にグロリアスの中で俺に対する恐怖が増加しているようだ。
「……ふ、ふざけるな! 俺が奴に怯えているって言うのか! そんな事……そんな事……許される訳がねえだろうか!!」
グロリアスは叫び上げ、再び右手に別の聖剣を召還させ、片手の左手で俺を薙ぎ払い、聖剣の鋭い刃の先端をマレンの心臓に目掛けて直進し刺突した。
「きゃあ!」
「キャハハ(笑) これでクソガキの命は終わりだ!!」
パキッという聞き覚えのある音が聞こえた。
聖剣にひびが入った時と同様の音だった。
亀裂は拡散し、この聖剣も木っ端微塵に粉砕した。
「なっ!? 聖剣がまだ砕けた!?」
幼女の身体をしかも心臓に目掛けて聖剣で刺突したはずなのに、刺さるはずの聖剣の刃の方が木っ端微塵に粉砕してしまった事にグロリアスは顔を青ざめ驚愕していた。
「……あれ?……刺されたのに……痛くない……」
「ど、どうなってやがるんだ!? なんで無傷なんだ!?」
心臓に目掛けて刺突されたはずのマレンは傷一つなくノーダメージで無傷だった。
その疑問と仕組みを爺さんが説明していく。
『マレンには【加護】が付与されておるのじゃ。つまり、ガルトと同様の防御力と【守護神】スキルの能力効果を得ておるのじゃ』
「加護? 神でもない人間が人間に加護を付与する事が出来るのですか?」
『普通は出来んのお。じゃが、あやつの【守護神】スキルなら可能じゃ』
今のマレンの状態は【加護】の能力効果により、俺と同様の防御力を得ている。
グロリアスの聖剣がマレンの身体に刺突しなかったのはそれが理由だ。
再度、聖剣を砕かれたグロリアスは刃のない柄を握りながらぶつぶつと何かを呟いていた。
「……聖剣を2本も砕かれただと!? ふ、ふざけるな……ふざけるなっ!!」
逆上したグロリアスは、今度は両手に別の聖剣を左右に召還し、2本の聖剣を握りしめ、刃の矛先を再びマレンへと向けた。
「クソガキか……し、死ねやっ!!!!!!」
右手の聖剣を振り翳し、マレンへと振り下ろす。
次に左手の聖剣も振り翳し、マレンへと振り下ろす。
Xの字を描くようにマレンを聖剣で斬り裂く。
「……あれ?……やっぱり……痛くない……」
マレンの身体を斬り裂いたはずの聖剣の刃がパキッと音を立てて、他の聖剣同様に2本の聖剣も木っ端微塵に粉砕した。
「なっ!? な、何故だっ!!」
目の前の現実を受け入れられないグロリアスは、顔を青ざめながら何度も何度も聖剣を両手に召還し、マレンの身体を斬り裂くも聖剣は木っ端微塵に粉砕し、マレン自身は全くのノーダメージだった。
グロリアスが所持している全ての聖剣を召還したが、残らず全て木っ端微塵に粉砕された。
地面には粉砕された聖剣の刃が山のように積み上がっていた。
「……お、俺の聖剣が全て砕かれた? そ、そんなバカな……バカなっ!!」
グロリアスはガクッと地面に膝を落とし、顔を青ざめながら頭を抱え絶望していた。
そんなグロリアスに俺はボソッとある言葉を放った。
「……お前の絶望はこれからだ」
「は?」
右手の指の骨をポキポキとはっきりと聞こえる大きさで鳴らした。
その音を聞いたグロリアスは顔を青ざめ全身が震えていた。
腰を抜かし、地面に倒れ込むグロリアスは完全に戦意喪失していた。
「く、来るなっ!!」
「……俺の娘に手を出した事を後悔しろ」
「ひいい!!!!」
俺の右腕は太い血管で所々に浮き上がっていた。
筋肉も膨張し、今にも破裂しそうなまでにムキムキになっていた。
その右腕の拳を強く握りしめ、グロリアスの顔に目掛けて渾身の一撃を放った。
怒りの感情を込めた俺の拳はグロリアスの顔面にもろに直撃した。
拳はメリメリと顔面にめり込み、鼻の骨と歯がへし折れ、肉が潰れるような鈍い音も聞こえた。
そのまま俺はグロリアスの頭部を地面へと激しく叩き付けると、地面に亀裂が入り陥没した。
グロリアスの頭部の下は、地面に叩き付けた事でクレーターが出来ていた。
「……た……たしゅ……けて……」
「これで終わりだと思うなよ?」
「へ?」
「……大丈夫だ。その怪我は【超回復】で数秒で傷が回復する」
「……そう……だった……」
俺の渾身の一撃でグロリアスの顔はぐちゃぐちゃになっていたが、奴の固有スキルである【超回復】により、数秒で顔の損傷が一瞬で回復した。
「……てめえ、よくも俺の顔を!」
「やっぱりお前の【超回復】はすげえな(笑)」
「そうだ。お前が俺を何度も殴ろうか、俺には全く効かねぇんだよ(笑)」
「……じゃあ、好きなだけお前の顔をぐちゃぐちゃにしても問題はないな?」
「へ?」
俺は再びグロリアスの顔面に渾身の一撃を撃ち込む。
「ぐべぇっ!?」
「さあ、さっさと回復しろよ? 次もお前の顔面に俺の渾身の一撃を撃ち込むからよ……」
「……や……やべて……くれ……」
ぐちゃぐちゃになったグロリアスの顔面が回復すると、問答無用に次の一撃を奴の顔面に撃ち込む。
「……た……頼むから……やべて……」
「お前は5才の娘であるマレンに剣を向けた……」
「……ゆ……ゆるし……へ……」
「それがどういう意味をするのが思う存分思い知れ……」
確かに【超回復】は数秒で回復する。
ただし、傷は回復するが痛覚は消えない。
グロリアスのぐちゃぐちゃに損傷した顔面が回復しても、痛覚はずっと残ったままなのだ。
その激痛をグロリアスはエンドレスで味わっている。
「娘が今まで受けた痛みはそれ以上に苦痛だったはずだ。娘が受けた苦痛を、それ以上の痛みを永遠と味わえ……」
鬼の形相でグロリアスを睨み付けながら、奴の顔面をエンドレスで殴り続けた。
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