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20話 まさかの乱入者2


 ……。

 …………。

 ………………。


「えっと。……おばあちゃんのこと、ホントにすみませんでした」

「大丈夫。そんなことより、俺は責任が取れる年齢になるまで誰とも付き合う気はないからね。あと、このあとちょっとビックリな事が起きると思うんだけども、俺を信じて静かにしててくれるかな?」

「わかりました……んっ」


 ……友香子さんや。

 あなたは何で頬を赤らめながらも目を閉じてちょっと唇を突き出してるんですか。

 そういうサプライズになる雰囲気じゃなかったよね?


 しおらしい態度も、前回のブチギレた態度を見た後だとどこか(むな)しい。

 いやだって匕首(あいくち)向けられたし……。

 何はともあれ同意が取れたので、他人の家の樹木で忍んでいる鹿間に視線を向け、ちょいちょいっと手招きをする。


 シュタッと降り立ち、頭巾を外す鹿間。


「何で分かった……?」


 怪訝(けげん)そうに訊ねる彼女が不機嫌そうなのは、前回の話を信じるなら約束をすっぽかされたことに起因しているのだろう。

 サキさんが頼んだ応援でスキルの効果は抜けているはずなんだけれども、そもそもスキルってのが何なのか分からないから、何とも言えない。

 【魅惑のフェロモン】やら【忘れ得ぬ想い】やらシナジーがありそうなものもあるし、正直どうなってるのか全体像がつかめないのだ。


「まぁ、色々あってな」

「で? 何か言い訳はあるか?」


 鹿間がスチャっとクナイを構えたところで、傍に立っていた友香子がさすがに目を開けた。


「!?」


 唐突に現れた鹿間に目を丸くしたものの、俺のことばを守って何とか声は出さずにいた。代わりに俺と鹿間を交互に見て口をパクパクしているけれども、まぁ蒲生さんが来ないならそれでOKだ。

 いやOKかは知らんけどもとりあえず色んな方法を試してみないと打破する方法は出てこないだろう。

 ……その代償として失敗する度に俺の股間が(はかな)くなるけども。


「し、白神先輩……!」


 剣呑な鹿間に友香子はたじろいだものの、すぐさま匕首を取り出す。


「どこの組のモンか知らんがウチの次期組長に手ェ出そうってンなら分かってんだろうなァ!?」

「次期組長!? 誰が!?」

「白神先輩が婿養子になれば、自然とそうなりますよ? うちは私と妹しか直系がいませんので」


 友香子の言動に思わず固まった俺だが、鹿間もそれをみて何だかおかしい、と気付いたらしい。クナイを降ろすと、やや困惑した表情を俺に向ける。


「白神、もしかしてけっこう困ってる?」

「けっこうどころかメチャクチャ困ってるよ!」

「それは大変です! 先輩を困らせるこのイタい忍者はコンクリ抱かせて沈めますのでご安心を!」

「どこに安心できる要素があるの!?」


 スキルのせいか、暴走した恋心(せんのう)のせいか。

 エクストリームなことを口走った友香子に、いよいよ鹿間が疑念を抱く。


「なるほど。つまり白神はここまで拉致(らち)されて無理矢理婚姻を結ばされそうになってる、と」

「いいえ! 白神先輩とは結ばれる運命だったんです! 一目見ただけで高鳴る胸のドキドキ! 緊張でびしょびしょになって震えが止まらない汗! これが恋でなくて何だと言うんですか!」


 トラウマによるストレスだよ。

 ドキドキじゃなくて動悸(どうき)だし、手が震えるのは戦慄(せんりつ)してるからじゃないですかね。


「なるほど。恋、か……」


 ニヒルな笑みを浮かべた鹿間は改めてクナイを構える。


「白神は私を人気のないところに呼び出そうとしていた――これはつまり告白しようとしてたってことだ。それを邪魔したアンタはさしずめおジャマ虫ってところかい」

「認知が歪んでますわ。白神先輩は私と結ばれる運命ですので、あなたみたいなイタい忍者コスプレをする女なんて好きになるはずがありません」

「誰がイタいコスプレだ!? 由緒正しい伊賀の忍び装束だぞ!?」

「ふん。私、本当の忍者を知っていますが、もっとしっかり忍んでます。そもそも、他人の敷地まで白神先輩のストーキングなんてドン引きですわ」


 あーうん。ストーキングに関しては本当にそう思う。

 っていうかスキルを抜くとかで天使さんたちに連れられてったのに、よくここがわかったね?


 火花が散りそうな視線が交差し、二人が戦いに入ろうとしたところで野太い声が挙がった。


「千百合、そこで何をしている!?」

「友香子! その男は一体誰だ!?」

「「パパッ!?」」


 スーツ姿の中年サラリーマンと、和服を身にまとったオールバックの中年だ。

 どうやらサラリーマンが鹿間の父親で、和服の方は友香子の父親らしい。

 いや、世間狭くねぇ……?

 鹿間パパが自らのスーツに手をかけて、バサリとはためかせる。

 どういうことなのかまったくわからないけれども、それだけで鹿間パパは忍者装束へとスタイルチェンジていた。早着替えですかね。


「重要な取引を終えて部屋を出てみれば、我が里の『力』をみだりに使おうとは言語道断! そこに直れィ!」

「ち、違っ! これには訳が、」

「言い訳無用!」


 口を挟む暇もなく忍者二人が空中を飛び回りながら忍法合戦を始めた。


 ……どこの里の上忍ですか貴方たちは。


 自分の発言は曲げないのがおれの忍道だってばよ! とか言いそうな動きを見せた二人は、そのまま屋根を飛び回りながらフェードアウトした。

 いや、あの、普通のジャンプで屋根に乗るってどういうことなの……?

 あと変な印を組んでたけども雷とか炎が出るのは一体どういうことなんですかね。ファンタジーはぽんこつ天使と股間の爆発物だけでお腹いっぱいなんだけど。

 屋根を飛び移りながら小さくなっていく影を呆然と見つめていると、和装の友香子パパが庭へと降りてきた。

 プロレスラーのような体躯に立派な(ひげ)も相まって威圧感が物凄い。


「貴様。うちの友香子とどういう関係だッ!?」

「パパ、やめて!」

「友香子は黙っていなさい。――友香子の純真さにつけこんで良からぬことを企んでいるな? コンクリ抱かせて東京湾に沈めてやるッ!」


 なんでこのご家庭は問題解決の方法がコンクリと一緒に海水浴することだけなんですかね!?


「パパ、白神先輩はそんな人じゃないわ! おばあちゃんのことも助けてくれたし、私にも『責任取れるまでは付き合う気はない。だから、良い子で待てるね、仔猫ちゃん』って言ってくれたもん!」

「捏造! 捏造ォッ!! 俺が言ったのは前半だけです!」


 大声で否定するものの、イイ空気をたっぷり吸ってそうな友香子は止まる気配が見えない。


「表では一流の会社役員をしながら裏では組を継いで、家庭では一姫二太郎の良きパパになってくれるんだよ!? パパは勘違いしてる!」

「勘違いしてるのはお前だァッ!!」

「友香子に怒鳴りつけるとは……貴様DV気質だな!?」


 背後に手を回した友香子パパが取り出したのは匕首。常備ですか、そうですか。


「年収5000万越えで友香子以外の女と目線が合ったら腹を切るくらいの覚悟を持つならば指の一本程度で許してやろうと思ったが、もはや生かしてはおけぬ!」

「もはやってなに!? 日本語バグってない!?」


 そもそも年収5000万ってどこの億万長者だよ!?

 そんだけ稼げても指を要求してくるあたり、きっと友香子パパは娘ラブなんだろう。しかしその溺愛ぶりは友香子の彼氏に対して発揮してほしい。友香子自身もキレたら豹変(ひょうへん)するというか猫被ってる感じだし、その上義父がこんな感じとか彼氏さんには同情を禁じ得ないけども。


「ええい! 吐け! 貴様、うちの友香子でどんないやらしい妄想をした!?」

「してねぇよ!?」

「友香子を見たのに妄想しないだと!? 貴様それでも男かッ!?」


 妄想してなくてもキレんのかよ!


「ええいそこに直れ! 貴様の使い物にならん股間を切り落とした上で友香子の魅力を一昼夜語ってくれるわッ!」

「パパ! 恥ずかしいからもうやめてよ!」

「友香子、これは友香子のためなんだ! 分かりなさい!」


 俺を庇うために出てきた友香子を説得しようとする。俺に向けていた悪鬼羅刹(あっきらせつ)のような表情はどこへやら、困り顔で普通のパパさんに見えてしまう。どんだけ娘に弱いんだ。


「分からない! 白神先輩に乱暴しようとするパパなんて大っ嫌い!」

「ゴフッ」


 あ、血を吐いた。

 どんだけショックなんだよ。



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