05.長女ティレニア(上)
私は3人の妹とともに、王族としては簡素な装いで廊下を歩いていた。王宮内とは言え、当然複数の侍女と兵士たちが付いている。
「お姉さま」
末の妹、より正確には同母の3人の妹の中で一番下、末妹のアヴェンナが話かけてきた。
「どうしたの?」
アヴェンナはまだ11歳。貴族や王族の女性の結婚年齢としては早すぎるとは言えないけれど、まだ我が身がそういう状況だというのを実感できないのだろう。
「このような会合は少なくとも4回、多ければさらに数回行われると、お父様から聞きました。夫となる人を選ぶには、4回はもちろん、8回でも少なすぎではないでしょうか?」
末妹は随分心配そうだ。
「アヴェンナ。あなたは女王になりたいの?」
「いえ、そういうわけではありません。お姉さま」
必死で言い訳をする妹を可愛いと思う。私は少し笑って妹に言い聞かせる。
「だったらお父様に、まだ選べませんでした、と答えればそれでよいと思うわ。伴侶は誰にとっても大切な問題なの。あなたがそれを負担に感じる必要はないわ」
私の言葉にアヴェンナは少し安心したようだ。アヴェンナはその年齢を考えると相当に聡い子だと思うけれども、正直お父様のやり方はこの子にとって酷だと思う。だがこれまでの王族は問答無用で見知らぬ相手と結婚させられていたわけだから、それと比べるとお父様はかなり私たちに気を使って頂いている。そしてこういった、このアヴェンナのような子の方が、殿方の庇護欲をそそり、頼りになる男性と巡り合うのではないかという気もする。
「そうね、まあ最低限、私と姉さまのふたりが相手を見つければなんとかなるでしょう。有能でまともで、私と気が合う男性がいればいいのだけれど」
次女のシルビアがそういう。お父様たちがお選びになったのだから、おそらくはそれなりに有能でまともな男性が集められているのだと思う。だが、私たちと気持ちが通じるかどうかはわからない。
「ブラストア新侯爵もいらしているそうよ。お姉さまたちのお眼鏡にかなうのではないかしら?」
3女のストラーバがそう言う。侯爵も大変だ。一昨日に王都に到着されたばかりで、昨日はお父様や他の重臣方とずっと話をされていたと聞いた。おそらく王都でしなければならないことも多いはずなのに、今日からはこんなことに駆り出されている。
「ラーバ、ちゃっかり情報を集めているのね」
シルビアの言葉にストラーバが返す。
「私の好みの方だったら、私から話かけるかもしれないけど、どうかしら? 武辺の方よね? 正直お姉さまたちにお任せしたいところだわ」
「そうね、私もまずはお姉さまにお願いするわ」
シルビアまでそんなことを言う。
姉妹で軽口を叩きあっている間に件の会合が行われている広間に着いた。今まさにお父様たちが選ばれた、この大陸中の俊英たちが、将来の王国について意見交換の場として呼ばれている。身分も立場も関係なく無礼講で、新しい大陸統一王国をどうするべきかを若手同士で語り合う勉強会、そこに私たちが途中から参加する。そういう名目だが、私たちが入って来たら、その本当の理由を察することのできないような人間は、ここにはひとりたりともいないに違いない。
貴族の子弟なら、これが私たちのお見合いのようなものだと当主なりから聞いているだろう。聖職者たちもそうかもしれない。また平民たちはそれを知っていても、私たちなどどうでもよくて、人脈作りの場と割り切っているかもしれない。
私たちが広間に入る前に先ぶれの者が部屋に入った。これから私たちが来ること、私たちとも積極的に意見の交換などを行って、王国がよりよい方向に進むように力を尽くしてもらいたい、そんな話をすることになっている、そう事前にお父様から聞いている。
その後、私たち姉妹が広間に入ると、殿方たちは跪いて迎えてくれた。これ、上手く行くのかしら?
その後私たち姉妹は、お父様の指示通り、広間にばらける。アヴェンナは大丈夫だろうか?
そうしている間に私の前にひとりの偉丈夫が現れて跪いた。
「ティレニア王女殿下。昨日は碌にご挨拶できず申し訳ありません。この度陛下からブラストアの地を賜った者にございます」
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100話目途
現代を舞台にした女主人公最強系のお話。今回は芸能界+将棋です。