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03.野営(上)

野営中、俺が荷馬車の修繕状況を確認していた時、後ろから声を掛けられた。


「商会長、ちょっといいですか?」


「ん? なにかあったか?」


「どうやら狼の群れが近づいているみたいです」


100人を超える大集団にも関わらず狼が近づいて来るということは、あちらも大きな群れなのだろう。強力なリーダーがいる、もしかしたら魔力持ちかもしれない。


はあ、当たり前だけど旅はトラブル続きだよな。


「とりあえず侯爵の本陣に行ってくる。軍に出てもらった方がいいだろう」


この大集団には大きく分けると3種類の人間がいる。およそ3分の1が、ブラストア侯爵が率いる軍団の最精鋭たち。3分の1が北雪商会の商隊、残りの3分の1がその他の旅人ということになる。商会は侯爵の御用商人であり、昔から持ちつ持たれつの関係にある。


ブラストア侯爵がルーガ伯爵になるずっと以前、まだ子爵だった頃から北雪商会はその商売と情報収集で侯爵を支えた。昨年のブラストア征服にも、食糧、馬、武器、それらの確保はすべて北雪商会が手配したし、その手配に必要な金銭の借財まで商会が奔走して王国内からかき集めた。


もしあの時伯爵が敗れていたらどうなっていたか? 当然うちの商会もつぶれていたに違いない。だが結果として、伯爵は独力でブラストア王国を征服した。


そして商会もその尽力の見返りとして、ブラストア侯爵に任じられた元ルーガ伯爵から特権を与えられた。今後10年間は北雪商会だけを侯爵家の御用商人とすること。商売の利益に関する税金を3年間免じること。そして侯爵家成立から1年間、侯爵領外とのすべての交易に関しての独占権を許した。そして、いずれも有期の特権と引き換えに、侯爵は商会からの借財のすべてを踏み倒した。


違いがわからない? 10年間独占できるのは侯爵家との取引だ。これから侯爵家がなにを必要とするかはわからないが、食糧とか甲冑とか家具とか美術品などだ。そして1年間は侯爵領とその外部との交易のすべてだ。


交易を独占したからと言って、法外な値段を取れば領内からの不満はすべて商会に向かうだろう。商会長である俺は、人々の生活に必要なものについては利益を適正分しか取らなかったし、新たに侯爵のもとに仕えることになった者たちにも、相場より少しだけ上乗せしただけで、あらゆるものを提供した。恩を着せることを優先し、そこそこの利益を得るに留めた。


だが、そこそこの利益と言っても、元6大国の1つ、現侯爵領とその外部との交易の独占だ。俺はこの1年弱の間に、特権が切れたその後も継続的に利益が上がるような仕組みをできる限り作った。例えば旧ブラストア王都の商店、商会や船団のいくつかを、既に北雪商会の傘下に入れている。また王都の一等地を買い上げて、店や倉庫をいくつか建てた。外部交易独占の特権は俺が王都にいる間に期限を迎えて無効となるが、免税特権はまだ2年ある、他の商人に比べて大きすぎる利益をこれからも得るだろう。


そして戦前にかき集めた莫大な借金の半分は、今回王都で返すことができる。残りの半分については利息分だけ返すことで、既に各方面と手紙で話がついていた。


そしてブラストア侯爵が侯爵として初めて王都に向かうことが決まったため、北雪商会も比較的大きな商隊を出し、一緒に王都に向かうことにした。小規模と言えど侯爵家の軍団と一緒に行動するのだから、比較的安全な旅になるだろう。それに特権が切れる前の最後の大規模な仕入れもしなければならない。商隊はブラストアやルーガの荷物を王都で売りさばきながら荷を減らし、またその土地のものを買い上げて荷を増やした。そして王都で帰りの品を手に入れたら、俺を王都に置いたまま先にブラストアに戻る。俺が王都に残るのはもちろん仕事があるからだ。最初の仕事は借金の返済だな。


もちろんうちの商会で動いている商隊や船は、ブラストアで傘下にいれたものも含めて、この一行以外にもいっぱいいる。ブラストアからここまですれ違った商隊たちも、大半がうちの商会の者たちだ。そいつらから王都の様子をうかがうのも、もちろん俺の仕事だ。そしてうちの商会でない者は、現時点では他の領地へ行く者だけだ。当然独占の特権が切れたら、一斉に他の商人たちも入ってくるだろう。


また侯爵にとっても、侯爵になってからの初めての上洛なので、それなりに恰好をつけないといけないし、旅の途中で必要になる物も出て来る。それらの手配も侯爵家の御用商人である北雪商会が行う。もちろん金は侯爵から出てはいるが、一部は王都までの護衛料として割り引かれている。せせこましいことだ。

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