01.統一(上)
リージア国王とその家族の私室には、招かれたものを別とすると、よほどの急用で無ければ入ることが許されない。今回はその急用に当たる。侍従長を務める子爵はそう判断した。
「両陛下、お寛ぎのところ大変申し訳ございません。北方より報せが参りました。よろしいでしょうか?」
国王が座るソファの横には王妃が。そして夫婦の向かいにはそのふたりの子どもたちが並んでいた。
「悪い報せか?」
「良い報せです。しかし大事なことです」
国王が頷いた。この場で話せと言うことだと、子爵は判断した。
「ブラストア国王が降伏しました。我が軍のルーガ伯爵は国王の自死と領地の没収、そして国王以外の者の罪を問わないことでそれを呑まれたとのことです」
「わかった。明朝、今王都にいる貴族たちを招集する。手配は任せる」
子爵は国王一家に深々と礼をして、その私室を出た。
子爵が出て行き、両親とその娘たちだけが残された。
「お父様、おめでとうございます」
娘たちは静かに父親を祝福した。
「ありがとう。これで私の悩みのひとつが無くなった」
国王はそう言うと少し考えるように間をおいた。
ほんの30年ほど前、まだ先代国王がこの国を治めていた頃、この大陸には6つの大国と、30近い小国が存在した。しかしながら先ほどの報せによって、このリージア国王がこの大陸全土を治めることとなった。
他の5大国の運命はそれぞれ異なる。1国は平和的に統合された。2国はリージアの武力の前に滅んだ。先ほど報告があったブラストア王国もそのうちのひとつとなる。他の2国も軍隊が動いたが、1国は一戦交える直前に降伏したため、分割して配下の貴族とした。元の国王は元王都の周辺だけを治める侯爵となったが、元の王国内にまだ強い影響力を持っている。最後の1国は一戦を交えた後に降伏した。こちらも元王都周辺だけの侯爵となったが、周囲は彼を監視する者たちが治めている。
国王はまた娘たちに話を続けた。
「これからはもう一つ残された大きな問題、それを片付けなければならない」
「あなた」
ここで王妃が夫を止めようとしたが、国王は首を振った。
「もう決めたことだ。お前たちも知っているように私には15人の子がいるが、まだ後継者を決めていない」
ここにいるのは王妃との間に生まれた4人の娘だけ。王妃以外の妾たちに産ませた11人はここにはいない。
「今もまだ決めてはいない。だが、4人にまでは絞った。ここにいるお前たちのことだ」
「あなた」
王妃が止めようとしたが、夫は話を止めない。この機会に話してしまうことに決めたからだ。
4人まで絞った理由は簡単だ。先ほど出た平和的に統合した国、その国はまだ名前だけは存在する。その統合された国を統べる女王は今、リージア王国の王妃として国王の隣にいる。
もし、他の11人の中に傑物がいればそれを後継者と選んでもよかったが、幸いなことに逆だ。11人の妾腹の子どもたちはいずれも、この場の4人のうち最年少の娘たちのように賢明ではなく、人望にも欠ける者たちばかりだ。この時代、女性であることは少し残念だが、ここにいる4人の方が能力的に他の11人より上である。それは女王でもある王妃の教育の成果でもある。
ならば正当性の強い後継者の方が次期国王として良いに決まっている。もちろん、これは国王だけでなく、当然ながら王妃も、そして重臣たちも同じ意見であることを既に確認済だ。
「だがそれ以上はまだ絞れていない。だが選ぶ方法は決めた。1年か2年後までに私は重臣たちと相談して、お前たちの結婚相手に相応しいと思われる独身男性のリストを作る。あまり年が離れている者は入れていないから安心するといい。貴族から平民まで知勇を兼ね備えた者を選ぶ予定だ」
国王はそう言って少し笑うと話を続けた。