蜂蜜
「約束してたお土産だよ。はい、どうぞ!」
「蜂蜜…?」
「そう。妖精って花の蜜を食べるんでしょ?」
「う、うん…たぶん…?」
「妖精は蜂蜜が大好物だよね。僕が食べさせてあげる。はい、あーんして?」
「い、いや、その、ちょっと…」
青年はアタフタと顔を背ける。
蜂蜜をのせたスプーンを構えたリンは、しょんぼりした。
「嫌いなの?」
「好きだよ!勿論!あ、後で頂こうかな…」
リンは唇を尖らせて、蜂蜜をグルグル混ぜた。
絡め取った蜂蜜をペロリと舐めて切り出す。
「お兄さんはあ、好きな人居るの?」
「何だい?急に。」
「いいから。教えてよ。」
「そうだなあ…昔はいたかな?」
「今でも好きなの?」
「どうだろうな…あんまり昔の事過ぎて忘れてしまったな…」
「ふうん!」
リンは蜂蜜をグルグル混ぜる。
リンは泡立っていく蜂蜜だけをじっと見ていた。
「でも、リン君に言われて久しぶりに思い出したな…」
「…どんなこと?」
「子供のリン君に話して楽しい話じゃないよ。」
リンは頬を膨らませた。
「馬鹿にして!僕、子供じゃないよ!」
「ごめん、ごめん。そうだなあ…」
青年は嘗てを思い出すように、懐かしい目をした。
「好きだったんだと思う。とても。だけど…」
「何?」
「…思うようには上手くいかないものなんだよ。リン君も大人になったら分かるよ、きっと。」
「また、子供って馬鹿にした!」
リンは、蜂蜜のビンを勢いよくテーブルに置くと、窓辺に行き身を乗り出した。
「なあんにも無い!お兄さん、こんな所にずっと居て楽しいの?」
「楽しいよ。この村の人達の様子がみんな分かる。お父さんは仕事かな、お母さんはご飯の支度かな、子供は学校に行って、今日も元気そうだなって。」
青年は微笑んで、リンの顔を見る。
そうして、また遠くに視線を飛ばした。
その時にはもう笑顔は消えていた。
楽しいと言いながら、ちっとも楽しそうじゃない青年の横顔を、リンはじっと見詰めた。