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マイティ・ドール  作者: 哀井田圭一
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見慣れない軍服の男

 その日、『ホーム』に見慣れない男達が入ってきた。


 軍服を着込んで、真っ直ぐ背を伸ばした、沢山の男。

仕事をしていた僕は、訳が分からず、階段を下りる彼らを凝視していた。


 彼らは人形の並ぶ室内を、散らかった部屋を見る様に見て、忌々しげに舌打ちをした。

ココに来れると言う事は生身の人間だろうけど……僕は慌てて目を反らして、仕事をする振りをした。


「ミスミ・ジュンは、君か?」

 1人の男が室内に響き渡る声で言った。


「あ、はい。僕です」

 どうやらこっちに来いと言うことらしい。


男は軍人特有の威圧感を持っていて、高い身長で僕を見下ろした。

皺のある顔を見る限り、やっぱり生身のようだ。


「今日から、『ホーム』は士官軍医が取り仕切る。管理制度も、内容も、著しく変わる」

 はぁ。生返事をすると、それが気に入らなかったのか、男は眉毛を上げた。


「ミスミ・メチカはお前の親族だな」

「はい。姉です」

「新・生命器容具取扱法により、職員の減数が求められている。何人かはセンターポールの機密部の職に移って貰う。家族で働く者は、うち誰か一人だ。君の場合は、君か姉かどちらかが、センターポールに就いて貰う事になるが――」


 やっぱり職員減らされるのか。『ホーム』で働く者は、大抵が家族単位だ。

じゃあ、僕が行きます、と言おうとした所で、男は言葉を続けた。

「すでにミスミ・メチカが移動を希望した。だから君は、今の仕事を続けて貰えば良い」


 僕は慌てて聞き返した。

男は正確に、同じ事を言った。姉が、移動を希望して、もう今朝移ったと。


「でも、姉は『ホーム』付きですが、人形技師ですよ、開発部。『ドール』については、姉のほうが詳しいです」

「今のところ、知識の多さは求められていない。お姉さんも、これ以上『ドール』を開発する必要も無いし、管理者としては弟の方が慣れているから、と言う理由で希望し、それは受理された。弟によろしくと、言っていた」

 口調は無機質で、有無を言わさぬ物だ。ちょっと待ってくれ、つまり姉はもう……


「新法、共同管理責任制度は知ってるか?」

「はい? ……いえ、知りません」

「管理者の不適切な行為を予防するために、万が一何かが起こった場合は、共同で責任をとる事になっている。それは、故意、思考に関係しない」

「あの、つまりどういう事です?」

「真面目に仕事をすれば良い、と言う事だ。誠実に仕事をしている分には、関係の無い。ただ、何かしらの不遜を働いた場合、その責任は親族の管理者にも負ってもらう。と言う事だ」


 僕が命令に反した事をすれば、姉にも被害が行くと言う事か。そこまで厳重にして、いったい何をやろうとしているのか。

 嫌な予感がした。何が変わってどうなるのか、想像が付かなかった。


「それと、君のお姉さんから伝言だ。『荷物は渡しておいた』処分する暇が無かったから、どうにかしてくれ。と言う事らしい」

 はぁ、僕はまた生返事をして、鋭い視線を落とされた。


「まぁ……数ヶ月後には本格始動だ。とにかく君は、いままで通りの仕事をしてくれれば、いい」


 僕は不安感を抱いたまま、帰って行く男を見送る。振り返って人形を眺めると、やっぱり、寂しそうに見えた。


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