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マイティ・ドール  作者: 哀井田圭一
4/15

1人で眠り続ける人形

「遅かったじゃない」


 仕事を終えて地上街に出ると、彼女はそこに立っていて、

私を待たせるなんてどういうつもり? 

と不機嫌な顔をした。


「君は……あの時の君だよね」

 僕がそう聞くと、彼女はますます顔をしかめて、他に誰が居るのよ。と怒った声で言った。


「それともあんたには、こんな物好きな女が他にも居るわけ?」


 爆発前と変わらない彼女は、僕の体を一通り眺めて、

「心配したんだから」

とはき出すように言った。


「ありがと。怪我はそんなに無かった。右腕、吹き飛んだくらい」

「ねぇあの時、あんた私を盾にしなかった? おかげで私、木っ端微塵だったんだけど」

「うん、した。だから僕は助かった。ありがとう」


 彼女は、フンと息を吐いて、まぁいいわ。と呟く。

「お礼に何して貰おうかしら。ショッピングの続き? 食事が良い? それとも、ウチに来る?」


 僕はほとんど驚いて、何を選んだが覚えていない。

ただ気が付けば買い物を済ませて、食事を終えて、彼女の家に来ていた。

そこは、ため息出るくらい、大きな地下スペースに、これまたため息が出るくらい、豪華で大きな家だった。


「びっくりした」

 正直にそう言うと、しないほうが珍しいわね、もしくはバカ。と、彼女は言った。


「良い物見せてあげる」

 そう言って、分厚い扉を開ける。

金庫ばりの扉で、暗証番号と光彩チェックをして、もう一つ扉をくぐる。


「もっとびっくりした」

 そこは、決して広くは無かったが、ピンクの壁紙の、おもちゃやぬいぐるみがひしめき合った、子供部屋だった。

やわらかいカーペットに、お姫様が寝るようなベッド、天井には青空を映したウィンドゥに、ゆっくりと雲が流れていた。


「私の『ドール』の部屋よ」


 部屋の一番奥に、『彼女』が居た。

クッションに囲まれて『ドール』が座っていた。ピンクの可愛い服を来ていた。

「あれが、私」

 と、彼女は言う。彼女は『ドール』に近づいて、両手で抱き上げた。

クッションの後ろから、ケーブルが伸びて『ドール』につながる。

それはたしかに、人が入った『ドール』だった。


 抱いてみる? と彼女は言う。

にっこり笑って、その人形を差し出す。

「いいの?」


『ドール』を持つ人間――とくに、自分で管理している人間は、それを人に触られる事を嫌う。

それは、生死を人に委ねるような物だから。

「僕がこの子を叩き付けたら、君は死ぬかもしれない」

 僕がそういうと、彼女はフンと鼻で笑った。


「愚問ね。それはあなたも一緒でしょう? 私があなたの頭をたたき割ったら、同じ事が言えるわ」


 たしかに。僕は納得して、丁寧に『ドール』を抱き上げる。

もちろんの事、落としたくらいで壊れる事は無いだろうけど。

それは、腕の中でほのかに暖かかった。


「君はよく、こういう事するのかい?」

「こういう事って」

「誰かに、『ドール』を見せる」

「誰でもじゃないけど、ちょくちょくね。寂しそうだし」


 寂しそう? 僕が首を傾げると、あと可哀想ね。と彼女は言った。


「部屋でポツンとすわって、ずっと夢見てるなんて、可哀想じゃない」

 だから誰かを連れて来たくなるのよね。と、彼女は言った。

 その言い方はまるで、


「姉さんと同じだ」

「姉さん? あんた、お姉さんがいるの? どんな人?」

「んー、君に似てるかな」

 そう言うと、彼女は少し怒ったようだった。


「あら。だから声をかけたら簡単に付いてきたんだ。私は、あんたの大好きなお姉さんにそっくりだから」

 僕は丁寧に人形を戻して、彼女に笑いかけた。


「ごめん。訂正するよ。君は姉さんよりも、ずっと魅力的で綺麗で、素敵だよ」

 彼女は不機嫌に視線を戻して、もっと気の利いた言い回しは無いわけ? と不満を漏らしてから、僕にキスしてくれた。


お読みくださりありがとうございます。

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感想おまちしております。

@mmmm4476902325

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