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マイティ・ドール  作者: 哀井田圭一
14/15

託された荷物

 それは世間では毒ガステロとして処理された。


 首相陣がそろって死んだ為に、反対派が息を吹き返し、この国の内政が反転した。

 新兵軍法徴兵制度は即日廃棄され、『ホーム』も解体。

 軍人は次々と裁判にかけられて、裁かれていった。

 戦争は、休戦協定が協議中だそうで、そのうち結ばれると言われている。

 

 僕は……というと、結果九十八人の死者を出したが罪には問われなかった。

 テロ自体が、姉の単独犯とされたからだ。

 その場には二百人を超える『ドール』の目撃者が居たがその全員が、僕は無関係だと証言した。


 おかげで僕は、平和で平穏な日常に、戻る事が出来た。


「遅かったわね」

 センターポールから出てきた僕を、彼女が迎える。

もちろんのこと、いつものアンドリィ・ドールで、少し微笑んでいた。


「荷物がね、あったから」

 階段を、危なっかしい足取りで下りる。

まだアンドリィ・ドールの扱いに、慣れていない。


「それ『ドール』?」

 彼女が聞く。

布でくるまれたそれを、彼女に見せる。

それは、幸せそうに眠る一人の赤ん坊だった。


「姉さんの子供だってさ」

 彼女はその子の顔をのぞき込むと、僕から受け取って、抱き上げた。

あんたじゃ落としそう。

と彼女は言った。


「女の子だよ。いつのまに産んだんだろう。僕、知らなかった。自分が死んだら、僕に行くようになってた」


 僕は空を見上げて、姉さんの言葉を思い出す。

──生身の人間が出来て、『アンドリィ・ドール』が出来ない事って、知ってる?


歌を歌うこと。

自ら死ぬ事。

そして、子供を産む事だ。


 彼女が僕の顔をのぞき込んで、

行こ? 

と笑いかけてくる。


僕らは青空の下を、並んで歩く。

もう、爆撃機が飛んでくる事もない。

もう、ミサイルが横切る事もない。

 

赤ん坊はすやすやと眠っていた。

それは、どんな『ドール』の寝顔よりも、幸せそうだった。


「姉さんは……これを守りたかったんだな」


 最後、姉さんは笑っていた。

心残りが無いわけじゃ無かったろう。

それでも姉さんは、死ぬ方を選んだ。

死んで、代わりに僕に託す方を選んだ。平和な未来と一緒に。


 僕がやった事が、正しかったのかどうかは解らない。

ただ僕は、自分の守りたい物を全力で守っただけなのだ。


 ふにぃ。と赤ん坊がぐずり始める。

彼女があらあら、と揺すってあやしてしている。

それは昔、あのピンクの部屋で『ドール』を抱いている姿に似ていて、そして違った。

彼女の顔に、あの孤独感は無い。


「ねぇ」

 僕は彼女に言う。


「僕と一緒に、その子を育ててくれないかな」


 彼女は一瞬、僕を見てから、不機嫌な顔してそっぽを向いた。

「そういうのってさ、プロポーズが先なんじゃないの?」


 僕はカリカリと頭を掻いて、真っ赤になった彼女に言った。


「僕と結婚してくれないかな」


 赤ん坊がいつの間にか笑っていた。彼女は涙の流れる顔を伏せたまま、小さく頷いてくれた。


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