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マイティ・ドール  作者: 哀井田圭一
11/15

山と積まれたドール

 ガラガラと台車が運ばれてきた。

手伝ってくれ、と軍人が呼ぶ。僕は仕事から離れて、台車を取りに行く。


「あれ? お前、機械率上がってねぇ?」

 なじみの軍人は、僕の左手を指して言った。


ちょっと空爆で、と言うと、軍人は笑顔で、

気をつけろよ一つしか無い体なんだから。

と肩を叩いた。


 台車を押して開発室まで入る。

広い部屋には、沢山の『ドール』が山積みにされていて、いっせいに視線を向けた。

まるでゴミ処理場のようだった。


「そこに積み上げてくれるかな」

 台車の中も『ドール』で詰まっていた。


 僕は何も考えないようにして、山に積み上げていく。

一つ一つが、恐怖と憎悪に染まった目で、僕を睨んでくる。

きっと、この人たちは、僕の顔を一生忘れない。


 鈍い破壊音がした。スイカをたたき割ったときの様な、嫌な音。

部屋の隅で、何人かの軍人がハンマーを振り上げていた。


「な、」

 その光景を見て、思考が止まった。

軍人が次々と『ドール』をたたき割っていた。


「あぁ、あれ? 普通は電気ショックなんだけどさ。なんか間に合わないらしくて。いやぁ、『ドール』を『ホーム』に預けない奴が多くてさ、なんか協会作って自分達で隠していたらしいよ。昨日、いっせい検挙されたんだ。だからこの大にぎわいなわけ」

 なじみの軍人は、にこやかに説明してくれた。


『ドール』は端から壊されていく。

壊しても壊しても、あとから台車で運び込まれてくる。

部屋の中は、殺されるのを待つ人形と、屍骸と化した人形が、積み上がっていく。


 左手がギシリと痛んだ。

気のせいだ、と思いこんで、痛みを忘れる。

助けてあげられなくて、ごめん。と無言で言う。


 室内には、沢山の軍人がひしめき合っていた。作業する人もそうだが、見張りか何かか、ただ立っているだけの人もいた。


 左手がまた痛んだ。まだ早い、と僕は呟く。

 夜まで待てば人が減る。また警備も手薄になって、そしてこれで――


 空になった台車に手をかける。

山の横を通って、出口へと向かう。

なじみの軍人が、ありがとなー、と手を挙げていた。


――…… 寂しいのよ ……――


 それは視界の端に入って、そしてこびり付いた。

認識するより早く、首が動く。

口から勝手に声が漏れた。僕の目は確実にそれを見ていた。


 積み上がった山の端に、ピンクの服来た、あの『ドール』があった。


 僕の思考が止まった。

見開いた目がこっちを見ていた。

沢山の人形に紛れて汚れていた。

だがそれは確かに、前に僕が抱いた、ピンクの部屋で座っていた、あの人形。


 そこに居るのは、彼女だった。


 辺りから音が消えた。


僕の目は彼女だけを映していた、それは、僕が何を犠牲にしても、助けたいその人だった。


 彼女に軍人の手が伸びていた。

 思考は消えた。

僕の頭は、何も考えていなかった。

ただ目の前の、彼女だけを見て飛び出していた。

何も考えてなかった。他の事はどうでも良かった。

走り出した僕に、軍人が気付いて、止めようとする。それをかいくぐって、彼女目がけて走った。

辺りが雑然と動く。僕は必死に、手を伸ばした。

 三人がのしかかって、僕を押しつぶした。

僕の腕は数十センチ、彼女に届かなかった。むちゃくちゃに暴れて、必死に手を伸ばす。その腕をだれかが踏みつけた。


 ガチャリと金属音がした。

やっと耳が音を認識した。

拳銃が、彼女に突き付けられていた。


「暴れないでもらおうか」

 銃を持って、涼しげな顔をしているのは、なじみのあるあの軍人だった。


 体から力が抜けた。腕が押さえられて、そのまま体を引き上げられる。

「左手をはずせ。高性能で、毒ガスが仕込まれているらしい」


 僕は軍人の顔を凝視した。

鈍い痛みが走って、肩から腕が抜ける。

いつもと同じ笑顔の彼は、何か言おうとした僕を制して、視線を外した。

その視線の先、部屋の入り口。軍人を引き連れて立っていたのは、悪夢ですら見た――


「首相……」


「やぁ、ミスミ・ジュン君。会うのは初めてか? 私の名前は知っているだろう」

 首相は笑みを浮かべながら、僕に近づいてくる。

僕の顔から血の気が引いていく。


「結構簡単にボロを出したな、こんな事なら早めに拘束しておいてもよかった」


 僕の喉が震える。言いたい事はいくらでもあるのに、言葉にならない。絡まったようなうめき声が、かろうじて出る。

「ど、ど、ど……」

「どうして知っているのかと聞きたいのか? そうだな……昨日深夜に、違法診療の病院が摘発されてね。どうやら、禁止されている種類の義手が移植されたと。それで踏み込んだら、おかしな通信履歴を見つけたのだよ。誰だったと思うかい?」


 首相は後ろを振り返った。

二人の軍人が入ってきる。

誰かの後ろ手に拘束して、引きずっていた。

女性に見えるその人は、遠目から見ても血だらけで、ボロボロに傷ついていた。

軍人が髪を掴んで、その顔を引き上げる。殴られて腫れた顔が目に入る。それは――


「君のお姉さんだ」

 それは、久々に会った、姉の姿だった。


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