変化の兆し
大分間が空いてしまいました。あちこちふらふらしてるせいで申し訳ないです。今後も見捨てず読んでいただけると嬉しいです。
チェルスヴェルト樹海にある死海。拠点<サラーサ>で守護者ラシュナイと傍にいる狼に似た風貌のセイリヤ。
二人はジェフィティールから受け取ったVRスーツとアバターが届くまで、正直退屈な日々を送っていた。
この樹海全域にパスが通ってから、このコントロールルームで監視も警戒も楽に出来てしまう。それにただでさえこの樹海に踏み入れる無謀な者たちがいない。魔獣と獣がいると思いきやこれまた死海には全く近寄らないし、樹海内も視界から遠く離れた場所にしか小競り合いがない。
その小競り合いというのも魔獣対魔獣や獣対獣、魔獣対魔樹くらいで全く拠点になんら影響がない。情報収集と言っても樹海に生息する樹木草花から魔獣などまで生息域から生態も調べ尽くしてしまった。そんな状況で眷属を生み出す許可はまだなかった為、二人は退屈で鬱々としていた。そしてそんな所にVRスーツが届いたものだから、大喜びで使いまくったのだった。
『セイリヤ。今日は外周の魔獣が多く生息している所に行きましょう。少し増え過ぎているようですから。』
『ー解った。あのタイプは直ぐに増えるようだな。別の場所でもこの前間引いたのに。ー』
『このアバターのお陰で手加減がしやすく、間引きやすくなって良かったですね。この樹海はある程度安定した区域ですから間引く回数も少なくて、私たちの力の練習もたいして出来ませんから。』
『ーそうだな。新しい任務でも承れたら良いのだが、なかなかお声がかからない。ー』
『父上様が心安らかに過ごされていることは喜ばしいことですが、私たちも父上様のお役に立ちたいものですね。』
『ー…近くに居たいと素直に言えば良いのではないのか?ー』
セイリヤの言葉が図星なだけに否定したくても出来ないラシュナイは、簡単にその言葉を口にするセイリヤが恨めしいのだった。同時に生まれたのに性格が違うのは何故なのか、獣の姿なだけ思考が単純なんではないかなどと、嫌味の一つでも言ってやりたい。本当はただ、その素直な性格が羨ましいと思っているだけなのに、その気持ちを外に出すことがとても難しいことだった。それでもお互いの気持ちが理解できている分言葉にしなくても問題がないのかもしれない。
二人のアバターは、どちらも霊獣の様であり悪霊の様でもあった。アバターのコンセプトに凝った感じがするのはもちろん気のせいではない。
「樹海の奥の死海に拠点があるんだし、雰囲気がある方が勿論いいでしょ。」
きっとそんな事を考えなが作成したに違いない、と二人は確信している。拠点に生を受けてから今まで魔獣と獣、魔樹くらいしか生息できないし、魔獣同志の争いもほぼない。正直する事がないのだ。気まぐれに魔獣を脅したりしているだけの時間がとても貴重な気晴らしとなっている。元々、悪霊の元になる様な怨念の残滓が死海に集まるようにジェフィティールが創り上げたシステムも、ここ最近は集まる量が増加している事が気になっていた。この情報は既にスィフィルに報告されているが、このシステムの良いところは、怨念などの残滓を集め、悪霊を生み出し、その悪霊をラシュナイやセイリヤが討伐し、浄化する流れができているところだ。ただ浄化するだけだと怨念などの残滓が残りやすく、知らぬ間に彼方此方で悪霊になり討伐するにも浄化するにも効率が悪い。そう考えたジェフィティールが作ったシステムはラシュナイたちの気分転換にも役に立っていた。
その悪霊たちが最近は増えてきているのだから、ラシュナイやセイリヤは楽しいが、楽しいと言っているだけではいけない事ぐらいは二人とも理解しているのだ。全ての悪霊を討伐浄化するのではなく、この樹海のバランスを崩さない様にしているのでラシュナイとしてはアバターで小技が効くため、より楽しんでいた。
『それにしても、急激にではないけれど確実に悪霊系が増えていますね…。この十日で以前の五倍とは流石に報告すべき数字です。これ以上様子を見る必要はないと思いませんか?自信を持って報告いたしましょう。』
『ー……五倍と言っても余裕で対応できる数だが…。はぁ、そこまで満面の笑顔でいてはダメだろう、もう少し深刻な顔つきで報告すべきではないか?ー』
『はっ、そ、そうですね。これは報告すべき深刻な事態ですからね!』
『ー…そうは言っていないが、まぁ、そういう事で良い…ー』
ラシュナイはジェフィティールに報告する事ができ、内容の精査によってはジェフィティールが拠点<サラーサ>にきてくれるかも知れないと、嬉しくて仕方ないようだ。もちろん、セイリヤだって嬉しいのだがラシュナイの喜びようをみて落ち着いて見えるだけで、尻尾は大きく振られていた。
ジェフィティールとスィフィルが拠点<サラーサ>に転移してきたのは翌日だった。
ラシュナイの報告に慌てて来たと言うよりも、喜び勇んでやってきた様であった。そしてその事に誰も疑問には思わないのが彼らのジェフィティールに対する信頼の証なのかもしれない。
「久しぶりだね、二人とも。退屈だったでしょ。」
『誠にご健勝で何よりでございます、父上様。最近は楽しい事も増えてまいりました。』
『ー退屈という意味が理解できました。ー』
「ふ、退屈は人を殺せると俺は思ってるから、今回は退屈しないようにお願いもしようと思って。」
『お願い、ですか?』
「そ、<サラーサ>のリフォームとか、周辺の再構築とか、色々ね。」
ジェフィティールは拠点<サラーサ>の今後の役割を説明した。
チェルスヴェルト樹海と死海と拠点の関係性をそのままで、より死海の役目である怨念などの残滓を吸収して悪霊などを生産する性能を上げる事。樹海内の魔獣、魔樹などを豊富にさせる事。拠点の機能をあげ、眷属を配置し樹海内の食物連鎖を高いレベルで維持する事。この三点が大きな指針となる事をジェフィティールに代わりスィフィルが説明した。そしてそれに伴いアバターの性能も上げる事や、見た目に関して希望があるかどうかをラシュナイとセイリヤに質問した。
『私はこの姿がとても気に入っておりますが、仕事としてアバターを使い熟したいので、仕事としてここに相応しい姿、悪霊王の様なアバターを希望いたします。』
ラシュナイはどうもその役になりきりたいのか、ブツブツと細かい設定を呟いている。セイリヤといえば、その様子を横で見ながらため息を一つ吐くと、仕方ないという様な雰囲気で自分の意見を述べた。
『ー我は、この姿に誇りを持っている。故にアバターも、と言いたいのだが…。ラシュナイと対立する魔獣の王、という様なアバターが良いと考える。ー』
ラシュナイとセイリヤは二人とも態度がしっかりしていて、アマルと違い大人なんだなと思っていたが、二人の関係性としてはやはりアマルの所と同じでセイリヤの方がしっかり大人な様だ。ラシュナイの希望を優先して一歩引いている様だからそう見えるだけかもしれないが。
ジェフィティールはその場で二人の要望に応えた形でアバターの改良をし、かつ趣味の部分を刺激されたのか細かい機能も付け加えたが、その事は秘密機能として誰にも告げずこっそりと誰にも気づかれずに終了していた。その間にスィフィルは樹海内の詳細な情報把握と死海の状態、全体のバランスの把握に勤めていた。ジェフィティールがアバターとVRスーツの改良が終わった時には、準備万端という、秘書の鏡のようなスィフィルであった。
「ありがと、スィフィル。さすがだね。」
『当然の事です。これくらい出来なくて父上と共に行動など、烏滸がましくて申せませんから。』
ちらりとラシュナイの方にスィフィルの意識が向いたように感じたが、視線はジェフィティールの方に向いたままだった。ラシュナイは自分に対する叱責に近い圧を感じ、肩身が狭くなる。ジェフィティールも感じる圧なので、相変わらず厳しいなスィフィルは、と思っていた。
死海の機能。その一つは怨念などを集める事だが、何をどのように恨んでいるかさえもわからなくなってしまった念の収集機能だったのだが、その機能のみ発動できる物を樹海の端に点在させ、若い怨念というべきか、怨念となって時間も経っていない、何をどの様に恨んでいるかその気持ちが残っているものも、収集できる様にし、悪霊になっても意識が残る場合、上位悪霊になれる様にした。
何故、樹海の端にその様な物を設置するのか。怨念などになり残るものは大概人族、知能はあれど欲に塗れたもの、戦争など欲が原因の殺し合いで大量の命が失われた時などにこの世にしがみつく程の怨念が生まれやすいからだ。樹海内だけでは人も来ないし魔獣などが殺し合っても怨念などにまでなる強い感情は生まれずにいる事がほとんどだ。その為に人の生活圏に近い所に石ころの様に気にならない収集機を点在させる事にしたのである。
何故、上位悪霊になれる様にしたのか。怨念になる様なものはジェフェティールにとって特に警戒すべきものではない。例えそれがいつか上位悪霊になったとしても問題ない。だが、欠片自然発生的にいつ上位悪霊になるかはわからないし、どこでその様に進化するかわからなければ対処も遅れるし、研究もできない。浄化してしまえば怨念の中に隠れている魂の欠片達は、魂の流れる場所へと勝手に旅立ち、残りはエネルギーとして世界に還元される。ジェフェティールにとっては研究と浄化、一石二鳥にはなるシステムができたのである。
実際には他にもメリットはあるが、そこは大して重要ではないとスィフィルも思う。
「眷属達は前からラシュナイが欲しいって言ってたんだし、ちゃんと計画的にやってくれるなら好きにして良いからね。」
『!ありがとうございます、父上様。セイリヤともよく相談して決めたいと存じます。』
『ーうむ、ご安心めされよ。ー』
「勿論期待してるよ。此処は他にはない特別な場所だからね。」
『張り切りすぎない様注意しなさい。決して父上の邪魔だけはしない様に。』
『『畏まりました。』』




