アーシラの気持ち
「ところで、アーシラ。君にはここで皆んなと協力していろんな事をして欲しいと思っている。」
『いろんな事、ですか?』
「そ。ここの防衛は十分機能しているし、君が加わってより完璧な監視防衛体制は整うだろう。だからこれからは、精霊の森との共存以上に協力体制と、それよりも重要なのはーーー」
『?』
「研究開発だ!」
「『はい?』」
そう、俺にとっては最重要と言っていい。魔法で何もかもを済ませるのではなく、この世界の未知なるものを発見して研究して新しいものを開発したい。くだらない物でもいい、役に立たなくてもいい、破壊するものでなければなんだっていいんだ。地球では役立つもの便利なものを追い求めていた研究者たち、新たに発見されたり開発されたりしたものたちは先ず、破壊するものに使用された。それから生活に落とし込まれて行くなんて、それが世界の常識だったのだから堪らない。こことは世界観も文明も何もかも違うが、人族の俗物的な考え方、性質はここも地球も大差はない様に思う。だからこそ、どうか地球とは違う進化の道を進みやいと思っている。どうせ似た進化になる事は止められないが、それでも、この世界だからこその進化の道を探したい…。
恐竜のような魔獣や獣たち、精霊や聖獣などが存在し、天人、獣人、水人、人族などの諸種族が現存しているこの惑星で、発展する為に他者を排除や支配するのではなく、互いに負担を負い益を得る関係になっていく様に、と考えている。そう、酷い事を考えていると言われるかもしれない。何故なら、俺が、俺たちがこの惑星の頂点で君臨し、動植物、魔獣も含めた生態系を大崩れしない様コントロールし、発展させていこうと考えているのだから。
「(まぁ、君臨するつもりなんてこれっぽっちも無かったけどそうも行かない感じなんだよなぁ、スィフィルに言わせると…。好きな事だけしたかったけどやらかし過ぎで迷惑かけてるし、俺が好きに生きる為だからな、そこはちょっと頑張らないとね。)」
ポツポツと考え事をしているジェフィティールの横で、スィフィルはアーシラに話を続けた。
『父上の言う“研究開発“は主にメヒモンテスが主として動いて行くでしょうが、アーシラとしては何か望む事はありませんか?』
『望む事、ですか?私が望んでもよろしいのでしょうか?』
『勿論です。アーシラが望む事を述べて下さい。』
『それでしたら、叶わぬ夢とは存じておりますが、私は父上のお側で父上のお役に立ちたいと存じます。』
その言葉を聞いてスィフィルがほくそ笑んでいた、様に見えたのは俺だけではないだろう。声の掛け方は生まれたばかりのアーシラに優しく希望を聞いているように聞こえたが、あの表情からは、どう考えてもアーシラが<アルバア>の要所に据えられる事が決定する前に、手を打ったように感じる。いや、ほぼ決定していた事を覆そうとしていたのではないだろうか。魔力や知性など鑑みて自分の補佐に欲しくなったのかもしれない。だが、そこはメヒモンテスも即座に反対してきた。
「確かに、アーシラ本人としてはそう望むだろう。私とて師匠と共に研究開発したいしな。師匠の役にも立ちたいと思っている。しかし、ここ<アルバア>で師匠に生み出された訳だし、師匠の役に立つ事も出来ると思っているぞ。」
『?ここでも役に立つことが出来ますか?』
「当然だ。師匠が不必要な場所など保持したり運営したりするわけはない。つまりここで為す事は全て師匠の役に立つと言えよう。」
『お役に立てますでしょうか?』
アーシラは確認をする様に俺の顔を見る。ここですぐに納得しない事は、危機管理的にも最低限必要な能力の一つだ。ーーーが、俺を巻き込まないで話し合って欲しいものだ。スィフィルの補佐が欲しいのもわかるし、アーシラを逃したくないメヒモンテスの気持ちもわかる。いや、正直、メヒモンテスの方が仕事量よりも精神的に必要に迫られているかも知れない。俺はメヒモンテスに負担をかけすぎている事をヒシヒシと感じていた。スィフィルの負担も半端ないだろうが、眷属やその他にも分担できる者が腹心としているのと、いないメヒモンテスでは大きな違いがある事は誰が見ても明らかだろう。
「そうだね。ここでメヒモンテスの手助けをして、いろんなものを発見して、研究して、何か新しくて面白いものを開発出来たらいいよね。」
『父上様のお側に居られずとも役に立つと言うのであれば、私はここに残りましょう。』
『仕方ありません。ここでしっかりと父上のお役に立つ様頑張りなさい。』
スィフィルはあっさりとアーシラが<アルバア>に残る事を了承した。あれ?アーシラを引き抜くつもりだったんじゃないのか?俺の勘違い?あの笑みはそんな意味じゃなかったのか。ちょっと俺はスィフィルの事を裏がある様に考えすぎかもしれないな、なんかいつも深い所で悪巧みでもされている様な気配を感じるんだよね。ドッキリじゃないけど、なんとなく…ね。その為か全面的に信頼している筈のスィフィルの行動や言動に、いつも少しだけ警戒してしまっているのかもしれない。メヒモンテスの表情からスィフィルの言動に俺と同じ感想を抱いている事を理解した。
「(望んだ様にアーシラが<アルバア>に残る事になったのに、スィフィルに嵌められた様な気がするのは何故だろうか…。師匠よりもスィフィルの方がその点、恐ろしい。師匠に仇為す事だけは無いと思うが…。)」
メヒモンテスはスィフィルに対して対抗心や嫉妬心など持ち合わせていなかったが、少しだけ疑問を持つこととなった。それは、ともすればすぐに忘れてしまえる程度のものだが、確かに芽生えてしまった不信感だったのかもしれない。アーシラは知識量がまだ少ないものの、人の気持ちの機微には敏感でここにいる誰よりもそれぞれの思惑を理解している様だ。だからと言って彼女がその事を口にする訳でも、何か対応する訳でもない。それはジェフィティールの指示がない上、ジェフィティールの利益になるとの判断もつかないからだ。アーシラにとってスィフィルは兄、若しくは先輩の様な存在であるが、スィフィルの指揮下に入るつもりは無い。アーシラの絶対的に尊守すべき存在はジェフィティールだけだから、ジェフィティールの害にならない限りはスィフィルやメヒモンテスの意向に反するつもりはない。
『私はここ<アルバア>で、アマルやメヒモンテス達に協力し知識を得て父上様のお役に立てるよう努めます。いずれ父上様と共に行動しても恥ずかしくない様になりますので、その時は、お側に使えることをお許し下さいますか?』
本当は離れたくないんです!と、思いっきり意思表示してくるが、見た目は17、18歳ほどの華奢で見目麗しい女性が両膝をついて胸の前でぎゅっと祈るように手を組まれては、俺のような小心者は頷くしかないのだ。
おかしい。何だか誰も彼もが、俺の事を手のひらで転がして楽しんでいるのではないだろうか?そんな考えまでが浮かんでくる。まぁ、それはそれで平和な証拠ではあるのだけれど。
「じゃ、俺たちは<ヤクシェム>に戻るよ。アマル、ロイ、メヒモン、アーシラ、それにみんなも後はよろしくね。気負わずに楽しくやるんだよ。」
ジェフィティールたちは簡単に挨拶して<ヤクシェム>に戻っていった。その日アーシラが生まれたと同じくして、鍾乳洞の湖の底にあった卵が全て割れて、眷属が6人生まれた。ジェフィティールがアーシラを生み出した時の魔力が結界内のあらゆる所に影響を与えていた事は、後に<アルバア>にいる全ての者が理解した。




