試アバター
随分間が空いてしまいました。今後も不定期になりそうですが、良ければお付き合い下さい。
拠点<アルバア>は人の踏み入れない森の奥深くにあり、魔獣の種類や数は少なく、獣と魔樹の数が多い場所だ。魔獣の数が少ないとは言え、群れをなす魔獣のため出会う時には一匹ではない事がほとんどの為、魔力能力の低く弱い人族がこの森の奥まで来る事ができないと言うのが実情ではある。環境が良い所に拠点を作った訳だが、アマルの眷属たちによってその環境も変わりつつあった。
ー魔獣たちが生息域を変えたのであるー
拠点の外周を警戒、監視している為魔獣と鉢合わせることが多々あり、生存競争に負けた形で魔獣たちは移動していった。ただし、獣たちは眷属たちに鉢合わせる前に距離を取るので生息域を変えずに共存できている様であった。問題は生息域を変更した魔獣たちにより、人族が狩や素材収集に来るエリアに影響がで始めた事だった。
「まぁ、多少の影響が出ても今の所は大した事にはならないだろうが、アマルの眷属たちではない監視を増やして経過観察はしておくべきであろうな。」
『それなら父上様の精霊たちにお願いすれば、良いですデショ?あちこちに居るし、暇そうだし、きっと手伝ってくれるデショ。』
「は?師匠の精霊たち?何のことだ。私は全く聞いていないが?」
『あれ?メヒモンより先に居たから言うの忘れたデスかね。じゃ、今言いました。』
「………………。」
メヒモンテスは固まった。こんなに長くフリーズしてしまったのは初めてではないだろうか。何でそんな重要な事を言い忘れるんだ?何でそんなの大した事じゃないと言うような態度でいられるのか理解ができない。文句も言いたいがアマルは既に話は終わったと次の話を始める。
『じゃあ、父上様の精霊達に精霊達の仕事を割り振ってもらって、細かめに報告してもらえば良いんじゃないデスか?コレで穴はないですデショ?』
「んん?何か説明がおかしくはないか?」
『何がおかしいんですか?』
「師匠の精霊達のリーダーに仲間の精霊達を統率して、魔獣や獣達の生息域の変化などを報告する様にお願いするわけだろう?違うか?それともリーダー格が複数いるから複数のグループで監視をするのか?ソレは流石に無理ではないか?」
メヒモンテスは精霊の性質上、他者のいう事などお構いなしの勝手な存在だと思っている。気紛れで願いを聞くこともあるが、どちらかと言えばやりたい様にする事が彼らの本質だと理解しているのだ。いくらジェフィティールによって生み出されたとしても精霊という本質は変わらないと思っている。
『???メヒモンの言ってる事よくわからないですデス。』
「私は君の言ってる事の方が理解できないが?」
2人して頭を捻っているが、その場に正しく説明できるものはいなかった。ジェフィティールが生み出した精霊だろうと、“精霊“、と言う存在として一括りに考えているメヒモンテスと、元からいる精霊とジェフィティールの生み出した精霊を全く別の存在として分けているアマル。認識が少しだけずれていることが余計に2人の理解を妨げていた。そんな所にジェフィティールの精霊だろう、ハチドリの様な姿の精霊が現れた。
「:アマル様。スィフィル様より伝達です。ーーー」
『父上がお作りになったアバターを転送するので転移陣にて待つように。一応メヒモンテスにも使用できるものは父上が作られたが、使用時の魔力消費を抑えるためサイズが小さく能力も低い。不満であれば使用する必要もない。メヒモンテス用のものは実験段階にある為できれば使用して経過など報告を期待する。アマルのものについては<アルバア>から離れ辛いだろうからとのお気持ちから作られているので、有り難く使用する事。決して<アルバア>(父上)の存在を他者に知られる事のないように行動すること。』
「ーーー以上お伝えいたしました。:」
伝達に驚いていたのはメヒモンテスだけでなくアマルもだった。以前ジェフィティールが生み出した精霊を見たが、アマルとは会話が出来なかったし、このような事ができるとは思ってもいなかった。ただ、ジェフィティールを尊敬しているアマルにとっては驚いたとしても、すぐにできるものはできると理解するのだった。そして、言われた通りに転移陣の場所に移動する。メヒモンテスは先ず精霊が姿を見せているところから理解しなくてはいけなかった。精霊という存在は知識として持っているものの人の目に触れることはなかったのだ。遥か昔から伝えられている姿とは全く違っていた。尚且つこの様に聞き取れる話ができるという事まで、知らない事ばかりだ、メヒモンテスの探究心が一気に噴き出したが、アマルと精霊が共に移動して行くので慌ててついて行く事にした。
転移陣で受け取ったアバターはメヒモンテスは青年で狩人タイプ、明らかにメヒモンテスとは反対の筋肉がしっかりして陸上の短距離走選手のような雰囲気で長髪、色黒な好青年だ。アマルは何故かメヒモンテスのアバターに似た子供タイプだった。受け取った2人は誰が見てもわかるほど落ち込んでいた。アバターがどんなものか体験したくて送ってほしいとは伝えていたが、自分と真反対のタイプが来るとは思っていなかった。アマルにしてみれば何故子供なのかと言いたいが、自分が未熟な事から仕方ないと諦め、色々と言いたい事や聞きたい事もあるのだが2人はVRスーツを着込みアバターを起動した。
「(はぁ…。精霊の事とかこの巨体というか私より身長の高いアバターを小さいとか、アバターの性能とかアバターで何をさせたいのかとか、色々ありすぎなんですよ師匠。いつも後で問題を押し付けてくるんですから…、いいかげんその性格を直していただきたい。)」
『(…父上様はやっぱりアチシの事一人前には見ていないんですデスね。メヒモンのアバターの子供版っていうことはきっとメヒモンの妹的な扱いなのデショ。もしかしたら、妹より子供かも?)』
起動したアバター同士で大きなため息を同時に吐き、慌てて目を合わせる2人の視線はあまりの落差にその姿はもう親子としか見えなかった。驚いたことに自身の体と感覚に齟齬がない。呼吸から瞬き、手足指先、何かしらの違和感があるとすれば、ソレは魔力だろう。メヒモンテスにとっては魔力の容量が増えた感覚、外付けのバッテリーをいつも身につけている感覚に近いものだ。魔法も本来使用した事もないものが使用できる、体が覚えていて、出来ると確信できる不思議な感覚。アバターとは生まれ変わったような感覚なのかとメヒモンテスは思っていた。だが、アマルはアバターに別の感覚を覚えた。見た目は別として感覚を確かめているとどちらかと言えばジェフィティールに名をもらい、存在がこの世界に固定された時以前の身体を持ち得ていなかった頃、拠点<アルバア>の一部であり、ジェフィティールの“記憶と能力“の一部でもあった頃に似た感覚。そう、身体がなくなって軽くなった様な感覚に近く、魔力だけでなく思考もスッキリしていた。自身の身体が気に入らない訳ではないが、いつもどこかチグハグな、落ち着かない感覚がずっとあった。それが今のアバターはそんな違和感が全くないのだ。
アバターの感覚を確かめている2人に念話が入る。
「もしもーし。聞こえるか、2人とも。俺だ、ジェフィティールだ。」
念和の直前にピッと意識に割り込んでくる感覚があったため、それ程声に驚くことはなかったが、相変わらず突然連絡が入るものだとメヒモンテスは思いながら返事をした。
「…何でしょうか、師匠。いつも突然ですよね、よく聞こえていますけど。」
「もう、そんなにイラつくなよメヒモン。“取説“つけてる訳じゃないから、なんか聞きたい事とか不便があるかなぁっていう親切心から連絡入れたんだから。」
「いやいや、このアバターの姿からして私に対するイジメでは?私が嫌いな脳筋タイプをアバターにしたのですから。」
「まっさかぁ。脳筋タイプが嫌いなのは中身が脳筋タイプなやつだろ?見た目はいいなぁって思ってたくせにぃ。」
「…その、“俺は知ってるよ“というような態度はあらためて頂きたいですね…。事実とは異なりますので。」
「いや、お試しだから。見た目も性能も幾らでも変えれるけど、確かに一番選ばないタイプにしたのは間違いないね、うん。」
「………………。」
その言葉を聞いて目の前にジェフィティールがいる訳でもないのにメヒモンテスの目はジト目になっていた。アマルは見た目については直ぐに子供じゃないと反論して、アバターで動いている方が感覚が軽いことなどをジェフィティールに細かく説明した。その説明が明確だったためジェフィティールはアマルの意見が間違いない事を確信し、本人が希望するのであれば、アバターのままで<アルバア>内を動き回る事を許諾した。
「まぁ、アマルのアバターに関してはちょっと、大分、思考回路、会話機能あたりをいじってはあるかな…。なんか今までのアマルを見ていて、言いたい事がうまく言えなさそうだったからね。ソレが気に入ったのなら、アマルもそこが自分自身もどかしかったんだろう。でも、だからこそのアバターだと思っていてね。」
『…はい、父上様。今ならよくわかります、父上様が言いたい事が…。アバターでいるうちに色々と整理させて下さい。』
「勿論いいとも。アマルが納得いくまでいいよ。ただ、定期的に身体に戻って栄養を摂ってね。」
『はい、ありがとうございます。』
「まぁ、お試し版なんだからそんなに気負わないで遊んでみなよ。外で誰に会おうとそのアバターならメヒモンとアマルだなんて思われないだろうからさ。」
ここ最近、気分転換も必要だろうとは思っていたが、遊んでみろとは…。師匠ならば私がアマルに言うよりは聞いてくれるかもしれない。しかし、私のアバターとアマルのアバターを見る限り、やはり遊びでも私が保護者なのだろうな。
メヒモンテスはアバターの姿でいるいないに関わらず、我が子を見るような優しい眼差しでアマルを見ていた。




