アマルの気持ち
ジェフィティールとスィフィルが<ヤクシェム>に帰って数日たったある日。アマルが真面目な顔をしてメヒモンテスに告白した。
『…メヒモン…。アチシは旅に出るデス。』
「………は?」
一体こいつは何を言ってるんだ?とメヒモンテスは言葉にしなくてもわかる態度でアマルの顔をじっと見つめる。そして一つ大きなため息をついてアマルに問いかけた。
「旅ということはどんな目的があるのだ?」
『目的は…。調査、デス?』
「なんで疑問系なんだ、全く。」
こめかみを指でトントン叩きながら、目を閉じたままメヒモンテスは話を続ける。
「調査と言うなら調査なのだろう。どこの調査だ?何を調べたいのだ。」
『あぅ、それは、遠い所で何かを調べたい、デス。』
「遠い所とは?何か、とは何も決まっていないのだな?」
『…………。』
「…いじけているのか。褒められなかったからか?ロイもロイの眷属も自分より優れていると思うからか?」
『………。』
「自分の役割が何もないからか?ロイと眷属達だけでここは上手く回るからか?」
『…はいデス…。』
今にも泣き出しそうなアマルだが、自分の存在理由を見失っていた。ジェフィティールに記憶と能力を渡し、拠点<アルバア>の管理もロイと眷属達でできる。何かあればメヒモンテスがフォローに入る。自分がここにいる必要がないのだ。自分よりなんでも出来るメヒモンテスがいてくれるのだから。自分だけ<アルバア>の、誰も来ないのに何時でも綺麗にしておくことや、周囲の警戒をしてはいるが、そんな事は4人もいるロイの眷属達の誰かにもできるだろう。自分が生まれた経緯でさえ、ジェフィティールの望みではなく自分がジェフィティールに会いたかったから、そばに居たかったから、話をしたかったから、寂しかったから。それだけで望まれもしないのに自分は生まれてしまった、そう後悔していた。
「アマル。」
メヒモンテスの問いかけに対して長い間ドロドロとした思考の沼に嵌っているアマルの耳に、温かい声が聞こえる。それはジェフィティール以外で初めて温かみを感じる声だった。はっきりと答えを返さないアマルに対しての苛立ちなど微塵も感じない、ただただ優しい響きの声だった。その声に縋りつきたくなるように顔を上げたアマルに、メヒモンテスはそっと頭の上に手を乗せて言葉を続けた。
「愚か者め。役に立たなければ必要がないという考えは私にもあるが、それが全てでもないと知っている。」
メヒモンテスの顔を見ようとするが、頭を撫でる手が邪魔をして見る事はできない。
「そして実は、全く役に立たないと思っているものにも役割が存在している事も知っているのだ。」
『…?』
「…君にわかるように簡単に言えば…そうだな…。<アルバア>の周囲にある樹海は必要か?」
『?』
「樹海などなくても<アルバア>は存在できるだろう?」
『はいデス。問題ないけどすぐ見つかるデスよ?』
「では必要か?」
『必要ではないかもしれないけど、あると良いとは思いますデス。』
「そうだな。樹海は直接<アルバア>に必要ではないものかも知れないが、その存在により、魔獣、獣、魔樹、素材など様々なものを呼び込み間接的にはそこに住まうものだけでなく、<アルバア>の役にも立っている。樹海がなければそれに代わるものを用意しなければならない程にな。」
『でも、アチシはそんなに凄い樹海とは違うデス。』
それを聞いても、樹海と自分とは違うと、自分を否定するばかりだ。メヒモンテスは仕方なく自分のことを少しだけ話す事にした。随分昔にジェフィティールに拾われた頃、自分には何も役に立つ様な技術も知識も魔法も、後ろ盾さえない戦争孤児で浮浪児だった自分の事を。町のゴミを漁り何か売れる物を探したり、残飯を恵んでもらったり、漁ったり、自分を気に掛けてくれる人に頼る事もあったという。そんな自分をオーパールの印を隠していたにも関わらず見つけて拾ったのがジェフィティールだと話した。今思えば、いくら隠していようとジェフィティールには意味がなかったのだろうが、恐ろしい何かに利用されるのだけは、生前の両親が危惧して隠していたので守り通していた。そして、ジェフィティールに拾われた事はメヒモンテスにとって最高の転換点だったと、自信を持って言えるとアマルに話す。
「私は師匠に、お前が必要だ、と言われたことは殆どないが、よろしくね、と言われたことはほぼ毎回だ。」
『父上様の口癖ですデショ?』
「まぁ、そうだな。でもソレには、お前に頼んだ、という意味も含まれてるだろ?ソレは、お前が必要だ、と言っている事と同じだ。」
『必要?』
「そうだ。師匠は昔から面倒なことは私達“四頭賢獣“に押し付けていたからな。ソレは信頼の証であり、必要な存在だと、師匠が認めた存在だと周囲に知らしめている事でもあるのだよ。そう思うだろう、君も。」
そう言えば、よろしくね、とはよく言われている。挨拶の様なものだとしか思っていなかったアマルはそんな風に考えた事はなかった。ジェフィティールによってメヒモンテスを派遣されたアマルは、自分に能力が足りないという事にしか意識が向かなかったのだ。その上、ロイの能力は素晴らしく地下都市の整備だけでなく眷属も生み出した。自分の成長のなさに自分で呆れてしまい、自分で自分を不要と判断したのである。
「…地下都市も眷属も一部のことだ。君は<アルバア>の管理を任されている。そして<アルバア>とは地下都市も拠点も、延いては周辺の樹海も含まれている事を理解しているか?」
『え?』
「君はその<アルバア>を、よろしくね、と言われているのだよ。」
『でも、アチシにそんな事できないですデショ?馬鹿だから、無理。』
「師匠のように、君がこうなって欲しいと思う<アルバア>に近づくように、周囲の者をよく使いなさい。私もその1人なんだから。」
アマルは目をぱちくりしながらそんな能力がないと否定するが、メヒモンテスはそんな事は考える必要がないと言い切る。そんな事はジェフィティールが既に考えている事で、その上でアマルに任せているのだから考えなくてはならないのは、これから<アルバア>をどの様に運営、発展させていくのか、という事だと。
『…アチシは<アルバア>が父上様の役に立てる様にしたいデス。地下都市も樹海も全部、父上が欲しい素材とか研究とかに役立つものを揃えて、いつ来ても足りない物がない様にしたいデス。』
「では、その様になるよう目指せばいい。そして必要だと思うものを指示をして集めれば良い。君に必要なのはそういう事だ。」
アマルはメヒモンテスに様々なことを教わってきていたが、今まで自分で全部しなくてはならないと思っていた。ジェフィティールに指示されたことをする様にメヒモンテスに教わった事をしなくてはならないと。しかし、そうではなく自分が指示する事をしなくてはならないと初めて理解して、困った。誰に指示を出すのか?ロイの眷属はロイの仕事をしている。自分に眷属はいない、自分に指示を出せとメヒモンテスは言うけれど、どこまで支持して良いのかわからない。
『えっと…。樹海の素材を全部集めたいデス。できますか?』
「…ざっくりし過ぎだ…。それにその希望に沿うには、眷属なり、師匠の人工生命体人型なり、数が必要になる。眷属を作るつもりはあるのか?」
『アチシが作ってもいいのデスカ?』
「作れるなら作ってくれ。今でも人手が足りずに師匠に人工生命体人型と人工生命体不定型など数多く貰える様に頼んだ所なんだからな。」
『!はいデス!』
アマルは今までの暗い気持ちが振り払われたように嬉しくなって、魔力を爆発させるように眷属を生み出した。




