メヒモンテスの苦労
メヒモンテスはその日の朝、恐ろしい夢を見たのか悲鳴をあげて飛び起きた。
「うわっ!いてっ…ぐぅぅぅぅ…。」
飛び起きた拍子に若くない身体はピキッと筋違いを起こした為、痛みで身体が固まったように動かせない状態がしばらく続いた。少しのつもりがなかなか痛みが引かず今日の予定がずれ込んでいく事にイライラし始めた頃、アマルが部屋に飛び込んできた。
『メヒモン、遅いデショ!何サボってるんですデスカ!』
「…サボっているように見えてそうでは無い…。どうもぎっくり腰というものらしい。<リーヴェル>で師匠に聞いた事のある症状と同じと思うから、間違い無いだろう。しばらく休めば動けるようになる、心配は無用だ。」
『心配はして無いです。さっさと行くデスヨ?』
「動けぬから、行けぬ。見てわからないのか?」
『!なら、運ぶデショ!』
アマルは魔法でメヒモンテスを宙に浮かせ、そのまま運ぶつもりでいたが、運ばれる方はそれでは困るのだ。なんと言っても寝巻きのまま、着替えもしてなければ顔も洗っていない状態で宙に浮いたまま運ばれる姿を恥ずかしいと思える羞恥心は、まだメヒモンテスにはあるのだから。
「ま、ま、待て待て!なんの支度もできていないのだ、このまま運ぶな!恥ずかしいだろうが!」
『恥ずかしい?大丈夫、誰もみてないデショ?平気平気!』
「そういう事では無い!羞恥心というのは人として大切な基盤の一つだ!それを失ったら私は人としての…」
『今は急いでるからそれは後デショ!』
メヒモンテスの言葉を遮ってさっさと運んでいく。アマルにしてみれば今日の予定は遅らせられない、楽しみな事ばかりが目白押しなのだ。その事を知っているメヒモンテスも結局は運ばれている間に魔法で身支度を整えていった。
*****
先ず2人が向かった所は地下都市の一角、鍾乳洞の奥にある場所だった。そこはロイが自分の仕事場兼遊び場として整えた為、広さは大した事がない。ただ、以前ジェフィティールから褒められた事で俄然やる気を出し、すっかり地下都市や眷属、鍾乳洞などの管理をアマル主導ではなく、ロイが率先して行っているのだ。
ロイの優秀さはメヒモンテスも認める所で、アマルの補佐をするのではなく、好きな様に管理して良いと行動の自由をすすめた所、初めはアマルの側を離れ難かったらしいロイも、数日後には姿が見えなくなっていた。
「(…それにしても、ロイは優秀だ。言葉の理解力だけでなくこちらの本意をちゃんと掴めている。余程アマルより指導したい相手なんだが、私はアマルの補佐を任されているから難しい所ではあるな。)」
正直に言って、アマルの相手は疲れる。随分と慣れてはきたものの未だにアマルの落ち着きの無さや短慮な点をなかなか改善できていないからだ。地下都市の運営と眷属を作成し管理、拠点<アルバア>の管理と最低限の事しか上手く回っていない。ジェフィティールからは、時間に余裕ができたら周辺の魔獣、獣だけでなく鉱物や樹木など至るものに関して研究、採取、実験を任されているのだ。メヒモンテスもこちらの方が本来の目的である事は分かりきっていた。にも関わらず遅々としてアマルの指導がうまく回らないのだ。
「(一層の事、ロイとアマルの立場を交換した方が余程良いように思うのだが、ロイとの会話が成り立たないからな、上手くいかぬものだ…。)」
メヒモンテスはロイとアマルのやり取りでは会話が成り立っているようだが、自分とロイとではロイの言い分がわかり難く、会話としては成り立っていないことを自覚していた。アマルがもう少し管理者としてしっかりしていてくれれば、と何度繰り返し考えた事だろう。そうすれば既に周辺の調査など大分終わっていたに違いない。そう考えれば考える程、自分がここに送られた理由に納得するしかないのだ。
『ロイ!すんごいデス!もうこんなに地下都市が整備されてるんデスネ。あれ?眷属が変わったデスカ?アチシは初めて見ると思うんデスけど?』
「ん?どれどれ…。確かに…。彼らはロイの眷属なのかな?」
2人は地下都市内をうじゃうじゃと動き回るイモリより少し大きく、色が銀色のテカテカしたイモリに似た生き物を見つけた。
『キュイ、キキ、キーアァ。』
『あぁ、前にいた奴の別働隊なんだ。なるほど、ふんふん。ほー、それは良い考えデス!』
「あ?どういう事だって?ちゃんと私にも説明しなさい、アマル。」
『えっと…。』
メヒモンテスはアマルの説明を質問しながら、把握していく。ー以前のイモリのようなもの達を自分の眷属に組み入れ、地下都市内を隈なく調査し、地図を作成。魔石が作った回路のような物もロイが掌握し且つ増やしながら地下都市全域を管理できるようになったらしい。そして、眷属になったイモリもどきを使って地下都市内の内壁を研磨塗装し整備しているところのようだった。その為以前より部屋数を減らし、一部屋一部屋を大きくしていた。場所によっては一部屋でそこそこの町が入るくらいだ。ロイの地下都市開発は、一つの街とその街が賄えるだけの倉庫を5軒ほどにまとめるようだ。そして拠点<アルバア>とは接点を一切作らないようである。
「…つまり、地下都市、鍾乳洞、<アルバア>は全て独立させ、行き来出来ないようにするんだな?それで良いのか?」
『ん〜、防衛の観点からは良いですデショ?アチシとロイ、メヒモン、あと父上様も行けるけど魔力の弱いのは行けないだけデス。誰でも行き来は出来ちゃだめですデショ?』
「よし、良い答えだ。不都合があればその時に対応なり考えればいい。よく出来たな、アマル。」
『えへ、ロイの言う通りデス!』
「あ、ロイの考えな訳か。アマルはどう思ったんだ?」
『え?ロイの言うことに間違いはないですデショ?だから良いんですデス!』
「…そうか…。そうだな…。」
メヒモンテスは大きなため息と共に肩を落とした。アマルの成長はまだまだ先のことのようだ、と。
「ところで、アマルもロイも眷属はまだなのか?ロイはまだしもアマルは眷属がいないと作業効率が悪いではないか、できれば今作ってしまわないか?ここ鍾乳洞内は魔力が豊富でアマルも楽にできるだろう。」
『アチシはとっても眷属が欲しいけど、どんなのがいいかよくわからないデス。ロイは?』
『キュイキュキュ、キュイー?』
『別に良いですデス。先に作ったからって文句なんか言わないデス!』
「(成る程、ロイなりに気を遣っていたのか…。本当にできる子だ。)」
ロイはメヒモンテスの方も見るが、メヒモンテスが頷いてくれたので眷属を生み出すことにした。と言っても実は、魔力があるとは言え、メヒモンテスよりはあるがアマルよりは少ない。その為湖の底に眷属の卵を置いて、少しずつ魔力を注いでいたのだ。この湖はジェフィティールの魔力から生まれたもので、環境として申し分ない。そして今日、最後の魔力を与え卵から孵ったのだ。湖から上がってきた眷属数は4人、まだ湖の底には卵が幾つもあるが今回はこの4人だけであった。
4人の姿はロイとは全く違うヒトの姿だった。メヒモンテスとしては意外だったがジェフィティールを父と呼ぶアマル達だし、ジェフィティールの作った鍾乳洞の湖の底に長く居たのなら、影響を受けるものなのかもしれないと、不思議と納得できる事だった。ただ、見た目はあまりにもリスペクトし過ぎだろうと言うほどに、ジェフィティールに似ていた。




