閑話 スィフィルの秘密 ②
この話は【遺体】と言う言葉が多すぎて、気分が滅入ります。
個としての最初の意識は、“不安”に尽きる。
ジェフィティールという絶対的な存在が消えた不安は、幾ら本人の術式の設定が完璧であろうとも、膨大な魔力の保管も何もかもが彼が帰ってくると裏付けていても、魂源が転生して居なくなった事実が、置いていかれた事実が突きつけられただけで、消える事はなかった。
ジェフィティールの転生前、ここに保存された記憶にはこの世界への未練が無かったのだ。
未練がなければ帰ってくる事は無いのではないか?記憶も何もかもを切り離して転生した時点で、戻ってくる気は無いのではないか?ー“不安”ーしか無かった。
それ故にジェフィティールの【遺体】の側を離れられなかったのだろう。
【遺体】遺された体。動かない話さない息をしない体にジェフィティールの魂源がなくても、体があるだけで安心感が生まれる。それは本当に小さな水滴ほどの気持ち、地面に落ちれば跡も残さず消えてしまう位のもの。それでも“ワタシ”のたった一つの【遺体】。それを失う事など考えられなかった。
ワタシはただ【遺体】を守る事が自分のなすべき事の様にその場に居続けた。数時間経っただろうか、ワタシは少しずつ消費されていく魔力をなんとか【遺体】の保存にも割り当て続けるために、最善の方法を探すが、ワタシの知識内には何もない。ジェフィティールの遺した“記憶と能力“に何か役立つものがある可能性が高い為、接触したがなかなか中身の全てを手に入れられない。だが、ワタシの使命だと思う保存のためにも、いつ戻るかわからない魂源の為にも、魔力の消費を無くし循環させるか生み出さなくてはならない。
今は“不安“よりもすべき事に意識が向き、【遺体】が失われない様に最善を尽くさなければならない。いや、尽くすだけでなく、最善の結果、保存し続ける事ができなくては意味がない。
拠点<スィフィル>の保存は既に実行されている、また、“記憶と能力“の保存も同じく実行されている、しかし、ジェフィティールの【遺体】の保存だけなんの指示もなかった。つまり、ー捨てられたーのではないかと考えたのだ。
ワタシは、捨てられたのではないかと。拠点も記憶も能力も体も何もかも捨てていったのではないかとさえ思えた。例え、戻る設定をしてあるとは言え、転生先でそれを拒む事もできるだろう。ジェフィティールにできない訳がない。ここには要らないもの全て残していったのだから未練も無いに違いない。そうだ、ここにあるのは捨てられた抜け殻ばかりだ。
ワタシは何故意志を持ったのか。ワタシが望んだのかそれともジェフィティールの魂源が望んでいた事なのかそれとも【遺体】が望んだ事なのか…。イレギュラーな存在を許したのはいったい…。
だが自分の存在に疑問を抱くよりも先に優先すべきは【遺体】の保存だ。生きていれば魔力は生まれ循環するが、ここには主人のいない物しかない。魔力を増やす事はできず消費するしかない。本来ならこのワタシが守る【遺体】も朽ち果てていく中で魔力を放出していくのだから、不足する事はない筈なのだろう。しかしワタシがその予定を狂わせてしまった。
ワタシは存在すべきではない。ジェフィティールの予定、設定を狂わせたイレギュラーな存在など…。まして予定を狂わせているだけでなく、危ぶまれるようなことをすべきでは無い。ワタシは排除されるべきだ。
だが、それでも【遺体】を守りたいこの衝動の様なものはどうしたら良いのか。この衝動、本能、使命の様なものがワタシをここに存在させ続ける。ワタシが魔力になってしまえば少しは【遺体】の代わりになるのだろうか?【遺体】が保存できるのであればそれが一番確実だが、ワタシを魔力変換したところで大した事はない。となればやはり早急に別の方法を模索せねばならない。
“記憶と能力”から情報を得なければと行動するが、うまくいかない。拠点の保全、転移の術式などにも触れてみるが、それもうまくはいかなかった。既に極省エネの運用設定になっていたからだ。ワタシは現状がなんの変化も進歩もなく時間だけが過ぎていく事に、途方もない無力感を味わっていた。




