アムルタートの成長
ウッショロケシの拠点である宿屋に着いた2人は、ベッドになだれ込んだ。
森の奥、山に向かっていた頃には大した獣にも会わず湖に着いたのだが、帰りは恐ろしいほどの数の獣に追われたのだ。アバターで極力性能を低くしたものだったので魔力も能力も低めにした(と言ってもウッショロケシの獣人よりは高い)のだが、魔法は極力使用しなかったので腕力にものを言わせた形でねじ伏せながら帰ってきたのだ。
「いや…。疲れたな。身体の疲れを感じたのはいつぶりだ?あんまり嬉しくない疲れ方だけど、これはこれで面白かったな。ずっとスィフィル達守護者、聖獣くらいしか近くに来れないからな、それはそれで楽だったんだけど。まぁ、この町の住人達は鈍感なのか近くに来れる分、動物達は半端なく遠巻きだったしな。」
『はぁ、私も初めて疲れるという感覚を知りました。このアバターという身体も父上がお作りになったと言うのに、随分差をつけたのですね。』
「いやだって、あの身体は、“スィフィル“が望んだ様にこの世に生まれた身体だからな。俺が作ったっていう感覚じゃないんだよね。手伝ったっていうか、魂源の、なる様にして生まれた身体なんだよ。」
『それでも、そんな事父上にしかできないですから。』
まぁ確かにスィフィルの本体は結構力作だとは思う。このアバターを人工生命体人型の改良版で作った俺は、作るのは楽だったし、性能を抑える方に力を入れたからバランスを取るのに中々手間取ったのが意外にも面白かった。結局、何でも“作る”のが面白いんだな。
「極力、一般人に合わせる程度の性能にしたから、普通の苦労を知れたよ。ホント大変だよな。これなら技術や魔術、魔法、魔力を上げたくなる気持ちも生まれて、進化するだろうな。」
『そうですね、自分のできない事や他者に遅れをとっている事を自覚して初めて、その先を目指すのでしょう。』
「うん、他者の幸福を認めた上での進化をしていってくれると良いね。」
『…きっとこの<ヤクシェム>では、父上の希望がカタチになるはずですよ…。』
スィフィルの表情が少しだけ憂いを帯びていた。そうだな、期待したいな。俺の理想通りの世界は俺にしてみれば幸せかもしれないけど、誰もが思う幸せとは違うかもしれない。誰もが妥協できる幸せが、続ける価値のある幸せがある世界であってほしい。それだけだ。
「さて、食事にしようか。この身体はちゃんと食事でエネルギーを摂らないと餓死する設定だからな、不便を楽しもうじゃないか。」
『本当に父上は天邪鬼ですね。普通でしたら逆でしょうに…。』
「何言ってんの、スィフィル。俺が基準の普通なんて面白くないだろ?不便を工夫して楽しむから良いんじゃないか。」
『…仕方ありませんね。私は、父上の意思を尊重しますよ。』
「…それって、俺がわがまま言ってるみたいでなんかヤな感じだな…。」
『とんでもございません。父上の幸せが私の幸せですから。』
にっこり爽やかなスィフィルの笑顔に、揶揄うような雰囲気を感じ、ジェフィティールはスィフィルの掌で転がされているのを自覚した。彼にとってはこのやりとりが結構幸せな時間だと思えるのだった。
「森での素材も換金しないとな、ちゃんと稼いで消費して、良いじゃないか経済が回ってるぞ、多分。」
『ふふ、そうですね。ウッショロケシの経済活動の一端を担っていますね。』
2人はそんな他愛もない会話をしながら繁華街に繰り出した。いつもと変わらない賑やかさで安心して食事も済ませ、宿にて休憩する。その休憩の間にログハウスの本体で活動をすることにしたのだ。その間宿屋で寝ているアバターはちゃんと休憩中に体力など回復される。どうしてこうなったかと言うと、アムルタートが原因だ。
俺とスィフィルが<ヤクシェム>居るのに、全然相手にしてくれないといじけてしまって、VRスーツを着てる俺たちに突撃した為だ。アバターでなく本体で出かけていた時も、俺たちの所に来ようとしていたのだが、それはちゃんと我慢できていた。しかし、本体がいて、寝ているだけなのが我慢できなかったらしく、ボディアタックされたのだ。それもタイミング悪く森からの帰り道、猪を仕留めようとしていた時にやられたので、思いっきり不意をつかれた攻撃に声をあげてしまいその猪は仕留め損ねた。
そんな事もあり、頻繁にログハウスでアムルタートの相手をするようにした。
「はぁ〜。さてと。アムルタートの相手をするか…。」
スィフィルには一応アバターの安全のため、ウッショロケシに残ってもらっている。まぁ、そこまで警戒する必要はないと思ってはいるが、念のためだ。俺は自室から出てリビングに降りて行くと、下のソファでちょこんと座って待っているアムルタートがいた。
『父様!あ…あの、この間は本当にごめんなさい…。』
「偉いね、ちゃんと謝るのは必要だからね。もういいよ。」
ジェフィティールはアムルタートの頭を撫でながら優しく答えた。アムルタートはジェフィティールに抱きつきながら上目遣いに甘えてくる。何かお願いするときの態度にジェフィティールも少し構えながら話を聞く。
『父様、僕もアバターが欲しいです。アバターがあったら一緒に行っても良いでしょ?』
「え?えぇ…っと…。それはどうかな?アムルタートはここの聖獣でしょ?<ヤクシェム>じゃなくて、<リーヴェル>とかだったらアバターで遊ぼうか?今度作ってあげるよ。」
『はい!楽しみです!』
そう約束して、俺とアムルタートは魔力の吸収と放出の練習をする。<ヤクシェム>全体と魔力を通わせ整えるような作業なのだが、聖獣としては息をするように出来なくてはならない。アムルタートにはまだ集中しないと出来ない作業なので、聖獣としてはまだまだと言える。それでも、随分出来るようになってきていた事がジェフィティールには嬉しかった。アムルタートが健やかに育つことは<ヤクシェム>でいい循環ができている証拠でもある。
「さてさて、今日はアムルタートが眷属を生み出してみようか?1人だけでいいからね、しっかり役目や能力を固めてから生み出すんだよ?」
『はい、父様。』
アムルタートはジェフィティールに言われた通り、イメージをしっかり固めて魔力を練り上げ形付けていく。しかし、生み出す前に魔力が崩れてなかなか上手くいかない。何度も失敗するうちに焦り、雑になって行くことにジェフィティールは注意するが、アムルタートは失敗するスパイラルに嵌ってしまったように抜け出せない。
「焦るなって言っても無理そうだね。じゃぁ、眷属じゃなくて精霊に近いものはどうかな?」
『?』
「こうして、精霊はどこにでもいるんだよ。姿が見えるのは少しだけ力を与えてるから。ほら、やってごらん?」
『???』
ジェフィティールは花を少し魔力で包み込むとスーッと魔力と共に小さな蝶のような精霊が生まれた。アムルタートはそれを見て目をパチパチさせながら楽しそうに驚いていた。
『やってみます!』
アムルタートにとってはこうしてジェフィティールに色々と教わる事自体が楽しい事なのだと、この時間が幸せなのだと全身で物語っていた。




