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遠避けたもの

ジェフィティール・ブラフマオグマ


それは嘗ての彼の名前。この世界で知らぬ者はいないと言われる程に悪名高い名前だ。

ほんの数年前迄は悪名ではなく偉大なる英雄の名前だった。その名も彼には日本で70年生きた記憶がある為随分前に捨て、忘れ去った名になるのだろう。こちらの世界から転生を図る迄の50年程の人生も趣味と実益である研究に生きられたのは、せいぜい半分位しかない。


彼が他人と関わり合うのが苦手になったのは、物心ついた頃だ。彼の少し珍しい髪の色と瞳のせいで珍獣扱いされ、他人の無遠慮な視線も、思いやりのカケラもない言葉も、他人自体も無視できる様になるまで相当な時間を要した。ある意味達観できる様になると、少しだけ生きる事が楽にもなった。

だが、好き勝手に周りを気にせず魔力の研鑽を積み、全ての魔法の能力を極めたいと突き進んだ結果、人が手にする事はあり得ない能力(チカラ)を持ち、人の理解を超えた才能(スキル)を発揮していつの間にか人々に敬われ、恐れられ、“神にも等しいチカラを持つ者”と、畏怖されるようになると各国の重鎮達は彼を人ではない<何者か>として封印しようと画策する様になるのだった。

彼にとっては、降り掛かる火の粉を払うだけの行動も、援助を求められ応えただけの行動も、何故かいつも後には彼が悪事を働いた事になっていた。


「周りに迷惑を掛けず、地産地消、自産自消を目指して小さくて自由な世界で生きていたいだけなのに…。」


そんな彼の本音など誰も本気に受け止めず、悪意ある見方しか出来ない愚かな者達は周囲に闇という毒気を撒き散らす。無理してまでそんな空気の悪い所に居る必要のない彼は、平穏な日々を送るためにベオグルリンドス帝国の各地に拠点を築く。

誰にも知られない様に魔獣の巣穴の横や古代遺跡の下、神の嶺、死海の底。彼が許可を与えない限り決して立ち入る事ができない上、誰もその存在に気づく事ができない完璧な拠点だ。

大事な素材やアイテム、道具、資料などを各拠点に分けて保管した。


「幾ら完璧と思っていても、きっと本当の完璧は私の思いもよらない方法で為されるのだろう…」


彼がどれ程の研鑽を積んでも満足する域に達する事はない。側から見れば[神の如きチカラ]を有していても彼にとっては、未だ何か足りない。そんな強迫観念を持っているのだ。

ベオグルリンドス帝国での知識は既に網羅してしまい、他国に行くしか知識を得ることも研鑽を積む事もできないと言うのに、彼は他国に出る事を許されず、いつの間にか帝国において捕獲封印対象として追われることになった。焦る気持ちがジリジリと積もっていく。


彼にとっては帝国から逃れるだけで済めば良かったが、他国に彼を獲得される訳にはいかない帝国は、周辺国家に彼が世界を破滅させる能力(ちから)を持ち、封印すべき存在であり各国が協力して事に当たるべし、と宣言して他国が彼を引き入れる事を牽制した。


そして世界の国々は手の届かない、敵わない、決して自分達の思い通りにならない恐ろしいチカラを、いつか必ずコントロール出来ると何故か盲信し、彼を留め置く事を本人の意思など無視して勝手に決めたのだった。

[彼]という人格を完全に無視し否定して、恐ろしい[チカラ]としてだけ認識した対応だ。


既に各国に彼の脅威は根回し済みの為、彼がどれ程否定しようと焼け石に水。抵抗した所で「邪神」「魔王」「破壊神」だなどと既に言われている上、更に悪い方に転ぶ事は火を見るよりも明らか、彼は溜息と共に誰の手も届かない天空へ逃れた。


其処は彼の最後の拠点であり最後の楽園、他の拠点を例え奪われたとしても此処に繋がる術も手掛かりも残してはいない。とうとう彼は弁明する事も周囲に理解を求める事もせず、ただ、この地上で生きていく事を諦めたのだ。


そして、彼は転生し彼方へ行く事を選択する。

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