これまでの振り返り
ジェフィティールがベオグルリンドス帝国、及び近隣諸国の自分に対する悪意、害意、敵意などに嫌気が差し転生という手段を取ってから約一年。4人の弟子の1人メヒモンテス以外の帝国人、人族の誰も彼が帰って来ているとは知らないままだった。
彼が、拠点である<アルバア><サラーサ><イスナーニ><ワーヒドゥ>そして<スィフィル>を進化させた宇宙樹の島<ヤクシェム>もこの一年で何者にも害される事のないほど、難攻不落の拠点となっていた。
だが、それでも不足を感じるジェフィティールはバラルエルトニー大陸の<リーヴェル>の発展も展開し、それぞれとの連携も確立し、彼自身がやっと納得できるレベルにまで“安全“が確保できるに至った。勿論、魔力、力量から言って誰もジェフィティールを害することはできないが、彼の身内とも言える弟子達の安全確保が重要だった。弟子達を守るのではなく、彼ら自身の誰にも負けない強さが必要と感じたのだ。自由に、他者に手綱を握られることのない強さを持って欲しかったのである。
ー結局ジェフィティールは数年の時間を空けて弟子達全員と再会を果たすことになるのだが、それはまた、別の話である。ー
ガルドエスタニア大陸は北部三分の一は一年中氷に覆われた土地で残った地域を魔獣、獣、人族が生息していた。人族の栄えてる地域では人族同士の戦だけでなく、魔獣達との小競り合いもあり、相変わらずの不安定感を維持したままであった。ただし大きな戦が起きていない分、人族は数を増やし絶滅危惧される程ではなくなっていった。大陸の人族の栄えてる地域は大陸のほんの一部だが、その他の地域に恐竜の様な魔獣がほぼ生息しているが、個体数はそれほど多くない。魔獣に関しても大型から小型まで種類は多い、通常の獣は強くないので数は多いが人族の脅威にはならなかった。
だが、バラルエルトニー大陸は大きく見て逆の環境と言える。万年雪を持つ山々はあるものの、大地は一部砂漠がある以外、ある意味豊穣な土地が多かった。恐竜の様な魔獣に関しても草食性から肉食性まで、大きさも巨大なものから極小のものまで、獣も、人族とは違うが天人族、獣人族など多種多様な生物が生息していた。そして大きな違いは、人族がいないことかも知れない。多分一度もこの大陸には人族が立ち入っていないのだ。
ガルドエスタニア大陸にはかつて獣人や天人、魚人などが生息していた形跡があったが、この大陸には人族の形跡がないのだ。そして正直言ってこの大陸の食物連鎖としてのバランスは決して悪くない。この大陸の存在を知ったのは転生転移後になる訳だが、特定の種族だけが数が多かったり、力が強かったりなどというバランスの悪いところはなく、環境も言うことなしだが、ジェフィティールはそこに自分が無理に入るとバランスを崩してしまうと考えていた。その為<リーヴェル>のように、マダガスカルほどの大きさの独立した島はもってこいだった。
そうして<リーヴェル>は隔絶されつつ、ジェフィティールにより別次元の発展の道をゆく。それは<ヤクシェム>と近いようで遠い発展であった。
<ヤクシェム>は成獣の誕生から、人族以外の天人、鳥人、獣人、水人、地人などまで、ジェフィティールの魔力と記憶から身体を得て生まれ、多種多様な種族が生息する様になっていた。本来<ヤクシェム>はジェフィティールの意思で創り出された地球にいた動植物のほか、獣達、眷属達の保護区のつもりだったが、意図せず生まれた生命達を淘汰するよりも共存できるように工夫する事を望んでいるので、方向性は<リーヴェル>に近い様に思うが、ゼロから創り上げた<ヤクシェム>は既に生態系が成り立っている<リーヴェル>とは一線を画していた。
<ヤクシェム>に新たに生まれた多種族の生命体は、ジェフィティールが地球で繋がりがあった家族や友人達の記憶が人格の元になっており、この世界の者は含まれていなかった。その理由はわかっていないが、生まれた彼らの身体がこの世界の同名種族とは全く違う事、日本の漫画に描かれた様なほぼ人に近い造形である事に何某かの因果関係があるだろうと思われた。生活基盤となる衣食住が町として同じ様に創り出されていたので、生まれたもの達はなんの疑問もなく生活を始めていた。<ヤクシェム>に存在が確定されるまで暫くかかったが、そこにいる誰もが疑問に思う事なく生活を始めたのだ。まるで町ごとどこからか転移して来たかのように。
<リーヴェル>は生態系が成り立っているとはいえ、種類もそれ程多く無かった。動植物、獣などは十分だが言葉を用いての意思疎通がでいる種族はいない。鳥人といっても複雑な思考は持ち得ていないようだった。正直いって<ヤクシェム>に生まれた町ごとここに転移させても生態系、食物連鎖に打撃はあまり与えないで済みそうなほどだ。以前、バラルエルトニー大陸の他種族が押しかけて来たときに移住を却下したが、あんな協調性のない種族が来られるよりは余程発展しそうな気がする。現在<ヤクシェム>に居ても全く問題ない人数しかいないが、この先の発展を考えると<リーヴェル>への移住組も視野に入れておいた方が良さそうだと思われた。
ジェフィティールは暫くの間<ヤクシェム>の発展に力を入れる為、<リーヴェル>の管理人を誰にするか悩んでいた。スィフィルなら安心だが、自分の助手としてそばにいてもらいたいのだ。となると次はメヒモンテスだが、彼は<アルバア>でアマル、ロイと共に地下都市の発展、管理がとても楽しそうに生き生きとやっている。移動させるのは申し訳ないし、他の弟子はダメだ。守護者も移動させられない。となると新たに<リーヴェル>の管理者を作るしかないのだが、どうするか。うん、うん、と悩んでいるとスィフィルが呆れた様に言った。
『父上、どんなに悩んでもきっと最適な管理者が生まれますから、そのまま“管理者“とだけ考えて魔法を発動してください。案ずるより産むが易し、です。』
「え?そんな無責任な…。」
と、言いつつスィフィルの言葉に意識が引っ張られて管理者が生まれた。人型だけど明らかに小さかった時のスィフィルの人サイズ版。背には黒い羽、服は体にフィットした革のロングコート裾から革のブーツが覗いている。違うのは髪の色は同じく霜白だがショートカットで深縹の虹のオーパールな所だ。
「そうか、こうなったか。」
『………。』
にっこり笑った笑顔がやけにスィフィルに似ているのに、スィフィルは凄く嫌そうだった。跪いているから身長はわからないが、きっとスィフィルと同じくらいなんだろう。スィフィルの視線が冷たくつき刺さる。
「いや、スィフィルの意見を聞いて、こうなったんだから、責任の一端はスィフィルにもあると思う。」
と言いつつスィフィルの顔が見れない。いやホントわざとじゃないし。
『…理解しておりますが、少々引っかかってしまうのは仕方ないと思いますが?』
「そうね…。スィフィルを頼りにし過ぎだね。」
『いえ、それは大変光栄な事ですよ。』
おっと、機嫌が治ったっぽい?
『ですが、服装は変えましょう!』
「はい!」
服装を白を基調にしたものに変え、名をつける。
「<リーヴェル>の管理人としてヴェロイアとしよう。単純で悪いけど。」
『はい、このヴェロイア、<リーヴェル>の管理人として父上様がご不在時は滞りなく業務を遂行いたします。』
にっこり微笑みながら答えたヴェロイアだけど、うわ〜、声まで似てる。違うけどなんか似てる。これまたごめんねスィフィル…。




