問題って
ちょっと時間に追われていました。
<リーヴェル>ではシュナイツも帰り、災害から立ち直った動物達が以前の生息域に少しずつ戻り始めていた。アムルタートも日々の魔力操作訓練などにより目に見えて成長をし、見た目も10歳くらいになり聞き分けも良くなった。自分から<ヤクシェム>に帰ると言い出してきたのだ。
『父様、僕、<ヤクシェム>に帰ります。父様はまだここにいますか?僕と一緒に帰らないのですか?』
「ん〜、そうだなぁ…。<ヤクシェム>は暫くオレが居なくてもちゃんと発展していくように管理者もいるし、アムルタートも居てくれるなら安心してこっちの事出来るんだよね。」
ジェフィティールはアムルタートの頭をくしゃくしゃにしては抱きしめる。この数日間の成長は目を見張るものがあったのだ。聖獣としても考えられないほどの成長だろう。
『えへへ、僕も父様に心配かけないようにちゃんと聖獣として立派になりたいです。だから<ヤクシェム>でしっかり頑張りますね。でも、父様に会いたいので時々は帰ってきてくれますよね?』
「勿論!アムルタートに会いたいから時々帰るよ。会う度に成長した姿が見れたら嬉しいな。」
スィフィルは半分呆れながら2人を見守っている。ここ数日同じような事を繰り返しているからだ。帰ると言いつつ帰らないアムルタート、成長を嬉しく思いながら離したくないジェフィティール。別に時間に迫られているわけでもないので、お好きにどうぞ、と割り切ってスィフィルは淡々と<リーヴェル>の管理、調整を日々行なっている。特に大きな問題がなければ何もする事もない仕事だが、今日は違った。<イスナーニ>のテティオーネから連絡が入ったのだ。それはスィフィルでは判断を下せない問題だった。仕方なくジェフィティールに報告し判断を仰がねばと、2人の間に割って入る。
『父上、テティオーネから問題が起きたと連絡がありました。』
「え?マジ?…じゃあ、アムルタート、俺は仕事ができちゃったから<ヤクシェム>でしっかりやるんだぞ?」
『…はい、父様。僕頑張ります…。』
あんなにがっしり抱き合っていたのに、案外あっさりと切り替えてジェフィティールはその場を離れていった。アムルタートは寂しそうに抱きしめていた両手の行き場を探していたが、諦めて<ヤクシェム>に帰っていった。
ジェフィティール達は場所を変え、テティオーネと会談する。実体が不必要なものの場合はVRスーツを使用せず、モニターの様な物で報告を聞いたりしていたので、今回も同様の対応だ。
『ご無沙汰しています、父上様。お元気な様で安心いたしました。』
「久しぶり。挨拶はその辺で、それで、どんな問題が起きたの?」
『は、数ヶ月前から父上様の弟子であった2人が<イスナーニ>に住み着いているのですが、首長竜が顔を出した際に2人と対話した内容から父上様の存在が知られてしまいました。いえ、誤魔化しはしていたのですが、誤魔化しきれなくなっていて…。申し訳ございません、何か良い案はございませんか?』
「あ?何?何で誰が<イスナーニ>に住み着いてるの?それ聞いてないよね俺。聞いてたっけ?」
首長竜と話すとか以前の問題だ。何で<イスナーニ>に弟子が住み着いてんの?招き入れなきゃ入れないのだから、わざわざ引き入れたって言う事でしょ?なんでそんな面倒な事をしたの?俺がその事に納得がいってないとスィフィルがフォローを入れてくる。
『父上、テティオーネにはある程度守護者としての裁量権は与えられていますが、問題ないと判断したものの、後日大きな問題に発展してしまったのでしょう。先ずは時間もない様ですし、現在の問題に関して対応を決定致しましょう。』
「そうだな、それで、2人っていうとカリメッラとキッシャータか?』
『は、左様でございます。』
「そうか、2人ともねちっこいからなぁ。…って言うことは、俺の存在の有無に関して首長竜に問いただした様な形をとった、と言う感じか?」
『ハッキリとではありませんが、近しい事を話した様です。』
「そもそも俺の存在に関して疑問を持ってしまったのは儀式だったんだろ?」
『はい、身体を得た者たちが希望しましたので、許可したのですがその儀式を見られていました。』
俺は、俺の魔力の貯蓄から身体を得たという事に注意を集める様に小道具を用意した。以前の俺でも作れた魔力石。但し、内包する魔力量や能力は桁違いだ。だが、それがバレる様な間抜けな事はしない。そしてその掌サイズの魔力石をテティオーネに見せ、俺の記憶と能力、魔力をこの石に閉じ込めてあると説明する。そう、コレが俺が今存在していると勘違いさせる原因になったものだと説明させるのだ。そしてそれは<イスナーニ>の中枢に設置されていた、と言うことにすればもう暫くの間は誤魔化されるだろう。
「今、そっちに送ったからコレ使っておけば誤魔化せる筈だ。だからと言って中枢に2人を入れる事は許可しない、嘘がバレるからな。まだ当分2人に俺の存在は伏せる様に、暫くは連絡を…誰かに任せよう。」
『誰か、とは?』
ジェフィティールはう〜んと唸りながら、考えているがどうもいいアイデアがない様だ。テティオーネはただ何も言わずに待っているだけなのが、スィフィルには気に入らない。
『其方の不手際から起こった問題であるのだ、父上にばかり頼らず連絡が可能な者はいないのか?役に立ちそうな眷属も生み出しておらんのか?』
スィフィルはイライラした口調でテティオーネに言った。相変わらずスィフィルはジェフィティール以外には厳しい。
『眷属はおります、しかし、この様に鳥ですが連絡などの能力はございませんので、役に立たないかと思います。』
テティオーネは眷属に大した能力がないと話す事が恥ずかしく、声が小さくなっていった。その話を聞いてジェフィティールはいい事を思いついたと、パッと明るい顔になる。
「テティオーネ、君の眷属は君の役に立てば良いのだから気にするな。それより、精霊をその役に当てるよ。役に立ちたいって言ってる精霊が沢山暇にしているのがいるからね。」
『大丈夫ですか?精霊たちは聞かれたら嘘はつけませんけれど…。』
「<イスナーニ>に行ってもらう精霊にはテティオーネとしか会話できない様にするから大丈夫だ。カリメッラとキッシャータには悪いけどまだ会うのは無理だからな。まぁ、本来彼らはもう巣立っているのだから、自分達の力だけで生きていってほしい所なんだよね。」
スィフィルは少しだけ疑問に思う。ジェフィティールは自分の弟子達には結構甘いと思っていた。アムルタートほどではないが色々と本人の気がつかない所でも手を貸してあげている。
『…随分と割り切られてるのですね。対応がメヒモンテスとは大違いですが、何か理由があるのでしょうか?』
「…そうかもね。メヒモンテスには苦労かけっぱなしだったから、ついつい甘くなるかも。で、あの2人には結構迷惑かけられてたから、何かね、当たりがキツくなってるかも知れないね。」
そう言えばそうだな。ここだけじゃなくて、日本でも人生経験結構積んだのにな、大人気ないなこんなの。八つ当たりに近いじゃないか…子供か俺!いやいやそんな訳ないって、あれ?俺の魂源か…?いや、魂源の問題じゃないな。多分…。俺が未熟なせいだな、うん。根に持ってるのか?ちっちゃいな、俺…。
『…そのままで良いのですか?対応を変えられますか?』
「勿論、変えないよ。」
俺は何でカリメッラとキッシャータに、ちょっとばかり意地悪なのか、その理由を思い出しながら、スッキリした気分で笑顔で答えた。そうそう、八つ当たりじゃない、ちゃんとした理由があった。
<イスナーニ>に行ってもらう精霊には目印の為ほっぺに赤い印をつけた。彼らにはテティオーネとスィフィル、俺にだけ意思疎通の会話ができるという制限をかけるのだから、希望者も少なくなるだろうと思っていたが、多数の希望者がいた。
「なんで?他と会話できなくなるから不便だろ?」
『:でも、精霊同士は会話できますから、不便はありません。他というのは、<イスナーニ>の住人などの者であれば会話が聞き取られなくて、内緒話と思わず普通に話ができますし、逆に気にしなくて済むので嬉しいです!:』
「な、なるほど?堂々と話しても気にならなくなるから、良かった、と…。」
『:はい!:』
まさか不便じゃなくて便利と思われるとは…。まぁ、彼らが辛くないならこちらとしても頼みやすいけど、なんか、いいのか?などとちまちま考えていると。
『父上、その様に気になさらなくても本人達がやる気があるのですから、問題などありません。もしかしたら、他の精霊たちも同じようにして欲しいと言ってくるかも知れませんよ。』
「まさかぁ……ネ?」
しかし、スィフィルのその言葉が現実となる日が来るとは、思ってもいなかったジェフィティールだった…。




