テティオーネとカリメッラとキッシャータ
拠点<イスナーニ>のテティオーネから連絡があったのは随分前の事だ。
カリメッラとキッシャータの事で対応に苦慮しているという。なんで2人が<イスナーニ>に?と思ったけど、どうも拠点内にいる訳ではなくて、<イスナーニ>から離れないらしい。
「どうしてそんな事に?他に来てる人とかいる?」
『いえ、どうも彼らも他者に見つからないように行動をしている様です。ここ3ヶ月の行動を監視していますが、なんとか<イスナーニ>に侵入するための方法を知る為に、こちらの周辺を探っている様です。』
「なんでそんな事…。いや、そうか、あの子達もベオグルリンドス帝国からすればいう事を聞かない、目の上のたんこぶだったな。」
ジェフィティールは身を潜める場所が必要で以前の拠点になんとか入ろうとしているのだろうと思っていたが、テティオーネがそうではないと否定してきた。
『この3ヶ月もの間、彼らは確かに侵入方法を探していましたが、誰にも見つからないように、という意図はあっても逃げているのではなく、この地を探っていると言う事が知られないようにしているだけの様です。時々彼らの会話を盗み聞きした内容からこれについては確証があります。』
「それはつまり、潜伏目的以外の他の目的があるっていう事?」
『はい。どうも秋女神二月目に行われた送り火の儀式を見られていたようで、上手く誤魔化したつもりだったのですが、父上様に関連づけられてしまった様です。その為3ヶ月以上経つ現在もここから一切離れる気配がございません。』
「えぇ⁉︎俺なの⁉︎」
いやいや、あの子らは大概反抗的だったし、そりゃ偶に甘えてきたりしてたけどどっちかっていうと“口うるさいジジイ“くらいの対応だったと思うんだけど?まぁカリメッラはそこまで反抗的じゃなかったけどキッシャータはねぇ…。まさかそんな子達が?逆になんか怖いんだけど…。
『正直申し上げまして、放っておきたい所なのですが、現在、民達が外に出られず、生活し辛くなっている為苦慮しております。』
「…なるほど…。」
まぁ、確かに潜伏場所なら特にここにこだわる必要がないから、俺たちの拠点だったという事と怪しい人ではない存在の儀式とで、謎解きにハマった感じかもしれないな。そうなるとしつこいからなぁ…。あれ?でも“民達“って、あの彼らのことだよね?外に出たいの?
「ねぇ、テティオーネ。彼らは外に出たいの?神殿内だけじゃだめなのかい?」
『そうなんです、彼らはどうも存在がこの世界に固定化されてしまい、血肉のある人族のようになりました。父上様が去られてから、彼らは毎日欠かさず父上様に感謝の祈りを捧げておりましたから、きっとこれも全て父上様のお力故ですね。』
「いや、それはないだろう!」
『ですが、日々、身体を得た民達が増え続け、現在百名を超えております。送り火の時などは未練のない魂たちが天に還り、身体を得た者たちは日々祈りを捧げることに喜びを感じているのです。日々父上様に感謝の念と祈りを捧げている民達が、なんの気兼ねもなく生活できるようにしてはいけませんか?』
「いや、誰もが自由であるべきだと思うよ。他者に迷惑をかけないという大前提の元でね。」
そうだよね、もう、命ある身体を得て、生きる為に必要な生活をし、我慢もしていることだろう。家畜でもないのに彼らを閉じ込めることはしてはいけないな。カリメッラとキッシャータにバラすしかないか。もう二度と俺なんかと関わらせるつもりは無かったのにな…。
「…仕方ない。2人にはテティオーネが会って、俺の事はある程度伏せたまま拠点内に入れる事を許可するよ。まぁ、メヒモンテスには2人が会うことはないだろうし、もう暫くは2人と会うつもりはないから、よろしく頼むね。」
『畏まりました。父上様の仰せに通りにいたします。』
こりゃ本当に暫く<イスナーニ>に近寄るのはやめておこう。あの2人はチャスカとは別の意味で手がかかるからな、問題を起こされても対処が面倒だ。
カリメッラとキッシャータの2人は本当にしつこかった。遺跡群の端に活動拠点とも言える仮住まいの小屋を建て、3ヶ月間みっちり遺跡を調べて回ったのだ。ただし、この3ヶ月の間には初日に見たような儀式などは行われず、人も現れなかった。その為、毎日手がかりと言えるものは一切見当たらず、やる気も削がれるだろうと思っていたのが大きな間違いだった。
最初の1ヶ月で普通ならば諦めるだろうと思うのだが、2人は何も手がかりがないことを不審がったのだ。そして、手掛かりが一切ない事こそジェフィティールの手掛かりと決めつけていた。自分達に掴めない様に証拠隠滅できる力があるのはジェフィティールだけ、という事実に基づいた確信。それを揺るがすことは誰にもできなかった。
「ふ〜。キッシュ。今日はこのくらいにしましょう、今は闇女神の季節だからあまり日も長くないし、魔力研鑽に力を入れた方がいいしね。」
「そうだな、オレたちここで魔力研鑽始めてから上達が前より早い気がするし、ここと魔力が合うのかもね。」
「あら、私は前とそんなに変わった様には感じないけど、あなたは以前サボりすぎだったからじゃないの?師匠にもよく怒られてたじゃない。」
「そ、そんな事ないだろ?メッラだっておんなじ様にサボってたじゃないか!」
「私はそんなにサボってないわよ。しっかりやる事やってから遊んでたもの。一緒にしないでよね。」
「なんだよそれ、ずるいじゃないか!」
「ずるじゃないし。本当にキッシュって子供よね。」
「メッラだって同い年だろ!」
そんな会話をしていたら、不意に気圧が変わったような息苦しさを感じて2人は互いに一点方向に警戒をする。結界も張ってある筈なのに何故?とは思っても、その焦りを顔に出す事はない。そこにいたのは深緋色の長い髪にエメラルドグリーンの瞳の美しい女性がいた。人の様だが、明らかに存在感が人ではないと主張している。
「誰だ!どうやって結界内に入った⁉︎」
キッシャータは警戒度MAXでその女性に問う。カリメッラも警戒しながら脱出経路を考えている。
『私の名はテティオーネ。我が父、ジェフィティール様に<イスナーニ>の守護者として生み出された者。お前達は、父上様の弟子だと記憶しているが、この地に何用か?』
その言葉に2人の衝撃は計り知れないほどだった。何故自分達を知っている?師匠が生み出した?この女性が持つオーパール、紅緋の虹なんて初めて見るし、敵対したら絶対負ける、どうしたらいい?など、グルグル思考が回り過ぎて終いに2人は気を失った。自分の問いに返事がないまま気絶され、テティオーネは呆然と立ち尽くすしかなかった。
『…何故…?』




