管理者3人娘と顔合わせ
ジェフィティールはベッドに仰向けになり天井を見上げながら悩んでいた。胸の上には3歳くらいの聖獣がうつ伏せに寝ている。ログハウスに入ってスィフィルに預けようとしたら泣き出してしがみついてきたので、そのまま部屋に連れてきたのだが、横に寝かそうと離すと泣き出すので諦めて今の状態になった訳だ。
「(どうしたものか…。聖獣は普通こんな性格じゃないだろ?元々親などいない単体のものだし、甘えるとか、泣くとか、ないよなぁ…。<ヤクシェム>の聖獣だからか、名付けか、何方にせよ性格が人くさいよね。っていう事は子育てが必要になるよねぇ、って言う事は誰がするの?ってなって、スィフィルか管理者3人娘か俺か…。という事になる。)」
ここで問題なのは、俺とスィフィルは<ヤクシェム>だけにいる訳じゃなく、あちこち行く事が殆どで、管理者3人娘がいる事で安心して<リーヴェル>にいる時間の方が長くなる。幼い聖獣を親とも言えるこの<ヤクシェム>と長く離す訳にはいかない。かと言って、聖獣が安定する大人(?)になるまで<ヤクシェム>に俺も一緒にいるっていうのも無理な話だ。何故なら、聖獣の生態など解明どころか何にも解っていないのだから、どれ程時間が必要かもわからない。ただその存在そのものが、[聖なるもの]であると、確信できるだけだからだ。
「(アムルタート、この子が幸せでないと<ヤクシェム>は不安定になるだろうし、<ヤクシェム>が不安定な状況になるとこの子は病にかかるだろう。それぐらいの事しかわからないが聖獣が一ヶ所に留まるのは珍しいらしいから、<リーヴェル>に連れて行ってもこの子の体調が大丈夫なら行動を共にするしかないな。)」
だが、この聖獣は生まれが特殊な聖獣だから地上の聖獣達とは違う事も多いだろうと思う。 最初は鳥型だった筈なのに名付けをしたら人型に変貌してしまったり、名付け親にこれ程なついたり、<リーヴェル>に行った時にシュナイツにでも聞いてみるかな…。
翌日目を覚ましたジェフィティールは、胸の上に寝たままの聖獣を見た。寝た時間は短かったがまさか上に乗ったまま移動しないとは思わなかった。3歳くらいだからではなく、聖獣だからなのだろう、重さは心地よい程度でしかないのでジェフィティールも気にならない。
「(問題はヨダレだけだな…。流石に濡れた服が冷たい。目も覚めたし、起きるか…。)」
ゆっくり起き上がると、アムルタートも目を覚ます。うとうとしながらも離れまいと服をぎゅっと掴んで離さない。ちょっとした溜息が溢れるがそれすらも可愛らしく思えて、そのまま抱き抱えリビングに降りていく。スィフィルは既に食事を用意していた。
『おはよう御座います、父上、アムルタート。朝食はすぐ召し上がりますか?』
「おはようスィフィル。そうだね、顔だけ洗って目を覚まそうかアムルタート。」
そう言うとジェフィティールは魔法で顔を洗う。一瞬驚いた顔を見せたアムルタートも素直に洗われた。だが、ジェフィティールからは離れようとしない。スィフィルとしてはせめて食事の時だけでも離れてもらえたら、ジェフィティールがゆっくりする事ができるだろうと考えたが甘かった。アムルタートをジェフィティールに代わり抱き抱えようと伸ばした手は、プイッとそっぽを向かれ、顔はジェフィティールの胸に隠れた為、行き場を失ってだらんと下に降りた。
「いいよ、俺は大丈夫だから、スィフィルも食事にしよう。アムルタートもスープは好きか?」
頭を傾げながら顔を上げたアムルタートが可愛くて、あまりにも可愛くて俺は思わずぎゅーっと抱きしめてしまっていた。食事が初めてなんだから好きも嫌いもなかったのを忘れていたのだ。俺の膝の上に乗せたまま、3人でのんびり食事を済ませ庭に出て散歩していると、アムルタートが初めて世界を目にしたかのようにキラキラと目を輝かせながら木々や雪、風などに興味を示す。確かに聖獣としてこの世界に生まれて間もないのだから当然だろう。全くの無知ではないが、まだまだ世界を知らなくはならないし、知りたい欲求もある様なのでその点の問題はなさそうだ。<ヤクシェム>で暫く様子を見てから<リーヴェル>に連れて行って見るのもいい経験になるだろう。
ジェフィティールは聖獣に対する自論から、必要なもの全てをアムルタートに与えるつもりだ。知識、経験、善意、悪意、良識、常識、何もかも。<ヤクシェム>にいるだけで大半を得る事ができるが、人型の姿になったのだから、また別の吸収方法も可能なはずで、多角的に情報や知識を得られる。アムルタートに最高の聖獣になってもらいたいのだ。そう、それこそジェフィティールが過保護な保護者になった瞬間を見た様な気がしたスィフィルであった。
『(…今はまだ大丈夫そうですが、まさか父上がこんなに子供に甘いとは。確か弟子にも子供がいたと記憶にあるがここまで甘く無かったはず。これは注意が必要ですね。)』
スィフィルはジェフィティールが創造した宇宙樹の島に生まれた聖獣アムルタートが、この世界のどの生物よりも優れている存在でなければならないと考えて、教育に一切の妥協をしない事を密かに心に誓っていた。
ここに孫に激甘のおじいちゃん的ジェフィティールと子供に厳しい教育ママ的スィフィルが誕生したのである。そして遠くからその様子をうかがう3人娘のヴェリュ、ユミス、マーラがいた。<ヤクシェム>に生まれた聖獣に挨拶をしようときていたのだが、聖獣達の魔力の大きさに近寄る事も、勿論声をかけることも出来ないでいた。それでも挨拶をしないと言う事はありえないので、意を決して飛び出す。
『『『お早う御座います、創造主様、スィフィル様、聖獣様。』』』
それはすごく遠い所から聞こえた。声の方に振り向くと管理者3人娘が立っていたのだ。でもあまりにも遠すぎて何してるのやらよくわからない。近くに来るように促すがなかなか来ないので、少しイラッとしてしまった。それはスィフィルも同じだったようで魔法で無理矢理3メートル迄連れてきた。だが3人は連れてこられた途端倒れ込んでしまったのだ。これには流石にスィフィルも慌てて回復させて事情を聞いた。
『…申し訳ございません…。私達では創造主様方の魔力に耐えられず…。以前頂きました魔法具も役に立ちませんでした。』
『全く情けないことで、申し訳ございません。』
『…ごめん、なさい……。』
あれ?そう言えばそんなのあげた気もする。近寄れなさすぎても困るからって…。でも役に立たないんじゃ意味ないな。でも、そんな不良品あげた俺が悪いんじゃない?それなら俺が謝罪しないとおかしいよね?
「ごめんね、俺がそんな役に立たないのあげたから悪いんだよ、ホントごめん。」
『…父上、そうではないかも知れませんよ。不良品ではなく、アムルタートの魔力が溢れているだけでもなく、私の魔力も漏れていた様です…。精進が足りず申し訳ございません。』
えと…つまり、聖獣の魔力とスィフィルの魔力が少し出ているだけで、機能を発揮できないならやっぱりダメだよね?ランクの低い道具ってことじゃないか、それは流石に作った者としてはプライドもあるし、聖獣の魔力分くらいは耐えられる仕様に変更しよう…。スィフィルの漏れちゃう分は…スィフィルが出さない努力でね。
実際、スィフィルと聖獣の魔力分位なら影響を受けないようにするのは問題ないけど、もし、その魔法具が敵対者に奪われた場合笑えない状況に陥る可能性が高くなる。そんな事にはならないと思いたいが、この先、魔法具の存在を忘れた頃におきる可能性もないとは言えない。本人の能力とは別の所にある魔法具を求めるものは、いつの時代もどこにでもいるものだ。
ジェフィティールは3人の魔法具を加工して変更させ、聖獣の魔力が漏れないように膜で包み込んだ。スィフィルも自分で漏れ出ないようにしただけで、3人の顔色がどんどん良くなっていった。スィフィルに至っては普段から十分完璧に魔力制御ができているのに、今回は聖獣のことに気持ちが行きすぎてたまたま漏れてしまったようだ。それに対しジェフィティールは完璧に制御できているので今回も影響を与える事にはなっていない、意図しない限り魔力が出ることはないのだ。もし、その様な事態になれば…。スィフィルは恐ろしい想像をすぐに消し去った。
何とか無事に挨拶を終え、管理者3人娘達は去っていった。ジェフィティールは聖獣を包み込んだ膜が解けないように、その膜自体に循環機能をつけ頑丈にした。周囲を傷つける事なく、聖獣自体を守るように。これがジェフィティールの加護というものかも知れないと、スィフィルは思った。




