ジェフィティールの弟子ふたり
メヒモンテスが<リーヴェル>に転移させられる数日前
カリメッラとキッシャータの双子の姉弟は以前ジェフィティールに連れて来られた拠点<イスナーニ>の近くに来ていた。戦争も終わり、師匠であるジェフィティールに中央の支配欲まみれの人間達と離れておくべきだと言われたからだ。色々嫌な事もあったが、それでも一緒にいるつもりだったのに実際はやっぱり我慢できなくてさっさと離れた。
「師匠の悪評だの邪神認定だの聞いてられない。」「全員始末すれば何もいう奴はいなくなる。」「恩を仇で返す奴らはいなくなった方が世の為。」と言ってたら、ジェフィティールに自分と離れて身を隠せと言われてしまった。師匠と自分達の力を合わせればこの帝国くらい全滅させられると言ってみたものの、隣国のシャクリス国とガウナブダヌ国がジェフィティールを邪神認定した為、その他の国もどう動くか分からない。
確かに対戦国のガウナブダヌ国がジェフィティールの力を恐れて邪神認定するのは分からなくもないが、2人の出身国でもあり戦ってもいないシャクリス国が何故それに便乗してきたのか。メヒモンテスがベオグルリンドス帝国の中央にいる為情報をくれていた。それはシャクリス国出身のカリメッラとキッシャータを自国に取り込む為の一案でもあったようだ。その為「カリメッラとキッシャータの2人は邪神に騙されて、利用されている。」という様な噂も流されていた。いくら否定した所で「騙されている」「利用されている」「可哀想に」と逆に悪い噂は広がるばかりだった。
帝国中央と距離を置いて暫くすると、ジェフィティールが転生すると言い出した。拠点<スィフィル>で最後に5人で会った時、全員の身の振り方を相談していた筈なのになんでそんな話になるんだと思っていたが、メヒモンテスが帝国中央の動きとしてジェフィティールの“討伐“の動きがあると話した。その内容を聞けば、自分達が師匠の枷となっている事が鮮明となり、その決意を枷の立場の自分達がないんか言える事ではないのは、最年少10代のカリメッラとキッシャータでさえ理解した。
それなのに、転生なんて師匠が言うからきっと出来るんだろうとは思うが、普通はあり得ない事だと思う。そんな術知らないし聞いた事もない、師匠の次に物知りのメヒモンテスでさえ出来るわけがないと言っていた。ただの転生じゃなくて、ある程度座標を絞り込んで転生し、その後転移させる術式を拠点に設定するなんて、聞いていてもよく分からない。
「(なのにあの馬鹿は戻ってくる時間設定を300年後にしようとか言い出した。複雑すぎる術式でメヒモンテスでもほんの一部しか理解できないって言っていたのに、年数設定だけなら誰でも出来るからって、最後まで師匠と一緒に居られる役目を取りやがった。弟子の期間が一番短いくせに。)」
キッシャータは数ヶ月前の出来事を思い出しながら森を抜け、遺跡群の端に辿り着いたところだった。秋女神二月目二十五日。2人は数ヶ月かけて痕跡を残さない様に極力魔法を控え、拠点<イスナーニ>に来たのだ。本来は来るべきじゃない事はわかってはいるが、拠点<スィフィル>には行けないし、ここに来ても入れない事はわかっているが他に行きたい所もなかった。寂れた遺跡群が沈む夕日を背景に、より物悲しく佇んでいた。
「(あぁ、本当に拠点があったなんて少しも感じられない…。師匠との繋がりが、もうここにもないのね…。)」
カリメッラは涙は溢れそうになるのをなんとか堪えていた。波の音も、葉を揺らす風の音も全てが悲しい音に聞こえた。双子の弟のキッシャータはボロボロ泣いている。カリメッラは弟の背中を優しく撫でると、遺跡の崩れた階段あとに座って夕日が海に消えて見えなくなるまで見続けていた。陽も沈み辺りが真っ暗闇になっても2人は寄り添いあったまま動かなかった。流石に冷え込みがキツくなり野宿する用意をと、重い腰上げようとした時、遠くの遺跡から灯りがポツポツとつき始める。2人は身をかがめ一気に警戒体制を取るが、灯りは松明の様に一つ一つゆっくり増えていく。それと共に人影も増えていき気がつけば少し離れた遺跡の中央辺りに数十人が松明を掲げて三重の円陣を作っていた。
「(おかしい、生者の気がしない。死者なのか?死者でもない、肉体があるよな?悪魔か?邪悪な感じが無いのは何故だ?)」
「(…霊ではない?でも魔力を感じるわ、少し優しい感じの…似た感じを知っている気がする。)」
2人は警戒したままじっと、彼らが何をするのか見守っていた。すると、円陣の中心に大きな炎が現れ円陣の外側の人々が歌詞のないメロディを奏でる。一つ内側の人々は祈りの様なお経の様な言葉を唱え、一番内側の人々は舞を踊っていた。
「(何なんだ?)」
2人は見た事もない儀式に釘付けだった。そしてその儀式も佳境を迎えるのか1人だけ巫女の様な姿で炎に近づく者がいた。何か笏の様なものを持ち文字の様なものを宙に書いてゆく。すると炎は強く大きくなり、炎の先が渦を巻き天に伸びていく。それに目を奪われているといつの間にか周りから幾つもの小さな光が炎の方に引き寄せられ、炎の渦に乗って天高く登って行き、すーっと消えていった。
2人は誰に言われなくても、この儀式は死者の魂を送る儀式なんだろうと思った。鳥肌が立つほどの神聖な力をこの儀式に感じたからだ。儀式を見ただけの2人もいつの間にか胸の前で手を合わせ、目を瞑って祈っていた。神聖な空間のおかげか見ていただけの2人も毒素が抜けた様に身体も気持ちも軽くなって、久しぶりに新鮮な空気を吸った様な気がして目を開けると、もう誰1人残ってはいなかった。炎も残り火が小さくなって消えてしまうという瞬間に、嘗て遺跡ではなかった時の神殿の様な建物と人々が動いている姿が見えた様な気がした。
「(あれ?何か…違う。)」
カリメッラは一瞬見えた景色が幻想ではないと気付いた。魔力の歪みを感じたのだ。それはキッシャータも同じだった。2人は双子という特性の為か物心ついた頃から魔力の揺れ、痕跡などに敏感だった。オーラの様に見えると言えば良いだろう。ジェフィティールの様に溢れて誰にでもわかるものでなくても、魔力が少し弱くても感じ取れる程だった。特に幼い頃から世話になったジェフィティールやメヒモンテスは忘れない、好きじゃないチャスカですら覚えている。そんな2人だからこそ違和感に気づけたのだろう、顔を見合わせて頷くと慎重に先程の儀式が行われていた中心に移動する。そこには何の痕跡も見当たらず、砂埃や石のかけらなど、ただ遺跡である事実以外何もない。先程の儀式は幻だったとでもいう様に何にもないのだ。そう、だからこそ2人は確信した。ここには師匠ジェフィティールの残した何かがある、と。




