赴任先が決まる
ジェフィティールがメヒモンテスを転移させたのはバラルエルトニー大陸の別荘<リーヴェル>だった。本当は別の場所に連れて行く積りだったのだが、顔色が悪い彼の健康不安がここに行く先を変更した理由だ。ここでしっかり健康になってから目的地に転移させよう。
馬上に乗ったまま転移してきたメヒモンテスは目を開いた瞬間の周囲の変化に驚いていた。転移は師匠にしかできない為、今迄も数回しか体験していない上、気候があまりに違うし目の前に現れた建物も見たこともない美しさと大きさで圧倒されたのだ。馬上で口を開けたまま固まっているメヒモンテスにジェフィティールが声をかける。
「よう!いらっしゃい、メヒモンテス。どうだ、驚いたか?」
「…」
返事がない。どうも軽く気を失ってるのか?こちらの方を向かないし馬の方が先に我に返って慌てている。その動きにメヒモンテスも慌てて手綱を握りしめ馬を落ち着かせる。
「どうどうどう、落ちつけ落ちつけって。」
「あはははは、お前もな。」
ジェフィティールはすっと手をあげて、魔法で馬を落ち着かせた。メヒモンテスもその恩恵に預かる。ゆっくり馬を降り、挨拶をしようとするが、2人いる人物のうちどちらに先に挨拶すべきか判断に困った。呆けていたせいで何方が声を掛け魔法を使ったのか全く気付かなかったのだ。
1人は霜白の髪と藍色の瞳を持ち、髪は長く三つ編みに纏めて右肩に流している20歳くらいの青年。もう1人は霜白と黒が混ざった髪で黒っぽい瞳の17、18歳くらいのまだ幼さの残る青年だ。そんなメヒモンテスの様子にスィフィルが、まるで結婚指輪を見せるようにそっと手の甲を見せると、ジェフィティールとは違う紫紺の虹が全ての指先に宿っている。それを見てメヒモンテスはどちらがジェフィティールかを確信し、挨拶した。
「師匠、お久しぶりです。随分変わりましたね、これなら師匠本人とはバレないのではないですか?」
「あぁ、久しぶり。バレないかも知れないけど、ちょっとした事でバレないとも限らないから極力関わらないようにしたいんだよ。許せな、お前にばっかり押し付ける事になって。」
「そんな事はいいんです、自分で選んだ結果ですから。それよりここはどこですか?暖かいし空気が違いますよね、この建造物は何ですか?どこかの国の領地でしょうか?何かの獣らしき鳴き声も遠くに聞こえますよね?<ドゥルガン>では大分日も出ていましたが、ここはまだ薄明るくなって来たところだ。まさか時間逆行⁉︎できるんですか⁉︎」
「まぁまぁ、落ち着けって、メヒモンテス、相変わらず好奇心旺盛だな。」
ほんと、そう言う所が俺と似てるよな。何でも知りたがりっていうか、研究者向きっていうか。目の下のクマが懐かしいけど、今のメヒモンテスはちょっと病的だからな、しっかり休んでもらうか。
魔法で体調を回復させる事はできるが、時間もたっぷりあるのにそんな魔法を使用しないのは転生した先の日本での経験があるからかも知れない。嘗て転生前のジェフィティールには魔法で体調の回復など日常のことだったからだ。それからスィフィルを紹介して、名前の由来だの軽く説明した後、部屋に案内して設備の使い方を説明。興味津々で目がぎらついて来たから、魔法で強制睡眠させる事になった。
別荘には少し前に創った人工生命体人型メイドで料理全般の用意をさせている。スィフィルにさせるのも何なんで、掃除洗濯などは透明人工生命体不定型メイドが担当し、俺はもっぱら好きなことをする。最高だね。全部人型にすると俺が疲れちゃうんだよね、精神的に。記憶を取り戻してから、日本で修復したはずの魂源だけどそこそこのダメージを受けるんだよ。いや、全く平気だけどねなんかチクチクとね…。その為か本来メイド業務を人型がするのは普通の事なんだけど、まだ負担を蓄積させない為に目に付かないように透明にした。毎日清掃魔法が発動されるようにしてもいいけど、それはそれで生きてる家っていうか、呪われてる家みたいで嫌だったわけだ。
それに変なゴーレムが動き回ってる家とか、毎日魔法がバンバン発動してるところになんてきっと、ここで生きている生物達は来てくれないだろうしね。
魔法の効きが良すぎた訳じゃなく、メヒモンテスの疲労がピークだったんだろう、彼は翌日の昼前に起きてきた。俺がプールサイドのベンチに横になって<アルバア>で生み出しちゃった精霊と話しているところにスィフィルが案内してきた。
「おー、遅ようさん。疲れも大分取れたようだな、スッキリした顔してるぞ、メヒモン。」
「…遅くなりました。お陰様でここ1ヵ月分くらいの睡眠を取り戻した気分です。それにしても師匠、ここは何処なんでしょうか?私には思い当たる場所がないのですが…。」
「ここは俺が造った別荘だ。あぁー、所謂別宅ね。ここはね、え〜…。」
俺は地球儀のようなものを3D映像の様に作り、縮小したり拡大したりしながらベオグルリンドス帝国の位置や近隣諸国の位置、この大陸との位置関係などを説明した。驚きながらも興味の方が勝るって分かってたし、俺は3D地図を目の前に作ってこの場所の位置と周囲の動植物や魔獣、精霊などの生息域などわかっている範囲の説明をしてやった。聞いてるメヒモンテスは目をキラキラさせていた、まだギラギラにならなくて良かったよ、そうなったらしつこいからなコイツは。
「ハァ〜、師匠。また一段と人間離れしましたね。あれ?それとももう人間辞めてましたか?」
「ば〜か、辞めるつもりも辞めたつもりも無いよ。ただ誰にも疎まれず迷惑かけず、好きに生きて、この惑星のことを知り尽くしたいだけさ。」
「…“誰にも疎まれず“は無理ですね、もう疎まれてますから。でもそれ以外ならできますよ。というか、もうやってますよね?」
「うぐっっ!…相変わらず正直者だね、メヒモン。そんな君には冬女神2月目1日に<アルバア>に行ってもらおうじゃないか!」
そう、今直ぐじゃ無いけどね、ここで沢山面白い物を見せてたっぷり満喫させて、興味をたっぷり引いて離れ難くしてから行ってもらおうじゃないか。うくくくく…。いつも口では勝てないからな、仕返しだ!うちちちちちちち…
『(…はぁ、父上はまた何か変な事を考えている様ですね。きっと悪戯なんでしょうね、そんな顔してますから…。)』
そしてほぼ1ヵ月の間<リーヴェル>で生活と研究、フィールドワークを共にしたメヒモンテスはすっかり体調も魔力も万全となり、ここでの、この世のものとは思えない程快適な生活に浸りながら、すっかり満足して<アルバア>に転移して行った。
「…アレ?これで良かったんだっけ?なんか忘れてる気がするんだけど…。ま、いっか。」
意地悪な気持ちで考えた事など直ぐに忘れて、メヒモンテスとの研究三昧の1ヵ月間に満足したのはジェフィティールも同じだったのだ。




