2人の気持ち
スィフィルはログハウスの自室で以前の自分の身体を見つめていた。楕円型で透明な中に布団の様に白いクッションに包まれた身体を見ていると、過去の自分の罪を思い出さずにはいられなかった。
『これが自責の念というやつですか…。』
スィフィルはクスリと自嘲する。だからといってまだ後悔する訳にはいかない、勝手に自己完結してはならないのだ。ジェフィティールがこの世界で生きやすくしていく為、護る為、独りにはしない為にできる事をする。それが自分の存在意義なんだと言い聞かせながら気持ちを落ち着かせていた。
「スィフィル〜」
『!』
ジェフィティールの声にハッと我に返ったスィフィルは慌てて彼の元に急ぐ。声に出されるまで呼び出しに気付かないのは初めてだった。
『遅くなりました、父上。』
「ん〜、大丈夫。何かちょっとボーっとしてるんだよね。」
ジェフィティールの様子は変わりない様だったが、外見に変化が起きていた。髪の色に霜白が混ざって、長くなっていた。そのことをスィフィルに指摘されジェフィティールは外からの視点で自分を見ると、中身と外見の差はまだあるものの見た目が近づいてきていた。何故今更?と思いつつも特に今、不都合もないので気にしない事にした。
「…まぁ、この外見でベオグルリンドス帝国と周辺に顔出さなきゃ、問題ないでしょ?態々偽装するのもね。必要時にすれば良いや。」
『…父上は、以前の姿に戻られたいと思わないのですか?』
「…そうだな、以前の俺も今の俺も、転生先の俺も、俺は俺。色んな経験、体験、知識全てが、俺という存在に必要な全てだったと思えば戻りたいとは思わないかなぁ…。過去の自分も大切だけど、それだけじゃあ、今の俺を否定してる気がするんだよね。あの頃は良かった、的なことではなくて、あの頃も良かった、っていう事かな。」
スィフィルは疲れ果てたジェフィティールの記憶から、そう言う考えには辿り着けなかった。それはきっと転生して生きてきた時間がジェフィティールを変えたのだ。そして過去の辛い記憶を要らないと言われなくて良かったと、安堵した。もしも要らないと言われていたら…。
「スィフィル、大丈夫。俺にはお前が必要、お前が居てくれるから俺は俺でいられるんだと確信してるよ。」
『父上…。ありがたいお言葉です。』
そう言って跪き、頭を下げたスィフィルは少し肩が震えている様だった。何故だかやけにスィフィルが小さく感じる。スィフィルにも思うところがあるのだろうとジェフィティールは優しく肩に手を添えた。スィフィルはそこから温かいものが流れ込んできて自分を包み込んでいく事に身を委ねていた。そして震えの止まったスィフィルが何かを言おうとするがジェフィティールが遮る。
「何か言いづらい事があるみたいだけど、気にするなよ?俺の方が言えない事あるからな!」
『え⁉︎何が?言えない事とは⁉︎』
「良いの!そういう事もあるって事は……つまり、健全だ!」
スィフィルが言われた事に驚いてあたふたしているがジェフィティールは強引に話を終わらせる。何もかも開けっ広げなんておかしい、悩みも秘密も個人である限り持っていて当然だと俺は思う。聞いて欲しければ聞くし、相談があるなら話し合う。でも、罪を犯しているわけでも無いのに言いたくない事や隠している秘密を暴くのは、何か個人を蔑ろにしている様で違うと思うのだ。
「(俺はほんっと、個人主義だよね。)」
【自分が生きる事の中に、他人を入れる事、それが真の個人主義である】
自分を尊重するのと同じ様に、他人を尊重する。自分の人生の内に他人の人生も受け入れる。自分の都合に他人を無理に合わせない。言葉にするのは簡単だけど、実際に本当に出来ているのかはわからない。個人主義と利己主義を混同する勘違い○○は何処にでもいるが、俺はそんなの真っ平だ。スィフィルにも秘密や悩みがあって良い。無理矢理聞き出したいわけではないのだ。
「俺が泉で意識失ってたのって、どれくらいだった?」
『2時間ほどでした。』
「あ、そんな短かったんだ。」
『えぇ、それが何か?』
「いや、もっと長かったように感じたからさ。それならいい。それで<ヤクシェム>の事なんだけど…。」
俺は泉に倒れていた間にも<ヤクシェム>に色々影響を与えてしまったようだ。しまった事にバラルエルトニー大陸の別荘<リーヴェル>に泉が移動した…。いや、正しくは無いな、新たに<ヤクシェム>と<リーヴェル>を繋ぐ泉が出来たのだから。転移のためではない、転移もできるがそんな事より、俺の魔力の循環だ。俺の魔力が<リーヴェル>に溜まりすぎないように<ヤクシェム>に引き取ったり、<ヤクシェム>の俺だけじゃない魔力が循環されたものが<リーヴェル>にも還元されたりと、ちょっとした循環システムができた。
これが熟考して作ったのならまだしも、ちょっと良いかも、とか思ってしまったが故の結果とは言えない…。そうさ、こうやって秘密は増えていくのだ…。うん、情けない秘密だな。
ジェフィティールは恥ずかしい気持ちになって、ふと、不詳の弟子を思い出す。こちらに戻って数カ月。夏女神の季節を通り越し、秋女神も終わりに近づいている。アイツはもう生きてるうちに会う事もないだろうと思っているに違いない。
「(…羞恥心からアイツを思い出すのは、ちょっと失礼な気もするな…。そう言えば別の弟子はどうしてるかな…。)」
などと、ほんと失礼な理由で弟子達を今更に思い出す。
弟子は全員で4人。人付き合いが下手な俺の割に頑張った方だと思う。1人でも俺には無理だと思っていたのに、最後にはアイツだからな。アイツを弟子にした俺は血迷ってたんじゃないかと思うくらいだ。まぁ、最初の弟子も押しかけてきた勢いに負けて、だけな気もするけどな、それでも弟子の中でダントツに使える奴だった。元気にしてるかな…。メヒモンテス。




