ジェフィティールって
ロイが改装して泉だけの空間なのだが、高い透明度の深い泉の底は知る事ができないほどだった。水面はキラキラと何かの光に反射していて、泉自体が光っている様に見える。不思議なことにこの泉の近くには魔獣も魚も、生き物はいなかった。
生き物が生きていけない程酷い空間な訳ではない、逆に清廉過ぎる程に畏れ多い空間なのだ。ジェフィティールは何の迷いもなく進んで行きしゃがんで泉に手を入れる。くるくると水温を確かめる様な動作をした後、水面が波立ち無数の水滴が宙に浮かぶ。様々な光の水滴は弾けると小さな鳥、ハチドリの様な鳥が生まれた。無数に生まれた様々な色の鳥達は十数羽を残し、壁を抜けて何処へとも無く消えていった。色とりどりの鳥に目を奪われている間に足元の泉には、人か人魚か、水人族に似ている女性がいた。
ジェフィティールが呼んだのか?いや、そんな伝手はないし、外界とまだ繋いでいないのだから侵入者でもない、彼が創造したに違いない。ここにいる者はジェフィティールの魔力能力を疑わないので直ぐに結論に辿り着く。
『父上、その女性は…?』
『父上様、その人は新しい守護者ですデスカ?アチシはもう要らないデスカ?』
スィフィルの言葉に被せて、目に涙を溜めながらアマルが悲しそうに質問する。失敗ばかりの自分は必要ない、だから新しい守護者を用意してアマルと置き換えるのだろうと。
ジェフィティールは全く違う事を考えて創ったので、アマルの勘違いに驚いた。
「?どうした?自立型にしたからか?コレはお試しVRスーツみたいなものだよ、アマル。バラルエルトニー大陸の離れ小島(と言うには大きいけど…)にある別荘で集まるのに、コレを着てもらいたいんだよね。」
『コレを着ないと行けないデスカ?転移出来ないデスカ?コレ着ないと死んじゃうデスカ?アチシは実はすっごく弱いですデショ?』
何でそんな勘違いするんだ?って言うか、どうしてこうアマルは先走っちゃうのかな?アマルは死なないし、弱くもない。外界を知らないから仕方ないけど、前世の俺だったら負けてるか、良い勝負が出来ているか微妙な所だろう。つまり今の人族、魔獣には負けない。逆に周囲に影響を及ぼしてしまうだろう。なので、強制的にこのスーツで覆って仕舞えば良いと思い作った訳だ。それも別荘に対になる一体を用意して向こうではそのボディが動き回る様にしたのだ。結局、アマルに理解してもらうのにスッゴい時間がかかったうえ、スィフィルは興味津々で何故か自分も欲しがった。まぁ、おかげでアマルも機嫌が直ったのだけれど。
「さてと、それじゃ俺たちは行くけどアマルとロイ、しっかりと管理、守護してくれ。俺はお前達が<アルバア>に齎す進化に期待してるからな。」
『“進化”ですデスカ?』
「そうだよ、アマル。この<アルバア>が2人の力でどこまで安全で平和で幸せな空間になるのか、楽しみにしてる。不安な事やわからない事は何時でも相談してくれて良いからな。頼んだぞ。」
『はいデス!』
元のように元気になったアマルとロイを残し、俺達は<アルバア>を後にした。
『父上、あのVRスーツなるものは別荘にはまだ配置されてませんよね?対になるものが無いのにアマルが装着した場合はどうなるのでしょうか?ただの全身スーツでしょうか?』
「まさか、アマルは感情の起伏が激しいって言うか、勘違い暴走女子って感じだから、スーツを着てる間は何があっても魔力が漏れないようにしてあるさ。勿論、攻撃されても完璧に防御もしてくれるスーツにしたけどね。」
ジェフィティールは得意気に言って話を続ける。
「それに、泉に手を入れてスーツを作ってるときにバラルエルトニー大陸の別荘に繋げてあっちにも作っといたから、問題ないよ。それより彼等だよね、まさか精霊が生まれちゃうとは思わなかったよね。」
それにどこ行ったのやら、この世界に影響を与え過ぎないようにしたいんだけど、大丈夫かなぁ…。
『父上…。魔力のコントロールがまだまだの様ですね。生まれちゃったでは済まないですよ、如何するんですか?ラインが繋がってるわけではないのでしょう?勿論パスも繋がってませんよね。自由な精霊が大量に生まれたのです。元々居る精霊達と敵対する訳にはいきませんし、人族に捕まるとは思いませんが注意が必要でしょう。』
「…。ゴメン。VRスーツ作るのが楽しみで気を抜いてました。でもね、あのスーツは色々便利でね、機能も防御だけじゃ無くて」
『父上。』
ジェフィティールはスーツの有用性を説明しようとしたが、スィフィルに遮られてしまった。
『我慢をお願いするのは心苦しいのですが、父上のご希望に沿う為にも自重していただかないと、私ではフォローするにも力不足で申し訳なく思いますがよろしくお願いいたします。』
「はい…。」
『…バラルエルトニー大陸では、もう少し気楽でも平気ですよ。正直言って敵対行為に及ぶ愚か者は人族だけですので、環境破壊さえしなければ文句も出ませんから。』
スィフィルのフォローの言葉にジェフィティールは顔を上げ、明らかに機嫌が良くなった。スィフィルはクスっと笑うが、人族を残さなくてもこの世界は滅びないのに、何故ジェフィティールが頑なに残そうとするのか不思議であった。失って惜しい文化も技術も何もない人族にどんな価値があるのか、ジェフィティールが好きに生きて結果的に人族が滅ぼうとこの世界は変わらず存在するだろう、全く問題ないではないか、と。




