<アルバア>の魔石
俺はこの大きな島に取り敢えず<リーヴェル>と名付けた。今のところ変化はないので名付けによる魔力供与は起きてない。しっかり魔力を遮断してなずけ名付けた意味はあった様だ。
俺は楽しさのあまり<リーヴェル>の探査、生態調査に集中してしまい気が付けば3ヶ月という時間が過ぎていた。初めて見るものが殆どという環境では誰でも同じ様になってしまうに決まっている。そう、仕方ない…。仕方ないはず…なのだが、流石に拠点の状況確認をすべきだと、スィフィルに食事の際言われた。
俺の趣味、げふんげふん…。生態調査がある程度キリがいい所まで待ってくれたのだから、文句は言えない。何てったって、俺が転生して戻ってくるまでの間より長い時間連絡してないのだから…。
『私から定期的に連絡は入れてましたが、流石に彼等も父上と直接会う時間が欲しいと思いますよ。最近、皆の嫌味が酷くなってきましたからね…。(彼等の心情など、全くもってどうでも良いのですが、最近しつこいんですよね。)』
「そうだな、ひと段落したし、皆んなを呼び寄せても……。いや、ダメだな。転移もアレだし…。ここに…。だな。よし、取り敢えず順番に俺がチェックに行くよ。」
『よろしいのですか?(そんなに甘やかさなくても良いと思いますが。)』
「あぁ、問題ない。<ヤクシェム>はスィフィルに現状聞いてるから後回しになるけど、大丈夫だろ?」
『勿論、問題ございません。(問題など起きたら私が父上の側に居られなくなってしまうではないですか、その様な無能はいませんし、いたら即刻排除です。)』
スィフィルの態度が妙に引っ掛かったが、俺はアマルの守護する<アルバア>に向かう事にした。地下都市とか鍾乳洞とか、あと魔石。どう変化しただろう、実は楽しみで仕方ない。あんまり拡がっても困るけど、何の変化もないなんて事は幾らなんでもないでしょう?地下都市には何か生まれたかな?蟻は…ヤダな…。
巣穴から、うじゃ〜…っと出てくる蟻を想像して鳥肌が立った。
スィフィルは各守護者達と連絡を取っていたため、現状把握は出来ているが不都合がないのでジェフィティールに態々報告していない。自分の目で確認したいと思っているに違いないからだ。ただ、何時でもジェフィティールの満足いく様に準備するだけである。
「あ、でも突然行ったら驚くよね?連絡しないと。」
『既に連絡しておきましたので、問題ありませんよ、父上。』
「…わぁ〜、ありがとう〜。流石だね〜。」
『父上は思った通りに行動されて下さい。』
満足気ににっこり笑うスィフィルにジェフィティールは引き攣ったまま頷くと、スィフィルには出来るだけ迷惑かけない様にしようと思ったのだった。
<アルバア>に移動すると、アマルが跪いて迎える。ジェフィティールも大分慣れてきて、そういうものだと思わないと長い問答が始まるので、やめている。
「久しぶりになって悪かったね、アマル。それで、その後どうだい?」
『…父上様?大きくなっちゃったデスカ?もっと大きくなっちゃうデスカ?』
身長も守護者達の中で二番目に低いアマルは、見た目も大人とは言えない。でも冠の様に見える角は見た目を上品にさせている。にも関わらず、残念な口調は変わらない様だ。
「あぁ、そう言えばこの身長になってからはじめて会うんだね。まぁ、そういう事かな?アマルの方が小さくなったのかな〜?」
『ぷ〜!ひどいです父上様!自分だけ大人になっちゃって!アチシも大人になるデショ?』
まぁ、子供っぽい所も可愛いから良いけどね。
「ん〜、残念。アマルはそのままかな?その方が可愛いよ、ね?」
『む〜。仕方ないデス。アチシが可愛いからですデショ。』
「そうそう。それで拠点の報告もお願いね?」
俺は、俺より低くなったアマルの頭をわしわしと撫でた。そしてアマルの報告を聞きながら疑問点を挙げていく。大きな点は鍾乳洞、範囲が拡がってるだろうとは思っていたけど、何故迷路の様になっているのか…。何故魚人の様な姿の者が奥にできてる湖の岩の上で寛いでいるのか…。アマルの眷属?の感じがしないんだよね。
聞けば何時の間にか住み着いていたという。そんな事ある?って言うか、アマル、ちゃんと仕事しような…。ここは未だ外界と繋がってないし、結界に異変があればわかるはず。と言うことは、ここで生まれた生命となるわけだけど、たかだか3ヶ月でそれはないでしょう…。
『ふぅ…。父上、魔石の影響で生まれた生命体のようです。魔石がこの鍾乳洞の最奥に移動してここを拡張した様ですし、ある意味この地下都市は魔石に乗っ取られた状態と言えます。』
スィフィルがアマルの説明の仕方に業を煮やし、<アルバア>と地下都市の現状を端的に説明し始める。魔石に意思がありそうな事、魚人らしき者を作り地下都市の鍾乳洞を自分の根城にして、地下都市を防衛させている事。意思疎通を試みたが無視されたらしい。魚人らしき者は眷属の様な魔獣(イモリの様な姿で体長が5メートルもある)を何十匹と生み出し占拠されてしまった様だ。
アマルは彼等をどうするつもりなのか、守護者であり管理者なのだからその対策を聞きたい所だ。
「それで?アマルはどうするのかな?」
『え?新しい住人は歓迎するですデショ?』
「『は?』」
えっと?何言ってんだアマル!この現状でその発言て!
『あれ?魔石は父上様の魔力をちょっと吸ってるから、魔石の作った魚人っぽいのは父上様のものデショ?勝手に手出ししちゃダメで、歓迎しないとデス。』
「『…』」
うわー。参った。明らかにおかしい事に何故気付かないのか、アマルさんや…。魔石が魔力を勝手に吸ってる時点で泥棒さん、まぁ知ってて放って置いた俺も悪いからそれは別として、地下都市の鍾乳洞を与えた訳ではないし、住みたいと許可も求められてないのに住み着いている時点で不法占拠だな。かつ勝手に数増やしてこっちは余り良い気はしない。排除は簡単だが、折角だから話し合いをしたいもんだ…。まぁ、最下層の泉には全く手出ししてないって言うか、近寄れないみたいだけどな。
俺がやってもいいけど、アマルの後学のためにもスィフィルにやって貰うか。守護者としてしっかりしてもらわないと困るし。
「スィフィル、アマルの為にも守護者として御手本見せてあげて。」
『畏まりました。アマル。来なさい。』
『はい…』
スィフィルはアマルを呼び、諭す様に話す。
『先ず、貴女の間違いを正します。良いですか?魔石は父上が態々お作りになったのではなく、勝手に出来てしまったのです。そしてそういう事はよくある事です。父上に限ってですがね。』
「(ん⁉︎ 何言ってんの?)」
何かスィフィルの説明が違う方向にいっているような…?
『そして父上の魔力を勝手に盗み、父上のお作りになった地下都市に勝手に侵入し、剰え父上の気に入られてる鍾乳洞を、勝手に生み出した魚人もどき等と占拠し弁明すらしない。その様なものの存在を認める必要はありません。』
「(何で同じことのはずが、全く違う様に聞こえるんだろ…。)」
スィフィルの説明が不穏な空気を纏っている様に感じ、俺は悪寒を感じた。
『!!! アチシはなんて事を!!アイツらは侵入者だったんデスカ!泥棒までしてとんでもない悪党ですデショ!』
スィフィルは頷きながらアマルの意見を肯定するが、何かちょっと違う様な…。
『では、どう対処すべきだと思いますか?』
『魚人もどき達は父上様の魔力を盗んだんだから、地下都市の養分になってもらいますデス。魔石もまた同じ事しそうだから中身を空にして、粉々に粉砕して<アルバア>の壁に塗りますデス。』
うわ、養分てなに?俺は壁や床に埋め込まれた魚人っぽいや大量のイモリっぽいのを想像して青くなった。
『悪くはありませんが、まず先に魔石と魚人もどきに繋がっているラインを切り離しましょう。魔石は父上の魔力を盗んで少しは成長した様ですが、まだ自力で移動も何も出来ない。そこらの石と変わりません。』
「(石って…。それは可哀想だろ、人の大きさもある魔石に向かって。)」
『ですが魚人もどき達は移動可能な分、他に悪さをされても面倒です。まともに意思疎通が出来ないならこちらがラインを繋げて使役すれば良いのです。これだけ拡がった鍾乳洞の管理に多少なりとも役立つでしょう。』
「(ホントに扱いが酷いな…。良いのかそれで?御手本になってる?)」
『ありがとうデス。じゃ、先に魔石を粉砕するデス。』
アマルはラインを切るのが面倒なのか、後でどうせ粉砕するからと先に魔石を処分する事を選んだ。俺は慌ててそれを止めて魔石の有効活用を提案する。魔石が悪さをすると言うなら小さくして管理すれば良いだけだ。俺は手のひらを上に向け錠剤ほどの大きさに圧縮した魔石を見せた。
「これ以上圧縮したら割れちゃいそうだからこんなものかな?」
『父上様凄いです!あの魔石が一瞬でこんな小さくなるデスカ!』
『父上、それはどうするのですか?』
俺は少し考えて、アマルの肩にいる龍にあげる事にした。首に掛けるのに丁度いいからネックストラップに加工する。
「君にあげるよ、名前は何て言うの?」
アマルが龍の名前を教えてくれる。
『ロイですけどいいデスカ?父上様にもらうなんてうらやましいデス!』
『…ホント…たかが…きに…まい…』
何だかスィフィルのぶつぶつ言ってる声がしてるが、そこは気にしない。魔石も錠剤サイズじゃ人にあげるには小さ過ぎる気がするんだよ。質も今一つだったし。あのサイズの魔石だからそこそこ期待したんだけど、小さくし過ぎると割れそうだし、折角圧縮したのに、俺が一番ガッカリしたと思う。
「圧縮しても性能?質?が上がらなかったから、いいじゃん。もっと良さげだったらアマルかスィフィルにあげたよ。屑石って訳でもないけど、やきもち焼くほどのものでもないでしょ?俺だってもうちょっとマシなのが出来ると思ったのに、ロイもゴメンね、こんなので。アマルに良いものを作って貰うまでこれで我慢してね。」
『キィーァ』
全員に散々言われている魔石だが、ジェフィティールに圧縮され実は能力も魔力も質も一気に上がって、魚人もどきを複数新しく生み出す事が出来るくらいになっていた。ラインが繋がっていれば魔石を守らせる様に使役も可能だ。魔石は龍の首に付けられた後、龍を使役しようとラインを伸ばすが繋がった途端に逆に龍に支配された。
魔力のある人や魔獣、獣達を支配し世間で恐れられる魔石になるはずだったが、ここに居るのはこの世の規格外、アマルの肩にいる龍のロイですら、傷をつける事が出来るのはアマル、スィフィル、ジェフィティールだけだ。それを知らない憐れな魔石は、実力を世に知られることもなくロイの装飾品であり、便利な道具となった。




