新たな1日
「はぁーーー!ここに決めて良かった。他の大陸と少し離れてるところがまた良いね。遠くに島影が見えるくらいが丁度いい。気候も良い、湿度があまり高くなさそうだし、過ごし易そうだな、今のところ。」
『…そうですね。害敵も居ませんし、別荘地としては合格です。では、私は早速父上にお見せ頂いたイメージ通りにホテル?の建造を致しますので、父上はリネン類やその他諸々の対応をお願いいたします。』
「ん、了解。できるだけ自然の景観を守って生態系に悪影響を与えない様によろしくね。俺たちが彼らの害敵にはなりたくないから。」
『勿論、承知しています。』
スィフィルは両手を軽く広げ、宙でピアノを弾くかの様に指を動かすと建設予定地の木材の他、スィフィル自身の魔力が混ざり合い、ジェフィティールのイメージ通りのホテルが瞬く間に出来上がっていく。スィフィルは隣にいるジェフィティールの様子を見て小さく笑う。
『(父上、折角見た目が18歳ほどの男性らしくなったのに、そんな小さな子供がする様なキラキラした目でいられると…。困りましたね、可愛すぎます…。)』
ジェフィティールはそんなスィフィルの感情に全く気付かず、出来たてほやほやの建物の中に入っていくと、人差し指をたてスィフィルの真似をする様に指をトントントンと、3回振るとベッドやソファ、ジャグジー、シャワールーム、バスタオルからウォシュレット付きトイレまで、細々したところまで全部屋に揃った。
『おや?私の真似ですか、父上には必要ないでしょうに。』
「ん?何か、格好良い感じがしたから、真似てみた。」
『確かに、とても可愛い…格好良いですね。指先一つですから。』
「…聞こえた。もうしない。」
『そんな事言わずに、偶にでも見せていただけると嬉しいです。父上の魔法はとても心地良いので。』
「そうなの?」
『はい。私には今回の魔法などは、とても楽しい弾んでいる様な魔力の流れと音楽の様なものが聞こえる気がします。実際に音は聞こえませんけれど。』
「…ふ〜ん。そう言えば楽器らしい楽器って少なかったな。まぁ、なんと言っても伝統文化と言えるほどの歴史も未だ浅い時代だしな。」
そう、この世界は地球で言うところの中世より前時代、古代ケルト、古代ギリシャより前の時代と白亜紀がごちゃ混ぜになっている様な状態だ。
生きる上で大事な衣服と食事と住居が安定してきている。しかし魔獣達の脅威は減らない、ただ獣や魔獣が少なく、対応できる程度に定住生活できる生活圏が確保でき始めて千年弱、少しずつ生きる為以外の楽しみに、一部の人が時間をかける様になってきたのだ。
書物と言えるものも数える程しかない、建物も下々は木造掘立て小屋、魔力ある者は立派な木造、若しくは石造り。トイレという設備は外、シャワー、風呂などあるわけがない。服装はゴワゴワした布地を体に巻きつけるだけだし、魔力のある者も服を作る事はできない。一般に魔力の知識すら少ないので、有用性も訓練も研究もたいして進んでいないのが実情なのである。誰かが何か便利な物や道具、魔法を使えばただ真似をする事で広がる状況。何もない世界で特許だのなんだの意味がない。何せ何もないのだから。
職人などで生きてはいけない。物々交換時代から等価交換、質取引、信用取引と少しずつ経済が進歩してきているが、まだまだ市井は等価交換と質取引で回っている。職人一筋で生きていけるほど甘くないのだ。
そんな時代にジェフィティールは異質だったのは当たり前で、文字を統一して書物を纏めたのも、質取引だけでなく信用取引を広め、証文から金と言う鉱物に価値を置き換えたのも、魔法に属性や名前をつけたのも、彼だからだ。
ジェフィティールにしてみれば、記録が読みにくいのも、一つのものが取引する相手によって価値が変わる事も、証文などという嵩張るものも、魔法の技術が伸びないもの、全て彼自身が楽する為に勝手に他人の文句など聞き入れず、「他の基準など知らん」とばかりにやり続けた結果なのだと世間では言われているが。世の中は真似る事でどんどん広がっていく、その価値観が定着していくことも早かった。彼にしてみれば、今まであるものを統一してまとめ理解しやすい様にしたり、新たな金という鉱物を工夫してリングにし価値を持たせただけなのだが、一部の捻くれ者達に妬まれ、人格や素行が捻じ曲げられ広がっていったのだ。
ジェフィティールは楽器を作っても奏でる者がいなければ意味をなさないので、記憶にある音楽を全て入れてジュークボックスの様なものを作った。
「どお?これが音楽なんだけど…。」
『…複雑に色々な種類の音が混ざっているのに、不快でないのが不思議ですね。面白いです。でも私は父上の魔力が奏でる音が一番だと思います。』
「(褒めてくれるのは嬉しいけど、何か複雑…)ありがとう。」
ジェフィティールは気持ちを切り替えて、集会所という名目のホテルを完成させると、この地を探検することにした。全く初めての土地に知らない動植物、魔獣、何が生息しているのか楽しみでならない。
「(魔力で調べるより、実際に目と手で確かめたいんだよね。素材、サンプル集めも自分の手でやりたい。良いよな〜、毎日こんな風に過ごせたら。)」
『父上、お楽しみの所申し訳ないのですが、獣や魔獣の対応はどの様にいたしますか?』
サンプル集めも結構貯まってきて、気分が乗ってきている時にスィフィルが声を掛けてきた。ちょっとムッとしたけど仕方ない、一緒に対応する事にした。ここの魔獣達と初めて接するのだから。
「どんな子達か、先ずは会ってみようか。」
『はい』
ジェフィティール達は森の中で採集していた、周囲少し離れた樹々の上方に数匹の魔獣がいた。ゴリラほどのサイズで鳥の様に見えるが足は猿の様に指がある、羽毛はカラフルな色合いで正直言って目立つ。長い尻尾も猿の様に幹に巻きついて落ちない様にしている様だ。
「(おっと、観察は後回しにしないと。)君たち、俺たちの意思は伝わるかな?」
俺は言葉以外に、魔力に攻撃の意図はない意思を乗せて複数の魔獣達に慎重に送る。何らかの意思が返されれば対応できるが、何も無いのが一番困るのだ。魔法に任せれば出来なくないが、影響が大きい。彼等が望まない影響は控えるべきなのだ。
『ピロロ、ピロロロ。クルルルル。』[あなた達は初めて見る。何故ここにいる?]
「[俺達は、今日この近くに住居を建てたんだが、ダメだったか?]」
『ピッピロロ、ピロッピロッピピピピー、グルルッグルル[ダメかどうか確かめに来た。我等は広く生息する者。我等を喰らうか?]』
「[いや、食事は別でする。こちらから敵対するつもりはないが、攻撃されれば対処する。その事については明言する。]」
『ピッピッピピッピロロロロ、ピロロロロピロロ。ピーヒュルルルルルルー。[他種族は知らないが我等は攻撃の意思ない。勝手に敵対行動をした者がいても関知しない。では確認したので用は終わった、我等は帰る。]』
「[では、近くに住むので気が向いたら来てくれて構わない。歓迎するよ。]」
不思議と猿の様に木々を渡って消えていった。鳥の様に飛ばないのか気になったが、魔獣の類なのに落ち着きのある数少ない種族なのだと思った。彼等の生態も調べてみたいとジェフィティールが思ったことはスィフィルにはバレバレだ。




