ジェフィティールとスィフィルの思考の先
ジェフィティールとスィフィルは宇宙樹の島<ヤクシェム>にいた。
ジェフィティールは日本から転移で戻ってからの、怒涛の日々を振り返っていた。
拠点回りも一気に終わらせたし、保存しておいた“記憶と能力”も回収した。記憶と性格が影響を受けてまだ少し落ち着かない状態が続いている。能力と魔力は如何とでもなる感覚があるから大して気にもならないが、性格に及ぼす影響ははっきり言ってマズい。
今からでも封印した方が良さそうな記憶と感情が幾つもあるからだ。思い出してしまうと途轍もない破壊衝動が俺自身を支配するから、思い出さない様にしているのだ。
既に何度かやってしまったから、そのヤバさも皆んなが知っている。
恥ずかしいなんてものじゃない。前世で50年程、日本で70年程生きてきって言うのに自分の意思で感情をコントロールできないなんて…。
出来るだけ昇華させたい感情だけど、70年程の日本での人生も、こっちに戻って来たらほんの12日程度しか経っていなかった、転生した時と変わらない世界が、俺の感情をより鮮明に過去に引き戻してしまう。
この<ヤクシェム>に居ても、ふとした瞬間に感情がぶり返してくるのだから、全く関係のない土地に行ってみるしかない。
そう、転生ではなく、ベオグルリンドス帝国とは関係ない大陸へ行けば良いんだ。前世では知り得なかったこの星の全貌が今の俺には分かっている。ベオグルリンドス帝国が如何に小さいのかも、人の生息域がどれ程狭いかも知っている。自由気ままに世界を旅して巡ろうと思っていたけれど、リハビリの一環として<ヤクシェム>以外に地上の楽園を創ってみても良いかもしれない。
ジェフィティールは少し前向きな気分で口の端が上がった。
が、ベオグルリンドス帝国領内にある拠点2箇所も含め拠点の扱いについて考える。全ての拠点を守護者達に任せて放って置いてしまうか、帝国領内の2箇所だけ放棄するか、全ての拠点を放棄するか。
「(大体皆んなの意見は想像できるし、時間も状況も追い詰められてるわけでもないからな、一度目星を付けた場所の下見でも行こうかな…。)」
そう思いつつもジェフィティールは少し気になる事が別にあった。全てやるべき事は終わった筈なのに、自分がまだ完全に一つになっていないのだ。外見と中身のブレがある事に納得がいかない。気にしなければ良い、生きていくのに何ら問題が生じているわけではないのだから。それでもふとした瞬間にもたげる、何かが足りない。何が足りないのかわからない。もやもやした気持ちがいつまでもこっそりと残っているのだ。
そしてスィフィルはそんなジェフィティールの気持ちの揺らぎを感じてか、特に何も言わず、黙々と<ヤクシェム>の管理に勤しんでいた。管理者3人と泉の状況、眷属のバランスと働き、生態系のバランスと、仕事は意外にあるのだ。
だが、仕事があるというのは良い事だ。様々な現状に対応し、判断して指示をする、新しい生命が生まれている事、動植物全てにおいて新しい事象には興味がとても惹かれる。研究、検証したくなるのはジェフィティールの魂源をほんの少し貰っているからなんだろう。
『(この身体と“私”が馴染んできたからか、父上の研究欲が私にも根付いてしまった様ですね。本当に父上の知識欲は底がないですね、支配欲も攻撃性も無く、純粋にただ“知りたい”だけ。それ以外は全て不要。争い事が面倒だなんて、この身体の前は父上に害をなした輩達をどう始末を着けるか幾通りも考えていたというのに。それよりも父上の楽園を、どの様に造って維持していくかの方に意識が向いているとは…。)』
そして、同じ様に“記憶と能力”から生まれたものの一線を画すスィフィルとは違い、地上の拠点の4人の守護者達は、ジェフィティールに受けた恩を忘れ迫害し、追い詰めた痴れ者どもを如何に苦しめ、恐怖を与え痛めつけようかと力を蓄え、心中に案を巡らせているのだ。
彼らは転移で戻ったジェフィティールの魂源に触れ、顕現化したのでこれで済んでいる事をスィフィルだけが理解している。
同じ様に顕現化していた時の思考と、ジェフィティールの魂源の欠片を使って出来た今の身体になってからの思考には大きな違いがあるからだ。
地上の者にいかに復讐をなしとげ、慈悲など要らないと思っていた自分は鳴りを潜め、ジェフィティールがただ自由に幸せを感じれる世界を共に創り上げることこそスィフィルのなすべき事だと、思考が変わったのだ。
そして負の感情にまだ囚われている守護者達が、ジェフィティールの未来に影を落とす可能性をスィフィルは進言すべきか躊躇っている。
『(別に彼らが復讐する事に何も否定はしないし、寧ろ私が主導でやりたいところだが、父上の希望である「目立たずひっそりと自由気ままに生きていく」事に支障をきたす恐れがある…。目立たず、関わりを察知されない方法を考えねばならない。出来なくはないのだが…。父上の「思い出すのも嫌だ」と言う意識があるうちは手を出さず準備だけにすべきだろう。)』
「あのさ、拠点の事で守護者達に意見を聞きたいんだけど、皆んなが集まるのにはやっぱりここ<ヤクシェム>が良いよね?」
『…問題ありませんが、何か気になる事でもございますか?』
「いや、何となくなんだよ、何となくさ、別の場所にしたいんだよね…。何か気持ち引っ掛かるものがあってさ。それで、人のいない大陸の良さげな場所に集会所建てて、そこに集まろうかと思ってるんだよね。どう思う?スィフィル。」
『全く問題ありません。私も<ヤクシェム>は父上と私の特別な場所ですので、その様にしていただけると嬉しい限りです。(守護者達の何かが<ヤクシェム>に悪影響を及ぼすのも嫌ですし…。)』
「(特別な場所って…。)ありがと。じゃ、そう言う事でちょっと行ってくるね。」
振り返って行こうとすると、がっちり肩を掴まれ何故か冷たい笑顔のスィフィルが引き止める。
『何を仰いますか、勿論私もご一緒します。地上世界に合うようにその“集会所” のデザインを私が喜んでさせて頂きますとも。』
「(それって、ログハウスはダメって事かな?でも、他の拠点はそんなに変じゃない…でもないか…。)そうだね、その方がきっと良いよね…。」
俺はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ拗ねてしまった。でも、転生前のセンスより良くなったかも知れないし! 意外に良いのが出来たりするかも、たぶん…。




