ここは何処? 私は誰?
そう転移していた…
(……まだか?)
何度も瞬きをしてみるものの、我が家ではない天井のままだ。長い瞬きの後も…変わらない。
(…………いや、まさか)
周りを確認してみると、ログハウスの様な木が剥き出しの部屋にセミダブル位のベッドの上に私は寝ていた。部屋の中には引き出しすら付いていない簡素な机と椅子、小さなクローゼット、傾斜した天井に丸窓が一つ。
(まだ家に戻らないのか?)
転移じゃないなら拉致か?誘拐か?いやいや、家族も親族も居ない私をそうしてどうする? 何もメリットがない。こんな年寄りには大した価値も見出せないだろう。拘束されているわけでもない、人の気配もない。体に不調は感じない。薬も使われていないだろう。部屋の扉は鍵が付いていない様だ。
(拉致、誘拐はないな)
と言うことは、転移で間違いない。本当に瞬間で景色がかわって空気も違う。人の気配はないものの、私は出来るだけ音を立てない様にベッドから降りた時裸足に気付く。
(床が少しザラザラしてる、土足習慣か?日本家屋生活大好きな私には慣れないな…)
取り敢えずドアまで行きそっとドアを開ける。そこは、簡素だが円卓のダイニングテーブルと椅子が5脚、左側に勝手口?らしき扉と流し台に竈門?向かいの壁には食器棚と横に通路。右の壁には扉が2つ。灯りは流し台の上の窓と通路の方から少しあるだけで、薄暗い。
「ホントに 何処だここ?」
って言うか誰ん家? ん? んん? んんんーーー??
声がへん?
「何かおかしい…いや、おかしいのは当たり前なんだけど、いや、そうじゃなくって…」
自分の声が違う、口調が、思考までが変わってきてる? いや自分の事なんだけどね、何で?ちょっと待って?どう言うことだ?? 何?何??なに???
ドッドッドッドッドッドッド……
心拍数が急上昇して、変な汗が溢れてくる。さっきまで落ち着いていたはずの思考も行動もグチャグチャになって、頭から湯気が出るとはこの事かって言う感じにパニクった。
「落ち着け 俺! 落ち着け 俺!」
後期じゃないけど高齢者だぞ!! 落ち着けるだろ!!俺!!!
深呼吸だ! スーハースーハースーハー……
椅子に座ろうと手を伸ばすが、椅子が思いの外大きい…いや自分の手が小さい…。小人化?子供化?別人に憑依?
「うわっマジか!手が震えてるじゃん」
何だ?子供の声か?自分の声だよな? そうだよ、俺が喋ってるじゃん!!
まだパニクってるぞ俺、けどもうすぐ落ち着くさ、その筈だ、もうすぐ…もうすぐ………
震える自分の体を何とかコントロールしながらやっとの思いで椅子に座ると、ふ〜っと息を吐く。
そのまま何分思考停止していたのか、所謂フリーズ状態になった。いやホントに停止ボタンどこだよって位全てが止まったよ。呼吸も止まってたしね…
「フュ、ハーー…」
本気で死にそうになった所で慌てて呼吸し始め、意識が徐々にピントが合う様に平常に戻ってきた。
兎に角、今俺は子供になってる。“俺”なんて言うのも久しぶりだけど、まぁそんな事はどうでも良い部類だ。体が子供…知らない誰かの体なのか?意識は俺、だよね?
椅子に座ったまま手足をバタつかせ、手は何度かグーパーしてみる。気持ちが大分落ち着いたからか、今はもう震えてない。
「確かに俺だ、俺の体で間違いない。でもなんで子供なんだ?あの一瞬になんかあったか?」
ここに転移する前と後を思い返してみる…が、何せ70歳の自覚あり、自信がない。
なんちゃってお札が風で剥がれて、「あ」と思った時には…時には…?なんかあったか?あった様な気もするけど…きっと何かあったんだろう。
今、思い出せない事を深く考えたってどうしようもない。俺は考える事を放棄して
「よし、 先ずは安全確保だ!」