スィフィルのカラダ
<ヤクシェム>では、ジェフィティールが<アルバア>に移動した後スィフィルがヴェリュ、ユミス、マーラに眷属を作らせて環境を整えていた。
『スィフィル様。私達の眷属に見回りさせてますが、あちらこちらから新たな生命種が生まれて数も順調に増えているという報告があります。』
『また、創造主様の御力の影響が強く現れているある場所では、我等の力の及ばぬ泉が生まれ見守ることしか出来ませぬ。』
『…その上…他の属性が…複雑に混ざってるので…これからどうなるのか…わかりません…』
3人はスィフィルに跪き、少し不安気に報告する。
スィフィルは人差し指でトントントンと3回唇を叩き、思案する仕草を見せると
『…父上にはお帰りになられた時に報告しますが今のところ害悪がある訳ではないので、監視者を多くするだけで良いでしょう。 眷属達については如何ですか?』
『『『順調です』』』
スィフィルは満足気に微笑み頷くと、3人はホッと胸を撫で下ろした。別段彼が何か暴力を振るったり暴言を吐いたりした訳ではないのだが、この<ヤクシェム>の創造主ジェフィティールの能力に近しいチカラを持っているだけで畏れ多いのだ。3人にとっては崇拝対象と言える。
『では一度、その場所を確認しておきましょう。案内をお願いします。』
『『『畏まりました』』』
その場所は中心のログハウスから北東方向の大陸の端近く、余り大きくない泉だった。
その泉を中心に半径約20メートル位、周囲と明らかに違うエリアが出来ていた。
泉の周りのエリア内は湿地帯になっていて、地面から無数の光が上空へ上っていた。
その光は眩しい訳ではなく様々な属性を含んでいる為なのか、柔らかい暖かみのある光だった。それなのに中に入る事を躊躇わせる何か、畏怖させる何か、決して触れてはいけない何かを感じさせるのだった。
泉に意識を向けると風もないのに水面はゆらゆら揺れていて、湧き水の源泉の様な印象だ。本来なら近くに水源がないこのあたりなら、動物達が泉に集まっても良いものだが、半径100メートル以内には来ていない。恐れの方が強いのだろう、管理者である3人ですら離れて見守っている。
スィフィルは其処にジェフィティールの意志や魔力を感じ、空を見上げて上っていく光の行く先を優しい眼差しで追っていた。そしてそうっと手を伸ばそうとした時、目をカッと見開き次の瞬間その場から姿を消した。
ジェフィティールはログハウスの玄関前にふわりと現れた。
えっと、足りない素材も揃ったし、これで作れるな! ふん、ふ〜ん。ふふんふ〜ん。
でもどんな感じが良いかなぁ…。ん〜、ん〜…。
目を閉じて顎に手を当て思案するが中々良い案が浮かばない。
「そうだな、スィフィルにも希望を聞いた方が良いだろうな。」
『ここに』
「ぅわっっ‼︎ びっくりしたっ!」
驚いて目を開けた目の前に、空中で跪いたスィフィルがいた。
声だけじゃなく目の前にいた事にも二重で驚き、俺の心臓は耳から飛び出るのかって言うくらい五月蝿く音を立てている。
『失礼しました、父上。思いの外早くお帰りになったので何か不都合でもあったかと、近くに控えておりました。』
「あ、そういう事? もうちょっと(気配とか)…分かりやすくしてくれると、良いかな…。」
『畏まりました。それで、私に聞いた方が良いと言うのは?』
「あ、そうそう、あのさ。下を旅するのにスィフィルに一緒に来て欲しいなって思ってね、スィフィルの能力や俺に、…過去の俺ね、に、関わりがある事がバレない様に<アルバア>に素材取りに行ったから、見た目をどうしようかと思ってたわけ。」
スィフィルは立ち上がると、熱いオーラを発した。表情は無表情を押し通そうとしている。喜びを隠しきれていない様子につられて、俺も笑みを堪えた変な顔になってそうだ。
『成る程。この姿のままではなく、私の意見を反映したいと言う事ですね。』
「そうそう、大きさも人サイズでさ、種族はどうでもいいけど目立たない様にするつもり。」
スィフィルにしては長い時間考え、俺の様子を窺いながら
『…旅を共にするにあたり、私の設定は何になるのでしょうか? 家族か従者か奴隷か、それによって変わるかと思います。』
「はぁ?なんだよそれ! 従者と奴隷はないだろ⁉︎ 家族か仲間のどっちかだ‼︎」
と言う俺の言葉を聞いて、ぎゅっと目を閉じた後顔を伏せた。自分の言葉に照れていた俺は、早く返事が聞きたかったが何とかそこは耐えて待った。
顔を上げたスィフィルの表情は、今にも泣きそうで俺は胸を締め付けられた。
『…父上。私は父上の無意識のうちに造られたこの姿がとても愛おしいのです。この姿をこの<ヤクシェム>に残して、新たに父上に触れる許可を得れる身体についての希望は、唯一つ、父上に似させて頂きたいという事です。』
俺をずっと“父上”と呼び、俺の記憶と能力を根幹に生まれ、その繋がりがある事で “不安、恐怖、空虚” を抱えながら ”安心、万全、充実“ を求め尚且つ俺に与えようとしてくれている。そんなスィフィルをとても愛しくて、少し悲しく思えた。
孤独でない安心、近くにいる事で俺を護れる安全、2人以上で考え行動する充実か。
スィフィルは優しいなぁ…。
前世の俺の魂源に一番近い最後の記憶と能力…。俺は決めた。素材を両手で胸に抱え俺の魂源の奥、転生前に此処に残さなかった魂源の欠片をスィフィルに与える身体に馴染ませ創造する。そして生まれたのは転生前の俺によく似た外見の15、16歳の青年だ。
スィフィルが新たにできた身体に宿ると、ゆっくり呼吸を始め、数回深呼吸してから眼を開けてにっこり微笑んだ。両手には光包まれた小さなスィフィルの身体が大事そうに収まっている。
霜白の髪と藍色の瞳を持ち、髪は以前のスィフィルと同じ様に長く三つ編みに纏めて右肩に流している。ジェフィティールの様に指先に起源の虹は宿らないが紫紺の虹が宿っている。
指先の爪に現れる色は魔力の特性や質を表すと言われ、無色透明な肌色に近いものは魔力なし、黒い中に虹色が複雑に入っているものは最上級、特級と言われている。例えるなら地球でいうところのオパール様なものだ。価値の基準もほぼ同じと考えて良い。
ジェフィティールは特級であり、嘗ては魔力も溢れ出ていた為指先がゆらゆらと湯気が上がっている様に揺らめいていた程であった。
スィフィルに於いては、紫紺の虹を宿していて魔力が溢れる事なく爪を彩っている。しかし、スィフィルの指先の色は地上の人間が持ち得ない魔力の色で、そのままでは間違いなく利権や謀略に巻き込まれる。最低でも人並みの色に偽装するか、種族を変えないと不味いとジェフィティールは考えていた。
偽装すると後々弊害が出る可能性が高くなる、使えるはずの無い魔法使用や魔力量の問題に直面して厄介な事になるだろう。となると種族を変える事一択なんだけど…。
スィフィルがそれで良いかだけど。
『父上。』
「ん?」
『私は種族を変えたいと思います。』
「…良いの?」
『父上の側で護りを固める為にも、いざと言う時の囮の役にもなりえるかと。父上が創って下さった身体に宿り、最適な種族を考えますと人族ではあり得なさ過ぎて違和感がありますが、天人族ともなれば全く問題ありません。』
「待て待て待て待て! 問題大有りだろ? 天人族は随分前に絶滅したじゃないか‼︎」
『ーの、先祖返り、では如何ですか?』
思いっきり強引にこじ付けてきたなぁ、おい! でも、魔力量その他諸々の事を考えても、理に適った選択ではある。
「…わかった。種族はそれで行こう。細々した設定は追々決めるとして、俺とは仲間で良いか?」
『私は父上の子ですのに、体格からして無理を感じてしまいます。ですので、断腸の思いではありますが、“家族”の様な仲間という立場につかせて頂きます。』
“家族”ってとこ強調したね、スィフィル。そんなに念を押さなくても分かってるって。
俺だって、同じだよ。
俺に向かって下げているスィフィルの頭を、くしゃくしゃと両手で撫で回しながら言った。
「当然スィフィルが兄貴的な立場だよな。うん? 守ってくれるんだろ?」
スィフィルはくしゃくしゃにされたまま顔だけ俺に向けると、一瞬だけ眼を見開き直ぐ相好を崩した。
『この命尽きるまで!』
「重い‼︎ もうちょっと気楽にしろよ、頼むからさ…。」
俺は両手でスィフィルの頭を捕まえたまま、強引に頷かせ手を離した。何か言いたそうなのを無視して背を向ける。
「良し‼︎ これからも頼むな、スィフィル! 」
『(耳が赤いですよ、父上。)…勿論です。』




