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時を止める時計

作者: はんぺん小僧

 つい最近、唯一の身内である親父が死んだ。もともとかなりの歳で、家で倒れている所を見れば、皆死を悟っただろう。俺は親父の遺品を改めて探っていた。悲しさを感じる暇もなく、お通夜、葬式、火葬、と忙しい毎日を送り、ようやく収まった今、親父の死に感傷を抱いているのだ。こうやって見ると、意外と思い出の品が出てくる物だ。俺があげた手紙や文道具など、大事にしていたらしい。しかし、遺品の中に見知らぬ物が入っていた。それは古ぼけた腕時計。時計は今も動いているが、時刻がずれている。直そうとして、ガチャガチャと時計をいじっていると、先程まで聞こえていた部屋の掛け時計の音が聞こえない。壊れたのだろうか。仕方なく俺は電気屋に向かおうと戸を開けた。その先に、異常な光景が待ち構えていることを知らずに。


 外では、人や物が一切動いていない。ただ動き出してないのではなく、何かによってその動きが止められているような、見たことのない止まり方をしている。

「ありえない…」

思わず口に出してしまった。それほど、今は異常だ。とにかく今動けるのは俺だけだと確信した。そしてその原因が俺であることも。きっと、あの時計には「時を止める」能力がある。いや、それを確認する術はないが、よく漫画やゲームなどで出てくるそれに酷似している事から、恐らくそう言う事なのだろう。であれば時計と言うのも納得がいく物だ。とりあえず、もう一度時計を確認しに行こう。俺は自分の部屋に戻った。


 時計を見る限り、何もおかしくはない。ただ、他の時計が止まっている中、この時計だけが動いている。それ以外では、やけに古ぼけているのに最新型という事だろうか。日付、時刻、気温…最近の時計には気温を測定する機能もついているのか。腕時計なんて興味がなかったから、買ってもいなかった。今の気温は、「23」と記されている。それが合っているのかどうかも分からないが、体感温度的にはそれぐらいだろう。さて、一通り時計も見終わった事だし、外に行くとしよう。今なら、俺は何でも出来るんだ…。


 欲望の限りを尽くす毎日を送った。始めこそ良いものだが、なにぶん無抵抗かつ無反応なので、いたずらしようとも面白くない。出来るのは盗みだけだ。そんな世界にいるからか、やけに独り言が多くなった。今は、どれ程の時が経ったのだろう…。俺が幾ら時計をいじろうと、時が動くことはなかった。


 体の自由がきかない。医者も動かないこの世界では、病に侵されると危険だ。日に日に症状は悪くなっていく。もうダメだ。最後に止まったままの歩行者に大声で助けを求める。

「た、助けてくれ!俺を…お願いだ!」

意識がもうろうとしてきたその時、人々はゆっくりと動き出した。ついに俺の願いが聞き届いたんだ!ああ…これで、あ…んし…。


 人々が完全に動き出した時、既に男はこと切れていた。周りの人々は焦り、混乱する。男の持っていた時計の時刻はぴったり揃っており、気温の欄は「0」を指していた。


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