4ノ巻:最弱にて最速
今回で修行編終わり
瞬間回避
敵の攻撃をコンマ0.χ秒の判定でほぼ攻撃の当たる瞬間に避けた場合のみに入る判定。ゲームでいうジャスト回避というやつだ。ゲームとの大きな違いは全身で行わなければならないという事。コマンドRPGならば完全に運、アクションゲームならば視覚と指の精密操作ということになる。だがこの世界は現実。全身を使い、自らの意志で行わなければいけない。つまり、最初にして現段階最大級の難所が現れたということになる。瞬間回避、おそらく回数を重ねれば行えるようにはなるだろう。
現に今すでにできている。目の前のスライムの攻撃の瞬間を見定め一瞬のうちに身が悪いの丸太を発生。背後に回り込んでとどめを刺す。おそらく理想的な動きだ。
だが、これはスライムの場合だけだ。反撃後の技の出し方のコツはつかんだ。だが、すべてのモンスターが同じタイミング、スピードで攻撃しに来るわけではない。そしてモンスターすべてにも個性が存在する。こうなった場合取れる手段は限られてくる。1つはすべてのモンスターと戦いすべてのモンスターに対応できるようにする。だがふつうに考えればそんなものふつうに考えてあり得ない。いちいち時間がないしあったとしてももったいない。であるならばとる手段はただ一つ。
男は木の上に登り割れ目を確認する。
割れ目にはたくさんの蜂が群がっている。
「火遁と水遁組み合わせて煙発生」
手から煙が発生すると期の割れ目に煙が吸い込まれていく。しばらくすると多くの蜂たちが飛び出しあたりを旋回しだす。その一瞬を突き樹からハチの巣をささっと奪い取り男は姿をくらました。
空を見上げると日が傾きだしあたりは暗くなってきているようだった。ハチの巣がたんまり入った麻袋を担ぐと村に戻っていく。村は魔物よけの門を閉じようとしているころであり閉まる直前に何とか入ることができた。
「危なかったな・・・」
「勇者様、今日は遅いご帰還で」
「まぁ、今日はお土産をね」
「なるほど、坊主が喜びそうですね」
「明日また朝一で換金に行くので預かっておいてもらっても大丈夫ですか?」
「お安い御用です。それではまた明日」
宿屋に戻り宿屋の主人へ土産のはちみつ入りのハチの巣を渡すと店の奥に通され夕食をごちそうになる。宿屋を経営しているのは若い夫婦であり二人の間には幼い息子がいる。ここに来てからはいつも朝夕の食事をごちそうしてもらっておりそのお礼として宿代とは別に山の幸や魚などをお土産として持って帰っていた。
今夜の夕食はフレンチトースト。少し前にぱさぱさに乾燥してしまったパンをおいしく食べる手段として作り方を教えてあげたのだが子供が気にってしまったようでよく夕食のメニューになる。
「すみませんまたこれで」
「大丈夫っすよ、御馳走させていただけるだけでありがたいです」
「そういっていただけると」
「勇者様、今日は村長から良い山葡萄酒が手に入ったのでご一緒にどうですか?」
「いいんですか?」
「勇者様のおかげで最近は山への道も安全ですし坑道でも以前より怪我人が減りました。これもあなた様の日々の努力のたまもの・・・感謝しております」
ただレベル上げのためにモンスターを狩りまくっていただけなので村のために仕事していたと思われるとなんだか騙しているようで気が引けてくる。しかし人から感謝されるというのは悪いことではない。主人からの感謝をありがたく受け取り一緒に山葡萄酒を飲む。少し世間話をした後、陵はふとある質問をする。
「親父さんはこのあたりのモンスターにお詳しいですか?」
「一応は、ここには幼いころから住んでおりますので・・」
「では質問があるのですが・・・このあたりにかなり速いスピードで動くモンスターはいますか?」
陵が出した決断。それは最速のモンスターに反撃を成功させること。最速の相手への経験があればそこからスピードに合わせて調整ができるのではないかというものだ。
それであれば修行自体大いに効率が良くなる。しかし、こんな初心者向けの場所に最速のモンスターがいるはず・・・
「世界最速のモンスターならこの山におります」
「・・・え?」
思わぬ答えだった。世界最速を誇るモンスターがここに出る?まるでパワーバランスが崩れている。それは俗にいう所見殺しというものじゃないのか・・・。しかし、ちょうどいい。
ここで反撃をマスターすれば・・・
そう考えているものの主人の顔は複雑そうな顔をしている。そこまで強いモンスターなのか?いや、それならば村人は山を封鎖しているはず。
「あの、いますけど本当に戦うんですか?」
「どういうことですか?」
「いや、勇者様が戦うにはちょっと・・・」
「はぁ・・・」
「えっとですね・・・
あの山には『バレットモスキート』と呼ばれる虫型のモンスターがおりましてこのあたりの人はちょっかい虫と呼んでいます」
「そんなに強いんですか?」
「いえ、その逆です。おそらくこの世界最弱のモンスターです。生命力も防御も攻撃力も獲得経験値もほぼほぼない。
しかし、おそらく速さは世界最速。目にもとまらぬ速さで突っ込んでくるため熟練の勇者でも回避は不可能。しかし、ほとんど攻撃がこちらに効かないのでただただちょっかいして邪魔してくる。
という感じなためちょっかい虫と呼ばれています」
「バレットモスキート・・・」
素早さ以外は何も持ち合わせていない・・・なんとなく親近感がわくモンスターだった。だからこそ、彼はその虫から学ばなければならない。世界最速の力とそれを超えるための速さを・・・。
そうしなければおそらくここからの戦いは生き残れない。ならば、無論向かうしかない。
「敵の強さがわからないから・・・ね」
翌日
彼は村人たちに最もバレットモスキートの現れる場所を教えてもらう。場所は坑道を挟んで村と反対の位置にある大きな沼だった。沼にはほかの間者も住んでおり単純ならばマッドクラヴと呼ばれる蟹型モンスターやゼルマンダーというサンショウウオモンスターが最適だ。しかし、今の狙いはちょっかい虫事バレットモスキート。この沼地は繁殖地であり一年を通してここに出現するようだ。
沼にたどり着くと山籠もりのためのキャンプ地を設営する。ひとまず3日ほどは籠る予定なのでテントと魔物よけの香を焚き出発する。宿屋の主人から聞いた特徴からバレットモスキートを探す。見た目は蜂のようだが色は緑色で基本的に沼の水面を旋回している。その情報を頼りに沼の周りを移動する。道中様々なモンスターに遭遇しそれぞれに反撃を試す。やはり数回、敵によっては数十回重ねなければタイミングをつかめない。
「昼間だからできることだ・・・完璧に動きをつかめなくては夜間では使えないぞ」
昼間の明所ですら手間取っていては夜間の奇襲何てできはしない。
目だけではなく、空気、気配でも行う必要がある。
悩み考えながら歩いているとどこからか虫の羽音のような音が聞こえてくる。耳を澄ましあたりをゆっくりと見回すと特徴通りの大きな虫型モンスターが水面を飛んでいる。お尻部分を水面に浸しながら飛んでいるため静かな沼の水面に一定ごとに波紋がおこる。
ターゲットを発見すると陵は忍者刀を構え敵を凝視する。
戦闘準備を整え近くにあった小石を拾い上げるとそれを目の前の虫に投げつけた。小石が当たると目の前の昆虫は驚いて飛び上がりあたりを見渡す。そしてこちらに狙いを定めると予備動作もなしに突進してくる。息を飲んだ時にはすでに眼前に昆虫はいた。強烈な鈍い痛みが眉間に走る。確かに致命傷に等程遠い。雑魚中の雑魚だ。だがその速さはあらゆるモンスターを凌駕する。ふと振り返るとすでに奴は次の突撃を開始している。さすがはちょっかい虫。本当にしつこい。次の突撃は何とか回避した。しかし早い。
もっとぎりぎりでよけなければ。
「来いよ!!まだまだいけんぞ!!」
挑発に乗るかの如くバレットモスキートはこちらへ突進を開始した。タイミングを合わせ回避を行うが今度は遅くまた攻撃を受けてしまう。視界情報に頼っているせいなのか。どんな敵もおそらく攻撃前に必ず何かしらの反応を起こすはずだ。殺気というか、闘気というか。おそらくそれらを感じ取ることができなければこいつに反撃を当てられたとしても他の敵にあてることは絶対にできない。ならばこの戦いでそれを発見するしかない。どんな生き物も、どんなモンスターも敵対するものに攻撃を仕掛ける際に発生させる何かしらのタイミングを。
そこからどれだけ時間が経ったろうか、何匹ものバレットモスキートに勝負を挑み何度も瞬間回避を狙う。しかし、何かコツをつかみかけようものなら敵はイレギュラーな動きを見せてつかみかけた希望をすべてひっくり返す。まるでこちらをあざ笑っているかの如く。ただただ服が泥で汚れ傷ついていく。
日が完全に落ちあたりにいたモスキートたちもいなくなってきた。今回はこれで終わりかと立ち上がりキャンプに戻ろうとした瞬間背中に衝撃を感じる。
「なんだ!?」
あたりを見渡すも日が完全に落ち切った。あたりは真っ暗でほとんど何も見えない。幸いにも月明かりで手元や足元は見えるがそれでも周りは分からない。目を閉じ耳を澄ますとあたりから移動する羽音のようなものが聞こえる。こちらの様子を窺うように周りを旋回する。背筋に寒気が来るような嫌な音が常に耳から離れない。一瞬音が近づいた。一気に地面に倒れこんで避けると再び遠くに音が離れる。それでもまだ奴は離れない。
「見えない・・・音も耳を惑わす・・・いったい何を頼る・・・
考えろ・・・考えろ」
羽音の接近
再び回避。
早すぎる。もっとぎりぎりまで引き寄せろ。奴の攻撃をよけるということは奴の威嚇攻撃のの時点で回避を行うからだ。奴を近づけろ・・・殺気を出すな・・・
必ず奴は自分を仕留められるとわかった瞬間に本気を見せる・・・
その一瞬を感じろ・・・
必ずできる・・・アサシンはそれができるジョブだ・・・
だからこそ、反撃というスキルがある
心臓の鼓動を抑える・・・
意識を、耳に、鼻に、肌に、体中のありとあらゆる感覚に集中させる。
視界を信じるな、耳を猫可愛がりするな、匂いを嘘と思え・・・
その数秒・・・すべてが無音になる
だが見える・・・違う・・・感じる
目の前の・・・殺気!!
「今だ!!!」
その一瞬に体を預け空気に身を任せた・・・
その瞬間
丸太が現れ自分の体は奴の背後に飛び上がる
「喰らえ!!」
丸太に突撃し動きが止まった一瞬
それは一撃のもとに真っ二つに切り裂かれた。
軽い草の音と共に落ちる丸太の音。そして感じる戦闘が終わった感覚・・・・
成功した・・・勝ったのだ・・・
「やった・・・やった!!成功した!!
やったあああああああああ!!!!!!
あぁ・・・・」
全身の神経を集中しすぎたせいか疲れが一気に体に回り気を失い眠ってしまった。
そのまま、ぐっすりと眠りはて目が覚めるころには空に日が昇り切っていて周りではゼルマンダーが一緒になって眠っていた。
「頭いてえ・・・、夢じゃないよな」
ふと空を見ると先日逃がしたであろうバレットモスキートがまた飛んできていた。
完全に気を抜いていて気が付いた時にはすでに眼前に奴は迫っている。しかし、あの時の感覚が蘇る。
敵が発する確かな殺気
その瞬間に体は瞬時に反応し回避・・・
そして目の前にいるのはもう一人の自分。二人の陵は忍者刀を瞬時に構え攻撃をよけられ1秒の隙を見せたモスキートを切り捨てた。
「おし!!」
「成功!!」
「イイェエエエイ!!」
今回成功したのは分身の術。その完璧な技の成功に思わず感動してしまった男は現れた分身と一緒に全力のハイタッチをする。これがアサシンの力・・・
完全にわかった・・・
モノにできた・・・感動が全身を包み込む。
そして気が付く新しいスキル。
核死の心眼
敵の即死ポイントを視認できる常備スキル。即死成功確率は視認されるポイントの色の濃さで確認でき熟練度に応じて確率は上がっていく。
「これか・・・これでついに奇襲のスキルが揃った。
後は・・・」
そこから2日、更に山にこもり山においてあらゆるモンスターに反撃忍術、反撃忍法を試す。
様々なパターンを試し何とか技をものにした陵。
そしてその修行の中で彼は核心をした。
自分は勇者にはなれないことを。
今の自分に必要なのは、自分の代わりに敵にとどめを刺し、自分たちの身を守り、自分たちの傷を癒す
チームメイト、頼れる仲間、
それが必要であると。
「確かにこの力は強力だ・・・。だが、俺の力はあくまで戦場をかき乱すもの・・・
これでは戦いには勝てない。
今必要なのは背中を預け戦線を共に戦う仲間だ・・・。そのためには・・・」
覚悟を決めた男は荷物をまとめる。
この世界に来てから2週間が終わろうとしていたある日、彼は多くの村人に囲まれていた。彼は勇者として仲間を集うために街へ戻ろうと決めたのだ。
ギルド
それはこの世界における組織の名称である。ギルドとは大きく分けて3つのカテゴリーわけがされている。
1つは中央ギルド
数多く存在するギルドを登録管理する中央管理局であり別名国営ギルドと呼ばれている。
2つ目は公認ギルド
別名司令ギルドと呼ばれており様々な場所においてそこに所属する人々に司令や指示を直接出す場所である。俗にいう冒険者ギルドや商人組合、農業連盟はここに位置する。
最後は個人ギルド
俗にいう冒険者チームやパーティであり一人では困難な依頼をするために即席で作るものから気の合う仲間と常に行動を共にするために正式登録するなど様々存在している。
陵はこれからこの個人ギルドを作るために街へ戻り仲間を集めようとしていた。たった2週間という短い時間ではあったものの彼はこの山間の村の人々から気に入られていた。世界のためとはいえここを離れていく彼を皆名残惜しむ。
「村長、御主人、短い間でしたがありがとうございました」
そういって手を差し出すと老人と若い男は両手で彼の手を握る。二人は目に涙を浮かべていた。
「村のためにありがとうございました」
「このご恩忘れません」
「いえいえ、自分はただ修行していただけ・・・感謝されることはしておりません」
「さみしくなりますな・・・またいつでもいらっしゃってください」
「おいしいものを作って待っております」
「ありがとうございます。皆さんのために・・・必ず勝ちます」
多くの村人から見送られながら彼はアルファディアの街へ戻る。その道中彼はポケットからあるものを取り出して眺める。それは蛇の皮で作った小さなお守りのようなもの。出発の直前なついていた宿屋の夫婦の子供からもらったものだった。長く、粘り強く、力強く。蛇のお守りとはあきらめない精神を象徴し願う村の特産物なのだそうだ。
蛇の抜け殻で作られた不格好なお守り、どこか誇らしく温かい・・・
「さて、頑張りますか!!」
お守りを首からかけると彼は真直ぐアルファディオに向かう。目指すはこの街の冒険者ギルド。
久々のアルファディオの街はどこか不思議な感じがした。かなりの間古い文化体の村にいたため都会というのはどこか懐かしい感じがした。市場で果物を一つ買いつまみながら冒険者ギルドへ向かう。冒険者ギルドは多くの冒険者であふれておりひとまず受付に向かう。受付に並び自分の順番が来る。
「ようこそおいで下さいました、冒険者登録は初めてですか?」
「はい」
「かしこまりました。それではただいまから冒険者登録のほうをさせていただきます。
それではこちらの方をご記入ください」
なんだか銀行の口座開設みたいな感じでどこか既視感がある。ひとまず渡された書類に目を通し必要な記入事項をかける範囲で書いていく。書き終え受付に手渡す。
「はい、確認いたしました・・・。
赤坂 陵様、この度の冒険者登録は個人ギルドの結成と各大陸への通行手形発行のためでよろしいでしょうか?」
「はい」
「住所のほうが記入されておりませんが旅人という事でしょうか?」
「いえ、召喚された勇者なので住所がありません」
「・・・勇者様・・・?」
その場にいた多くの人間の視線が集まる。
「あまり見られると恥ずかしいんですけど」
「申し訳ありません!!!」
書類をもって受付嬢は部屋の奥に入っていく。数分後呼ばれ部屋の奥に行くと魔術師のような老婆がいた。俗にいう身分確認ということでいろいろ質問を受けたり千里眼による確認を一通りされ嘘無しのモノホン勇者と確認が取れた。そのあとはスムーズに話が進み居住場所の授与や一通りの登録援助を受けた。
ほとんどの登録を終え最後に冒険者名の登録に入る。本名でも良いらしいがここはせっかくなので新たな冒険者名をつけることにした。
「じゃあ・・・、ウツロ。ウツロでお願いします」
「冒険者名は一度登録しますと変更の際に多額の更新料がとられます。ご注意ください」
「了解です」
以上を持ち登録が完了。
晴れて、アサシンの冒険者兼勇者のウツロが誕生した。
登録個人ギルド結成の条件は
4人以上7人以下のメンバー。
ギルド長が冒険者ギルドでクエストを2つ以上授与し依頼完了していること。
必要メンバーは最低あと3人
紅の月の夜まで
タイムリミットあと3週間