1ノ巻:影の勇者でございます
こういう系のジャンル初めてなのでお手柔らかにお願いします
とある世界の巨大な王国
紅い満月の夜、地の底より魔界の者は世界を殺しにやってくる。
伝説の通りその日はやってきた。地の底より湧き上がる異形の軍勢。その身の肉が剥がれ落ち薄汚れた白い骨の身となった骸骨の兵団が大きな国の城下町を埋め尽くす。町を守る兵団は住民を逃がし力の限り死者の軍勢と戦う。しかし、命と共に死の恐怖を地の底に捨ててきた屍は怯えることなく目の前の生者を排除しながら進んでいく。目指すは眼前にそびえる巨大な城。拠点が陥落すればこの国は終わる。戦略とはどの世界にても同じ。
多勢に無勢、敵を倒せど地の底から骸骨の軍隊は無限に湧き上がってくる。それどころか殺した兵士の体もすぐに腐り敵の隊列に参加する。
自らの死こそが味方の首を絞めていく。
この負の連鎖が敵の最大の武器。
兵士たちも恐れおののき逃げ出していく。
人がいなくなった町の大通りを我が物顔で進軍する死者の群れ。
その軍団は遂に城へ続く巨大な広場にまでたどり着く。
最後の防衛線がついに破られようとしたその時、眼前に迫りくる死者の軍勢は突如後方に吹き飛ばされる。
城への門の前、黄金の鎧を身にまとい巨大な剣を振りかざす騎士の姿があった。
「魔王軍!!ここから先は一歩も通さない!!」
仲間が吹き飛ばされるが目の前の軍隊は一歩もひるまない。死など存在しない死者の兵隊に恐れはない。そして、倒されたところで生き返る・・・はずであったが彼らは蘇らない。
死者たちの肉体は光に包まれ敗となって風に消えていく。
「この剣は神聖属性、一太刀当たれば悪霊の魂は浄化される」
威勢よく説明する騎士であったが知能をもたぬ骸骨兵に言葉が通じるはずもなく彼らはなおも襲ってくる。
その軍勢を次から次へなぎ倒していく黄金の騎士。だがその背後から迫る死者の兵。
だが、騎士を守るかのように光の壁が現れる。その後方から支援するかのように炎の玉と弓矢の雨。
黄金の騎士、魔法使い、弓使い、神官。
現れた4人の戦士。
その姿を見た骸骨兵の一人がぎこちない声でつぶやく
『ユ・・・勇者・・・』
そう、この世界に呼ばれし世界を守る伝説の戦士、それこそが彼らの目の前にいる黄金の騎士なのだ。
「我が名は勇者グリッド!!ここから先は一歩も通さない!!」
高らかに声をあげ大剣を掲げる黄金の騎士。
それに続くかのように3人の仲間たちも武器を掲げる。
勇者の斬撃を支援するかのように弓の雨が降り、光の壁と癒しの風が仲間を守る。
そして、出遅れた敵の一団を炎の魔法が仕留める。
完璧な陣形、まさしく勇者一行にふさわしい。
迫りくる軍勢を押しのけ優勢になったかと思われたその時、骸骨の軍隊のはるか後方から馬の駆ける音が聞こえてくる。
その音が鳴り響くとともに目の前の兵士たちは道を開く。
眼前から迫りくるのは骨だけとなった馬にまたがり駆け抜けてくる黒い騎士。全身を漆黒の鎧で身にまとい顔の見えない兜をつけている。巨大な槍と盾を持つそれは勇者たちの前に立ちはだかるとゆっくり馬から降りる。
『ほぅ・・・貴様が勇者か・・・』
「その通りだ!!お前がこのスケルトンの親玉か!!」
『無論、我が名は魔界騎士団団長にして魔王軍四天王が一人、魔槍のヴェロニア・・・』
「魔槍の・・・ヴェロニア・・・」
勇者は剣を握りしめる。
目の前に立つ殺気の塊。悠々と歩き近づくそれに先手を打ち斬りかかった。素早い剣の一撃は確実に敵を切り裂いたかに思えたがそれは黒い盾によって完全に防がれていた。だが、剣が効いていないわけではない・・・。
盾は肉が焼かれるような音を立て黒い煙を出している。
「強い・・・」
『なかなかやるな・・・勇者よ・・・。だがしかし!!』
槍を握りしめ薙ぎ払う黒騎士ヴェロニア。その刃先がかすかに黄金の鎧をかすめる。一瞬の判断で何とか致命傷を逃れるも一瞬でも判断が遅れようものならば彼の腹部は引き裂かれていただろう。
「勇者様!!」
「平気だよ!!でも・・・強い!!」
『貴様もなかなかやるようだ・・・ならばこそ本気で相手をしよう・・・』
そう、
これは、ある異世界の存亡をかけこの世界に呼ばれた勇者が世界のために戦う物語・・・
そしてこの物語の主人公であるその勇者こそ、黄金の鎧身にまとい光の聖剣『皇の剣』をふるう男、勇者グリッド
ではない
不死の骸骨騎士スケルトンの一団が埋め尽くす城門前広場・・・天上で輝く不気味な紅の月。
それらがそこにいる者たちを照らしている。
だが、月明かりに照らされる彼らの影から不気味な黒い手が伸びる・・・。その手は影からそっと伸びてくると爪のように鋭い手を開きそのままスケルトンたちの背中に食らいつく。
食らいつかれた骸骨たちは何か大切なものを奪われたように動かなくなると次々と体が崩れていくのだった。
「なんだ!?」
『何者・・・』
ふと、その場にいた全員が空を見上げる。
高くそびえた建物の上に4人の人影が並んでいる。
一人は緑の髪と赤い瞳を持つ小柄なエルフの神官
一人は巨大な盾と斧を持つ大柄な騎士
一人はオオカミの耳と爪を持つ銀髪の獣人娘
そして最後、全身を黒い装束で包み関節や胸など最低限の部位だけを守るプロテクター、そして目元以外を完全に隠す装い・・・
長いマフラーだけが風に吹かれてたなびいている。
不気味な衣装、戦士というには装備は貧弱、盗賊というには姿は大胆・・・
そこにいる姿に誰もが驚いている。
「お前たちは何者だ!!」
勇者グリッドは中央にたたずむ黒い何者かに尋ねる。
「名乗るほどではござらん・・・。しいて言うなら影の者・・・」
「影の・・・まさか!!」
その言葉に黄金の勇者は何かを感じ取る・・・。彼はうわさに聞いたことがあったのだ・・・この世界に存在する勇者の中に異端的な立場をとる勇者の噂を。
決して表に姿を見せず・・・誰かのために汚れ役に徹する影の存在・・・
影の勇者のことを
「お察しいただき感謝仕る・・・
拙者こそ影の勇者その人・・・。
人と世の狭間に生き、影に染まりて悪を斬る存在・・・
ニンジャでござる!!」
そういって決めポーズらしき体制をとる存在。
「さすがかしらっす!!」
「かっこいいですかしら!!」
騎士とエルフの少女は拍手をしているが獣の娘は頭を抱えて首を振っている。
「頭、正直ダサいぞ」
「・・・、多少ダサくとも初手はインパクトが大事だ」
「だが、ドンびかれてるぞ・・・」
確かに周りの視線は冷ややかなものだった。何か汚いものでも見るような針のような視線。長時間向けられれば確実に心は砕け散るであろう。
「まぁよい、聖剣の勇者殿!!助太刀いたす!!」
そういって何かを足元に投げつけると建物の上は煙で包まれる。煙が晴れるとそこに4人の姿はすでにない。敵味方含めあたりを見回している。周りに人影らしきものはいない。だが、勇者一行の弓使いの女が何かに気づく。ヴェロニアの影から何かが生えてくる。それは紛れもなく先ほどの影の勇者。
それは腰から抜いた短剣よりも少し長い刀を抜き取るとそのまま黒騎士の懐めがけて刃を突き刺す。
しかし、その一撃は一瞬で悟られ盾で防がれる。
『甘い!!』
「不覚!!」
刀を防いだ盾でそのまま男の腕を払いのけるとを振りかざし黒い勇者の腹部を貫く。
叫ぶ間もなく男は絶命したかに思われた。
だが、槍の勢いが止まった時その先に存在したのは短い切り株。
ヴェロニアが驚く、奴はどこに行ったのか。
すると背後の空中でそれは大きく刀を振りかぶり切り払う。攻撃は黒騎士に当たるも堅い鎧の前に攻撃は通らない。
その正体に気づいたヴェロニアが今度は背後に向かって槍を薙ぎ払い影の勇者を切り裂いた。今度こそ切ったという感覚がある。目もむければそこに真っ二つに切り裂かれた男の姿が。ヴェロニアはそれを確認すると次の標的である勇者グリッドに目を向ける。だが、一瞬目を離した隙に状況が変化した。
上半身と下半身に切り裂かれたはずの男が元に戻っている。
しかも二人に分裂して。
二人の影の勇者が同時に蹴りを放つとさすがに防ぎきれずバランスを崩す黒騎士。
すると黄金の勇者一行の魔法使いの魔法攻撃も同時に彼にダメージを与える。
『小癪な!!』
体勢を持ち直し攻撃を加えるもわかれた勇者はアクロバティックに攻撃を避ける、そして大きく攻撃し体が伸び切った一瞬、背後からの勇者グリッドの斬撃と獣娘の鋭いアッパーが同時にヒットし黒騎士は倒れる。
『なんだ!?』
「驚くことなかれ・・・拙者の変わり身の術と切断分身の術、いかがであったかな?」
『幻術か』
「正解にして不正解。幻術や魔術、妖術と起源を同じくするも全く異なった発展を遂げたのが拙者の使う忍術」
『忍術!?そんな術があったのか・・・』
「左様、忍術はニンジャが得意とする戦闘技法」
「あらゆる戦局において術を使い分け組み合わせることで無限の戦法を得る」
二人いた影の勇者がひとりに戻る。
その説明を聞き一瞬困惑する目の前の敵であったがしばらくして彼はあることに気が付く。それこそが最も核心的であり、影の勇者最大の弱点でもある。
『確かに貴公の戦術、技共に見事であった・・・しかし。
キサマ、単純に攻撃と防御が弱いな・・・』
「あっ・・・」
「まぁ、ばれるよな・・・」
獣の娘はあきれて笑ってしまう。痛いところを突かれた男はあたふたとしだす。それを見ているグリッドたち。確かにあれだけの戦術を用いながら彼の放つ攻撃はあの敵に致命傷を与えてはいない。それどころか単純な腕力だけで言えば仲間のあの娘のほうが強い。
先ほどまでの贔屓じみた偏見を捨て黄金の勇者はあのニンジャのステータスを調べだす。
身に着けている装備の防御力は自分の物の100分の1、それもすべて。
装備している刀も突出して強いわけではない。力も守りも一般人よりも少し秀でている程度。
ただ素早さ、跳躍力だけが以上に秀でている。神の才能と呼べるほど。
だが、おそらくその上昇はあの装備のせい。おそらく決まった装備でなければあそこまでの技能値は出せないのであろう。
余裕ぶって避けていたのではない、避けられなければ死ぬ。
それほどのぎりぎりの戦いをしている。
その理由は分からない・・・そもそも遠距離にいればよいのに・・・
その理由はなぜ。
何故なのか・・・
再び意識を戦闘に戻す。
スケルトンたちが起き上がり少しずつ自分たちを取り込んでいる。
襲い来る雑魚敵を薙ぎ払いながら影の勇者を観察・・・
敵に囲まれても戦場を縦横無尽に駆け回り敵に少しずつダメージを与える。そしてよそ見した敵をあの娘がとどめを刺し、娘に近づく敵に攻撃を当て自分に攻撃を寄せる・・・
「まさか・・・」
観察を重ねるごとに予測は核心に変化していく。あの勇者は・・・勇者であるにも関わらずに揺動を専門にしている。敵の注意を乱して攻撃専門の味方に討伐させ攻撃特化の味方への集中攻撃を自分にそらし敵の戦線を乱す。
そして確実に倒せる敵のみを背後から暗殺。
そして危なくなると後方の騎士の裏に隠れ体力を回復しまた戦線に復帰。
「影の勇者は自分を常におとりに戦線を有利にしている・・・」
『ならば!!』
暗黒騎士ヴェロニアが自身の槍を足元に突き刺す。すると耳を裂くような地響きと共に地面が砕け青白い炎があたりを包み込む。二人の勇者は炎の壁によって閉じ込められた。
「まずい・・・」
「確かに、狭い空間で奴と接近戦とは・・・これは骨が折れるでござるな・・・」
『これで妙な術は使えまい!!』
「否、これからよ!!
多重影分身!!」
影の勇者が両指を胸の前で十字に組むと20体以上の分身が現れ次々に襲いかかる。ヴェロニアは好き勝手に襲い掛かる分身に手を焼きながらも分身に攻撃をぶつけていく。影分身は数が多い代わりに一撃を受ければ消滅するようでそれに気づいた奴は武器を振り回し乱雑に攻撃を当てていく。
次々と消えていく分身だが同時に同じ数だけ生成されていく。
そして分身の合間から突撃する黄金の勇者。
『連携か!!』
「分身する直前にアイコンタクトをもらってな・・・どうだ!!」
『さすが勇者二人か!!しかしな!!しかしなぁ!!!!』
突っ込んできたグリッドの剣をつかむとヴェロニアは剣ごとグリッドを振り回し分身を消していく。その時、分身の中に実体を持つ何かぶつかる。
『見つけたぞぉ!!』
そのまま実体と共に薙ぎ払い投げ飛ばされる。
「ぐあぁぁっつ!!!」
「うごぉあ・・・」
彼は炎の壁にたたきつけられるも彼と壁の間に何かが挟まりクッションの役割を果たしている。
倒れこみ起き上がるとそこにいたのは
「影の勇者!!」
「無事か・・・グリッド殿・・・ゴホッ・・・」
「!?頭ぁッッ!!!」
血を吐きうなだれる影の者。
『やはり明確な殺意なくば技は打てないか!!』
「お見事・・・敵ながらあっぱれ・・・」
「傷が・・・なぜ!!」
「影の勇者の使命は裏方・・・
黄金の勇者を守ることが使命・・・うぅっ・・・」
脇腹にも一撃を受けたのか血がにじんでいる。
「しかしこのままでは危ないかもな・・・。奥の手・・・使ってみようか」
「奥の手・・・、精霊術か」
「左様・・・しかしそれには準備があってな。頼みたいことがある」
「わかった」
精霊術
この世界に召喚された勇者はこの世界に存在する様々な属性の中から一つ精霊術として大技を使用できる。だがそれには膨大な魔力を使用し一度使用すればしばらくは使えなくなってしまう。
「では作戦通りに」
「わかった・・・死ぬなよ!!」
「無論!!」
『何を話している!!』
槍の一撃、それを間一髪でよける二人。飛び上がるがれきを足場に縦横無尽にあたりを駆け巡るニンジャ。それに気を取られた黒騎士のスキを突きグリッドは一気に駆け抜け反対側の炎の壁まで移動。
だがそれを見逃すわけもなく追撃を加えようとする。
「させぬ!!」
死角からとびかかる。それを防ぎ反撃するも消える。そしてまた死角から。現れ消えのヒット&アウェイ攻撃。敵も疲れが見えだし攻撃が外れだす。おそらく深追いすれば仕留められる。だが、目の前の敵は四天王。一瞬の深追いを狙って最後の集中力を残しているはず。
まだ我慢、我慢だ、タイミングが早い。
落ち着け、呼吸を整えろ、失敗すればみんな死ぬ・・・
グリッドが剣を構えた
いまだ!!
男は飛び込み蹴りを加える。
『見切った!!』
足首をつかまれそのままグリッドのほうへ投げ飛ばされる。
「やれ!!」
「うおぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
グリッドが力の限り剣を炎の壁にたたきつけるそして二人がぶつかり炎の壁にひびが・・・
ガラスの割れる音と共に壁が破壊されると二人は広場を抜け城門をぶち破り城の前まで吹き飛ばされる。
そして少し離れたところから高い水柱が上がった。
どうやら影の勇者が城の巨大な池まで吹き飛ばされたようだ。
「ぐぅぅっっ・・・」
『良い連携だった・・・だがもはや・・・ん?』
何かがおかしい、気温が少し低くなった。
あたりが寒い。
息が白い・・・
まさか!?
気づいた時にはすでに遅い・・・
池から巨大な氷の刃を回転させながら浮かんでくる一人の姿。
刃がひとたび開店するごとにあたりの水分が凍り付き氷のリングを作る。
『精霊術・・・氷!!』
「喰らえ!!!超忍法氷獄大手裏剣!!!!」
巨大な氷の手裏剣はあたりの物体を水分ごと凍り付かせながらヴェロニアに向かう。
よけきれないと察したそれは盾を構えその一撃を耐える態勢に入る。あたり一面が凍り付く・・・
そこに立っていた・・・
ヴェロニア・・・上半身だけ凍り付かずに残っていた。だが腕や下半身は凍っている。
倒すことはできなかった・・・
生き残っている。
「倒せなかったか・・・ウっ・・・」
全力を尽くしその場に倒れる男。
勝利を確信した・・・
生き残った・・・あの一撃を耐えた・・・
『さすがだったな・・・勇者たちよ!!』
その一言と共に切り落とされる黒騎士の首。
背後から傷ついた身を引きずって最後の一撃を与えた勇者グリッド・・・
彼らは勝った・・・
魔王の四天王の一人を打倒した・・・
『残念だったな、俺は首なし騎士だ』
「まさか!!」
切り落とした首が浮かび再び肉体と一つになる。
そして氷を砕くと目の前の敵は槍を構えた。
『見事であった・・・久々に怯えたよ。我が身の消滅に・・・』
「すまない・・・みんな・・・」
死の覚悟をした。
もはや助かるまい
しかし、時は無常であり、奇跡を呼ぶもの。
日が昇っている
朝が来た
『・・・時間切れか。今は紅の月の夜でなければ我ら四天王はこの地に立つことはできない・・・
素晴らしい戦いだった・・・。名を聞かせろ勇者よ・・・』
「我は・・・聖剣の勇者、冒険者名グリッド・・・ジョブは・・・ナイト・・・」
『覚えたぞ・・・そしてキサマは』
「拙者、影の勇者、冒険者名ウツロ、職業アサシン。
この地に存在する数少なきアサシンでありニンジャ。
以後お見知りおきを」
『覚えたぞ、グリッド!!ウツロ!!
また会おう!!次は必ず二人とも殺してやる・・・フハハハハハ!!!!』
高らかに笑うと眼前の敵は霧のように消えていった。
黄金の勇者は痛みに耐え立ち上がると朝日の昇る空を見る。
「勝った・・・のか・・・」
「左様、これにて任務終了・・・それではここで」
「まて!!」
ウツロと名乗った勇者をグリッドは引き留めた。
「どこに行くんだ」
「ニンジャとは人と世の狭間に生き、影に染まりて悪を斬る存在・・・
また危機が迫れば会える。
それまではおさらば!!!」
そういい放つと先ほどの煙球を使いどこかに消える。
グリッドは先ほどまでウツロの立っていた場所に行く。
大量の血痕だけが残りあとは何も残っていない。
「勇者様!!」
仲間の神官が走ってやってきた。
「四天王は?」
「倒しきれなかった・・・。でも、奴の正体がデュラハンということは分かった・・・
これだけでも収穫さ」
「そうですね。」
「信じられないけど・・・
勝てたんだな・・・俺たち・・・」
初めての四天王との戦い。それは勇者たちにとって大きく絶望的な経験であった。それでも今は生き残った喜びを実感し、失った命への悲しみをかみしめる。それしかできない。
彼らの戦いは今始まったばかりなのだから・・・
場所代わり離れた森の中
「頭!!頭ぁ!!!」
獣人の娘が誰かを探し駆けまわっている。彼女が頭と呼ぶのはただ一人。主人であり彼女たちのリーダーである影の勇者ウツロ。
「頭!!」
彼女は森の奥の開けた木陰でウツロを発見する。出血がひどくだるそうに寄りかかっている。
「頭、しっかりしろ」
「うぅっ・・・、少し無理しすぎた・・・。
他のみんなは・・・」
「もう宿屋だ・・・全く・・・」
彼女は男に肩を貸す。ペースを落として歩いているがそれでも体力の消耗が激しく足取りがおぼついていない。
「最初の忍法が・・・きつかった・・・。あれで・・・体力半分持ってかれた・・・」
「確かにな・・・。無理しすぎだ・・・」
「あぁ・・・心配かけてごめん・・・」
「あぁ、反省してくれ」
説教しているはずだがどこか嬉しそうにしている彼女。
「なんでそんなうれしそうなんだ?」
「私はそのしゃべり方のほうが好きだ・・・変なキャラを作るな」
「いやいや、影の勇者だからね。こうそれっぽくね・・・」
「やめてくれ」
「考えとく」
異色な力を持つ影の勇者ウツロ。
その力を手に入れたきっかけと彼ら4人が仲間となったきっかけ。
それをお話しするのはまた別の機会としよう
冒険者ファイルその1:ウツロ
通り名:影の勇者
本名:赤坂 陵
ジョブ:アサシン
この世界で最も適性者が少ないジョブ、アサシンとして召喚された男。
あらゆる術や魔法と異なる忍術、忍法を使う。
忍術、忍法は強力だが魔力や精神力ではなく体力を使うため連発ができない。
しかし彼は固有スキルに反撃を持ちこれによって体力消耗無しで忍術が乱用できる。
素早さや運が高いが防御や力が弱いため一発殴られるとほぼ死んでしまうぞ