加害者への刑罰を事前に被害者が決めればいい。
ディンプル錠の登場でピッキングが困難になると、より凶悪なドアのこじ開けが増えてしまうように、科学がいくら進んでも犯罪の被害はいっこうに減らない。
先進国では加害者の人権が守られるので、滅多なことでは死刑にならない。
ひどい暴行を受けたのに腕のいい弁護士のおかげで(せいで)執行猶予ですんでり、身内が殺されて犯人が生き残っているのは、我慢がならない。被害者遺族は、死刑にしてくれと、署名運動を起こしたりしている。
一方、死刑廃止論者の声も大きい。
人によって考えも違い、被害者と加害者では事情がまるで異なるので、双方が納得する答えを出すことは最初から無理なことだ。
それならいっそのこと、あらかじめ自分が犯罪被害を受けた場合の加害者への刑罰を決めておき、役所に申請しておけばいい。もちろんほとんどの人は厳しく設定するはずだ。だが、その設定は自分が加害者になったときにも有効となる。設定を厳しくすれば、自分が加害者になった場合、重い刑罰を受けることになる。その反対も然り。
もちろん犯罪の種類によって分け、被害者加害者双方の設定から実際の刑を決める。
(事例)
A 殺人 例外なく死刑
強盗 懲役五~十年
詐欺 死刑
痴漢 五十万円以下の罰金
B 殺人 加害者側に同情すべき余地がなければ死刑
家屋損壊 無期懲役
詐欺 三年以下の懲役
痴漢 氏名を公表した上で、十年以上の懲役
AがBに痴漢を働いた場合 氏名非公表、三年以下の懲役
BがAに痴漢を働いた場合はもう少し厳しくなる。 氏名公表 三年以上の懲役
犯罪者予備軍は、当然刑罰を甘い設定にするはずだが、「殺人 無罪 詐欺 無罪」で登録すれば警察から要注意人物としてマークされ、自分が殺されても相手の罰は軽くなり、自業自得といえる。
子供や老人もいるので、世帯ごとにまとめた設定でもいい。
玄関脇などに、
「殺人 例外なく死刑
強盗 死刑
家屋損壊 死刑
不法侵入 十年以上の懲役」
と記された行政が発行するプレートが貼ってあれば、泥棒も躊躇するはずである。
特殊詐欺の電話でも、「うち詐欺は死刑設定なんですけど、本当に信じていいんですか」と念を押せば、相手は困るだろう。
登録はできれば義務がいいが、申請したほうが有利とわかれば皆そうするはずだ。紙の書類で管理していた時代ならともかく、コンピュータが膨大なデータを扱う時代ならこのくらいのことは簡単なはずだ。
制度化されれば、以前はこの程度のことならたいした罰を受けないという安心感があったが、相手の設定次第でとんでもない罰を受けるリスクから、犯罪の発生そのものが減ることが期待される。