顔合わせ
「私が無栄寮の管理人兼体術講師のカーチェ・クロイゼフだ。初めに言っておくが私は面倒事が大嫌いだ、もし面倒事を起こしたら容赦なく殴るから覚悟しておけ。」
あの後教室に戻ると、既に全員の検査が終わっていたらしく先生は居なかった。
勝手に教室を離れた事で叱られると思っていたのだが「検査以外やることないんだから終わったら帰ってもいいんだぞ?先に検査しかしないって伝えてあるのに何でお前らバカ正直に残ってるんだよ」と言っていたためお咎めなしだ。
俺が聞いても答える人は少ないと思っていたがさっきの言い争いの影響があるのかクラスの大半は普通に接してくれた。
まだ数人は不満にタラタラな顔をしてるがな。
そして今は寮に戻り先生から順に自己紹介タイムという訳だ。
「次は俺だな。俺は三年Eクラスのアレクだ。平民だから家名は無い。よろしくな」
アレク先輩、身長は一六五くらいか?黄緑色の髪が特徴的で柔らかい表情から優しそうな印象を受ける。
「次は僕ですね。二年Eクラスのケインです。僕も平民なので家名はありません。よろしくお願いします」
ケイン先輩、身長は一五八くらいだ。髪色は・・・紅茶?俺はミルクティー派だったからあまり飲まなかったがスーパーやコンビニで売っているような紅茶に近い色だ。
赤がかった茶髪というのが正しいのか茶色がかった赤色というのが正しいのか、とにかくそんな感じだ。
「お前ホント硬っ苦しいな、後輩にくらい敬語やめたらいいのによ」
ケイン先輩の自己紹介にアレク先輩が文句を言っている。
そこ気にしますかね。
「うるさいな、僕の勝手だろ」
ケイン先輩はそれに対して言い返す・・・タメ語で。
「アレク先輩には敬語使わないんですか?」
普通に考えてこの質問は地雷だ。
前世の俺なら絶対にやらない。
「あぁ俺は良いんだよ。同い年だからな」
同い年?
アレク先輩は三年でケイン先輩は二年、学年が違うのに同い年?
もしかして留ね--。
「言っておきますけど僕は留年なんてしてないですよ。アレクが剣術で飛び級しただけです」
飛び級なんて出来るのか。
というかなんで魔道学園の科目に剣術があるんだ?
「早く続けろ。私は疲れてるんだ、これが終わらないと寝れん」
カーチェ先生が面倒くさそうに言い放つ。
面倒くさそうな声なのに殺気が篭っているように感じるのは何でだろうな。
「じゃあ次は私だね。名前はルーメル・マンク。二年Bクラスだよ。二年だけど飛び級だから年は一二歳、よろしくね」
ルーメル先輩?は身長一四〇くらいかな。
年相応って感じだ。
金髪碧眼の美少女、俺の好みでは無いがな。
というかマンクって僧侶の事だよな?
聖職者の家系なんだろうか。
そういえば俺の家名のウォルターは英語で軍を統べる者という意味があったはずだ。
指揮官になれるならなってみたいものだな。
「私はアイリスといいます。二年Dクラスです。よろしくお願いします」
アイリス先輩、黄土色の長い髪が影を作りどこか暗い印象を受ける。
喋り方も尻すぼみになっていて人と話すのが苦手なのが分かる。
前世の俺と同じ人種かと思うと親近感が湧いてくるな。
「次私でいい・・・よね?一年Bクラスのアカネ・マーレイ、よろしく」
マーレイの説明は省いてもいいだろう。
まだ自己紹介をしていないのは俺だけだ。
部屋の数より人数が少ない事にツッコミを入れたいが自己紹介が先だ。
「俺は--」
「すみませーん!遅れましたー」
俺の声はその声に掻き消された。
声の主は遅れた事をなんとも思ってないかのようにゆっくり入って来た。
「あれ?もう始まってるの?」
全員揃うまで始めないんじゃなかったの?とでも言いそうだ。
「お前らは来ない事を前提に進めていたからな。寧ろ一人分時間が伸びていい迷惑だ」
それが教師の言うことか!!と言いそうになったのはいうまでもない。
「じゃあ手短に終わらせるよ三年Aクラスのアウラ・クロイゼフでーす。よろしく!!」
そう言ってアウラ先輩は部屋に行ってしまった。
先生もため息をついている。
もしかして・・・
「お察しの通りアウラは私の妹だ。Aランクでありながら素行不良でポイントを引かれ続けて無栄寮に入った大馬鹿者だがな。間違っても相手にするなよ、お前らじゃ手に負えないからな」
繰り返すように二度目のため息をついてそう注意をする先生の顔は呆れそのものに見えた。
「えっと・・・俺はユウ・カンザキ・ウォルター。 一応貴族の家系だけど爵位は一番下の男爵で継承権の無い次男だから気にしなくていい。よろしく」
俺の自己紹介が終わると「あとは適当にしといてくれ」と言って先生が管理人室に入った。
視線を戻すと何故かみんなの視線が俺に集まっていた。
「どうしたの?」
「いえ・・・黒い髪なんて珍しいなと思いまして」
ケイン先輩の言葉に周りのみんなも頷く。
確かにこの世界に来てから完全な黒髪は見ていない。血縁者である両親や兄も黒髪ではない。
母から聞いた話では子供の頃は銀髪だったらしいが俺が前世の記憶を手に入れた事故の後から少しずつ黒に変わったのだと。
「黒髪といえば伝承に出てくる七人の勇者も黒髪だったよね」
「あー罪人と呼ばれた勇者だったか」
「罪人を名乗る勇者だ!!」
アレク先輩の間違いを即座にケイン先輩が訂正した。
伝承が好きなのだろうか?
ケイン先輩の目が熱い。
俺はこの熱を知っている。
これはあれだ・・・オタクの目だ。
今の一言でスイッチが入ったのかそのまま語り始めたが無視していいだろう。
罪人を名乗る勇者、魔獣を使役しようと考えた研究者が実験に失敗して生み出された大量の魔獣を七人の子供が討伐して勇者と称えられる話だ。
その勇者に関する伝承は多いが罪人を名乗っていた理由は分かっていない。
ちなみにこの学園の創設者とされているのがその勇者の一人だ。
「それじゃ解散ってことで」
「「「お疲れ様でーす」」」
アレク先輩の合図で全員自室に戻った。
ケイン先輩はそれに気づかず一〇分程語り続けていたのは余計な補足かな。
次回は来週の月曜日更新予定です