冷遇の理由
検査結果を確認するために受け取った金色のフレームをバッチに付ける。
そのまま魔力を流してみるとゲームによくあるステータスプレートが表示された。
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魔力量・S
魔法力・F
魔力制御力・S
魔法適性
属性
火・C
水・C
風・C
光・C
闇・C
聖・C
呪・C
系統
放出・B
制御・S
干渉・E
型
近距離・D
中距離・C
長距離・E
速射・B
連射・C
並列・B
範囲・B
設置・S
条件起動・S
時限起動・S
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何コレ?
魔法力は最低ランクだが他は悪くない。最高ランクまであるのだ。寧ろ良い方だろう。
これで総合評価がFだと?
初期評価は入試の結果だから適正部分は省いたとしても三つある項目の内二つがSだぞ?
魔法力がFであることを考慮しても悪くてCランクが妥当のはずだ。
「どうだった?」
そう話しかけてきたのは隣の席の女子だ。
横から俺のステータスプレートを覗き込んでいる。
俺の真正面に表示されたプレートを後ろではなく横から見るのだ。当然かなり近くまで寄ってきている。
コミュ障にこの距離はキツイ。
「えっと・・・」
「あぁごめん他人のプレートを見るのはマナー違反だよね」
どう反応しようか考えていると女子の方から離れてくれた。
「私はマリア・アーク・オルトレイ。マリアでいいわ。よろしくね」
「俺はユウ・カンザキ・ウォルター。呼び方は好きにしていいよ。こちらこそよろしく」
「マリアもう男捕まえたの?」
「そんなんじゃないよ!!」
自己紹介を済ませると後ろから声をかけられた。
入学式の時にマリアと仲が良かった人だ。
男を捕まえたと言われたマリアは顔を赤くして否定している。
「割り込んでごめんね。私はシリス・カーチェ。シリスでいいよ。よろしくねウォルターくん」
マリアの文句を無視して自己紹介をされた。
もう一度名乗る必要は無さそうだ。
「別に名前でもいいよ?」
「ウォルターって貴族の家系でしょ?いきなり名前は荷が重いかなぁ」
現世の俺は男爵の家系に生まれているため貴族であることは間違いない。だが辺境の開拓という名目で王都から追放された、いわば没落貴族というものだ。
その上俺は次男で継承権は無い。
気にするほどの事でもないだろう。
「それを言うならマリアも貴族だろ?」
「私はねオルトレイ家で代々使用人をしてた家系に生まれたんだよ。だから生まれた時からマリアと一緒に居るし友達どうしであることに親も納得してくれてるから良いんだ。」
使用人の家系か・・・。
使用人のミスは雇い主のミス、使用人であるシリスが周りの人間に迷惑をかけた場合それはマリアの家に影響を与える事になる。
貴族相手なら尚のことそうだ。
「分かった。今はそれでいいよ」
「そうだ!ユウくんこの後時間ある?何人か誘ってご飯食べに行こうと思ってたんだけど」
「今日は寮の顔合わせがあるから無理かな」
夜なら時間もある作れるかもしれないが昼は分からない。顔合わせも午後からとしか言われていないため正確な時間が分からないのだ。
別の予定を作るわけにはいかない。
「寮?顔合わせ?そんなのあったっけ?」
「さぁ?私も知らないよ」
「無栄寮でしかやらないんじゃないか?」
ルームメイト以外と面識を作るなどほかの寮では不必要だろう。
共用スペースが多い無栄寮だからこそのイベントだ。
「へ?ユウくんFランクなの?」
マリアが不思議そうに見つめてくる。
「バッチを見ればわかるだろ?」
そう言ってバッチを見せると何故か怒ったような顔をして教室から出ていってしまった。
何か怒らせるようなことをしたのだろうか?
していない・・・はずだ。
シリスも分からなかったらしく二人で追いかける事になった。
しばらくしてマリアが入っていったのは教員校舎だった。見失わないように急いで着いていくと、学園長室に入るのが見えた。
流石に中までついて行く訳にはいかないので扉の前で聞き耳を立てる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「学園長!聞きたいことがあります」
学園長の机を勢いよく叩き、声を張る。
「急に来て何だね?私は今忙しいのだが」
コーヒー片手にくつろいでいるのを見て誰が忙しいと思うのか。
構わず質問を投げかける。
「一年Cクラスのユウ・カンザキ・ウォルターくんについてです」
「ウォルター・・・たしか男爵家だったなその子がどうかしたのかね?」
一瞬面倒くさそうな顔をしたが話自体は聞いてくれるようだ。
「彼のステータスプレートを拝見しました。一瞬だったので全部は覚えてませんがSランクの項目を複数確認しました。とてもFランクの評価を受ける人材には見えません。何故彼はそこまで低い評価を受けているのですか?」
「魔法力は?」
「はい?」
何故今魔法力を聞かれるのだろうか?
「魔法力はと聞いている」
記憶を辿り彼のステータスプレートを思い浮かべる。
「・・・F・・・確かFランクだったと思います」
「ならばその生徒がFランク評価なのは適正だね。」
「なっ!?何故です!?」
この爺さんは何を言っているのだろうか?
Sランクは希少な人材のはずだ。魔法力が低い程度で評価が最低まで落ちるなどありえない。
返ってきた理由は驚愕なものだった。
「総合評価とは生徒の実力を示すものだ。この学園の場合、実力とは実戦での戦力を表している。そして魔法の効果は魔法力が高いほどに増していく。どれだけ適性ランクが高かろうが魔法力が低ければ発動した魔法のレベルは低い。これがどういう意味か分かるね?」
「学園内の評価は魔法力によって決まる・・・という事ですか?」
「その言い方では多少語弊はあるがまぁ大体そんなところだね」
語弊だと?魔法力の低い者の魔法は低レベルだと嘲笑っておきながら何を言う。
「では・・・私のステータスの魔法力を除く全ての項目がCランク未満なのに総合評価がAなのも同じように魔法力がAだからですか?」
「その通りだ」
「失礼します」
耐えられなかった。
ユウくんに対する評価よりも自分への評価が努力ではなく、生まれ持った魔法力のみを見て出されたものだということへの悔しさが勝ってしまう自分が何よりも嫌だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
勢いよく扉が開きマリアが出てくる。
咄嗟に扉の影に隠れた。
今は出ていかない方がいいだろう。
会話を聞く限り今のマリアは怒り半分悔しさ半分といった所だろうから一人にしておくのが最善だ。
俺とシリスは五分ほど経ってから戻ることにした。