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-イレギュラーソウル-  作者: 雪村遥人
領地開拓編
5/7

霊体と初戦闘

「ダメダメ!もっと明確なイメージを持つんだ!」


あれから二日が経過した。

今は彼の部屋で霊体化の練習をしている。

霊体化とは実体化とも呼ばれる技術で、魔力を肉体に変換するものだ。

正確に言えば肉体ではなく霊体のため人間というよりは霊種に近い。

霊体化は一度成功すれば技能(スキル)として習得出来るらしく、転生体を短時間しか使えないISにとっては必須能力になっているという。


自分の身体をイメージすることは簡単なようで意外と難しい。手足のように見えている部分はともかく背中や首、頭などは鏡でも使わない限り視認することは出来ない。


『あれは・・・』


庭の方に目をやるとカイルが木剣で素振りをしているのが見えた。

そこで俺はカイルの身体をイメージすればどうかと思いついた。

イメージ出来ていないのは顔を除く鏡無しでは見られない所のみ、つまり身長や肩幅の似た人を見つければ補正可能な部分だ。

一六歳の中では比較的小柄な俺にとってカイルの体格はベストなものだった。


細かな調節を終えて技能(スキル)として完成させるのに一〇分もかかった話は蛇足だろう。


二日もかかってしまったが無事に霊体化が可能になったという訳だ。


「これで次のステップに進めるな。」


彼はそう言うとふらついて近くの机に手をついた。

それとほぼ同時に一人の人間が魔力の光と共に現れこう言った。


「それじゃ早速身体に入ってみようか」


俺は目を疑った。

目の前に現れたのは美少女だった。

セミロングの髪は黄色いインナーカラーが入れられていて明るい印象を受ける。

いや、見た目も疑った理由に少なからず入っているのだが、一番の理由はそこじゃない。

そもそも俺は彼を男だと思っていた。

性別を判断する要素が全く無い状態で俺という一人称を使われれば誰でも勘違いするだろう?


「どうした?」


彼・・・いや彼女はそう言いながら上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。


『えっと・・・』


俺がどう反応すればいいのか悩んでいると彼女は何を察したのか少し離れて続けた。


「ごめんごめん言ってなかったね。俺は四宮真央(シノミヤマオ)見ての通り女だよ。最近波長の合う相手が男子ばかりでさ、一人称直らなくなっちゃったんだ」


やっちゃったと聞こえてきそうな顔で彼女(以降シノミヤ)は説明した。


『いや、嘘をついていた訳じゃないから勝手に勘違いした俺が悪いよ』


「そう言ってくれると有難いよ。それはそうとカンザキくんはいつまで念話を続けるの?霊体化が出来るようになったなら普通に声出せるよね?」


「あっ・・・」


「忘れてたんだね」


今までは身体が無かったため会話は全て念話を利用していた。

これも魔力を応用した技術の一つで、声帯を持たない生き物が意思疎通を可能にするために編み出された方法らしい。

今は霊体を使っているため普通に喋る事が可能だ。


「戻す・・・時は・・・合図って・・・言っただろ・・・」


彼が頭を抑えながらシノミヤを睨んだ。

目の色も黒に戻っている。


「どうなってるんだ?」


「大丈夫だよ。ちょっと目眩がしてるだけだから」


どう見ても大丈夫じゃなさそうなんだが・・・。


「そんなことより」と続けるとISが肉体を使う方法と原理について説明を始めた。


生き物の身体には内蔵を動かすなどの生命活動を行うエネルギーを生成する器官が存在する。

(うつわ)と呼ばれるそれに実体は無く、見えない内臓とも言われている。

(うつわ)で生成されたエネルギーは生命力と呼ばれ、全身を巡り(うつわ)へ戻る。

これは(うつわ)を心臓に、生命力を血液に例えるとイメージしやすいだろう。


ISが身体を使う方法はこの器が大きく関係している。そもそも生命力を生成する器官というのは正確ではない。生命力を生成しているのは魂で、(うつわ)とは生成された生命力が全身に巡る量を調節するための受け皿のことだ。


要は魂を肉体に留める役割を果たしているのが器で、魂だけの存在であるISは器に入ることで身体を使えるようになるということだ。


「身体の使い方はこれで分かったよね?何か質問ある?」


「彼が身体を使われている事を認識できてる理由となんで目眩がするのかを聞きたいな」


「ISが身体を使うのは奪うんじゃなくて共有するってことだからね。ISが身体を使ってる間は身体の持ち主がISに近い状態になるんだ。当然身体を使う権限は持ち主の方が上だからISの制限時間に関係なく戻せるんだけどね。目眩がする理由は身体から離れた魂が身体に戻ることで脳が身体を揺さぶられたと錯覚して激しい船酔いに近い症状を起こすから」


なるほど・・・持ち主が魂だけになっているのは器にISが入っていることで起こる一時的なものでISが器から出ると持ち主の魂が体外に居る理由は無くなり元に戻ると。

だから持ち主はいきなり身体を揺さぶられたように錯覚するのだ。


「あんたもこいつと同じなのか?」


目眩から復活したらしい彼がシノミヤを指さしながら睨んできた。


「同じじゃないから安心しろ」


同じというのがISであることを指しているなら怪しいがシノミヤはAISで俺はOISだ。嘘にはなっていない。

〔シノミヤと同じで身体を適当に使う酷いやつ〕という意味だったなら即言い直そう「違う」と。


「というかさっきから言ってる彼って誰だよ」


「お前のことだが?」


「俺にはユウって名前があるんだ。ちゃんと名前で呼べよ」


「そうか、ならウォルターと呼ぼう」


「なんでだよ!!」


「俺もユウだから?」


そう返すと彼は口を噤んだ。同名など珍しいことではないのだが、来世の自分を自分と同じ名前で呼ぶのは少し抵抗がある。

彼もそれは理解しているようでそれ以上要求はされなかったが、代わりに別の呼び方を考えているようだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


場所が変わって森の中。

霊体を使っている間は修行のために旅をしている魔法使いを名乗り、村に滞在する事になっている。

ちなみに魔法使いを名乗る理由は武器を持ってないから。

森に入った目的は狩りだ。部屋を借りた宿の持ち主が「近頃魔獣が増えていて狩りが難しくなっている、宿の代金を無料にするから手伝ってくれないか」と持ちかけてきたので参加することにした。


これに参加しているメンバーは俺とシノミヤを入れて八人、木製の弓を持っているのが三人と片手剣を持っているのが三人だ。

弓の三人が実際に狩りを行う担当で他は魔獣が出た時の保険だろう。


「魔獣が出たら俺はどうやって戦えばいいんだ?」


ふと疑問に思いシノミヤに小声で聞いた。

俺は魔法に関して全く知識がない。


「お前は基本近接戦闘だ」


は?

魔法使いの設定ガン無視ですかそうですか。


「近接戦闘って・・・俺は武器を持ってないんだぞ?怪我したらどうするんだよ、痛いのは嫌だぞ」


「安心しろ霊体に痛覚神経は無いから痛くないし怪我をしても直せる。それこそ四肢をもがれてもな。攻撃方法はそうだな・・・魔力を纏えとだけ言っておこう」


痛みを感じないのか・・・この身体は。


戦闘中なら怪我を気にすることなく戦えるため痛みに耐性のない俺には有難いのだが、普段はそうもいかない。

痛みとは脳が発する危険信号だ。

それを遮断すると怪我をしても気づけなくなってしまう。

例えば奇襲、突然後ろから攻撃をされたとしよう。痛覚があればどこを攻撃されたのか直ぐに分かる。だが痛覚が無かったら?攻撃されたという事実に気づくまでコンマ数秒のラグが発生するのは当然と言える。


シノミヤの余裕そうな態度から見てそれも何かしら対策があるのだろうが、今それを教える気は無さそうだ。


「近くに魔獣の気配はないか?」


狩りをする側とは思えないほど弱々しい声で一人の青年が尋ねてきた。


「今のところ強い反応は無いな。数匹見かけたがこちらを攻撃してくる気配は無い。寧ろ警戒して距離を取っている」


シノミヤがそう返すと青年は安心したのか少しだけ表情が明るくなった。


「魔力感知・・・」


「へ?」


「俺がどうやって魔獣の位置を把握してるか説明してなかっただろ?《魔力感知》っていう技能(スキル)を使ったんだ。やり方は自分で考えろ、ファンタジー好きなら簡単に分かるはずだ」


視線を変えることなく説明を終えると早くしろと言わんばかりに背中を叩いてきた。


魔力感知、ファンタジー作品において出ないことの方が珍しい技のひとつだ。

作品によって多少の差異はあるが最もありふれた使用方法は魔力を薄く伸ばし、広範囲に広げるものだろう。


バシッ!


後頭部に衝撃が走った。


「アホか!放出してどうする!薄く伸ばすんだよ!」


小声のまま叫ぶような言い方で注意をするシノミヤの右手の指が真っ直ぐ揃えられていた。

どうやら手刀を入れられたらしい。


魔力を広げたつもりが放出してしまっていたようだ。

今度は霊体を作る時と同じイメージで全身に魔力を纏い、纏った分の魔力のみを制御して広げた。


やはり歩きながら試すのは難易度が高い。


「っ!!一旦中断して」


小声でそう告げると次は全員に聞こえるように大きな声で続ける。


「正面から魔獣接近!数は三匹かなり速い、二匹は俺とこいつが倒すからもう一匹はなんとかしろ!」


俺は魔力感知のために広げていた魔力を戻すと両手の肘までに集中させるように纏った。

次の瞬間シノミヤが言った通り三匹の魔獣が迫ってくるのが見えた。


「銀狼!?」


青年の一人が魔獣を見て驚きの声を上げた。

他の皆も声には出さなかったが動揺しているようだ。


銀狼の一匹が牙をむき出しにして襲いかかってくると咄嗟に左腕で庇った。

魔力を纏っていたため牙は通らない。

念の為両腕に魔力を集中させておいて良かったと思いつつ右腕の魔力を右足に移動させて蹴りあげる。

追撃を考えたが今ので気を失ったらしく動かなくなった。


シノミヤの方を見ると足元に二匹の銀狼が倒れていた。


「一匹ずつ倒すんじゃなかったのか?」


「二匹とも俺を狙って来たから仕方なくな。お前はもう少し苦戦すると思っていたぞ」


ドヤァ・・・とでも聞こえそうな顔でそう返してくる。


初めての戦闘とはいえ初手を躱せなかったのは痛い、魔力を集中させていたから大丈夫だったがもし魔力を解いていたら腕は無くなっていただろう。シノミヤは直せると言っていたがその方法もまだ教わっていないのだ。

それに魔力を解かなかったとしても集中させていなければ怪我をした可能性があった。


無傷で勝てたのは運が良かっただけで俺が強くなった訳じゃない。

それを強く認識しなければならない。

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