異変の正体❨ 2 ❩
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その後書斎を見つけた俺は本を見て絶望した。
そこに保管されていた物は大半が伝説やそれを元に作られた物語だったからだ。
文字が読めないという最悪の可能性が否定されたことは良かったのだが、それでも情報収集を目的にしていた以上これは残念としか言い様がなかった。
今の状況を簡単に説明するなら、[辞書を借りに図書室に行ったらラノベしか置いてなかった]という所だろうか。
ガチャッ
書斎の扉が開き、彼が入ってきた。
慌てて手に持っていた本を元の位置に戻し本棚の影に隠れる。
俺の姿は見えていないのだから隠れる必要は無かったのだが、他人の持ち物を漁っていた現状が反射的に隠れさせた。
彼は扉の鍵を閉めて呟いた。
「誰か居るんだろ?出てきなよ」
『見えてる・・・のか?』
俺は動揺を隠せず、いや隠そうともせずに返した。
「残念だけど見えてないよ。声は聞こえてるけどね」
声だと?俺が声を出したのは寝室から出た直後の一度だけだ。見つけられる訳が無い。
『なんで俺がここに居ると分かった?』
「そんなの簡単だよ。君言ってたよね『どうなってるんだ』ってさ、だからここに居ると確信出来た。」
『状況を理解出来てないやつは情報を集めるために書斎に行くと・・・そう言いたいんだな』
彼は小さく頷いた。
確かにそれなら納得出来る。
情報も生き抜く術も持たずに異世界で生活するなど自殺行為もいい所だ。
だが、それなら何故・・・
『なんでお前が日本の知識を持ってるんだ?』
「あれ?俺何かミスった?」
彼がこの世界で生まれ、この世界で育ったのなら意識のハッキリしていない寝起きの状態で聞こえた声など本当に「寝ぼけていただけだと思う」で流している可能性が高い。
転生者が情報収集をするのは異世界という概念がフィクションとして認知されている日本だからこその発想だ。
つまり声が聞こえたという理由だけで俺の存在をあるものとして考え、更に居場所を特定するためにはその概念を知っている必要があるということだ。
仮に俺の存在をあるものとして考えたとしても日本の知識が無ければ居場所の特定には至らないだろう。
無理矢理こじつけたような理屈だが、彼が日本の知識を持っているのは間違いない。
彼の反応がその証拠だ。
「まぁいいや、そこまで分かってるなら俺がどういう存在かも分かるよね?」
彼は大きく目を見開いてそう言った。
その時、俺は彼に違和感を覚えた。
見えていないはずの俺を見据える瞳を見て、違和感の理由に気づいた。黒だったはずの彼の右目が黄色に変わっていたのだ。
『どういう存在?そんなの知らない!』
「あーそういう事か」
彼は何かに納得したように微笑んで続けた。
「お前OISなんだな。そりゃ分からないわけだ」
おーあいえす?聞いたことの無い単語だ。
何かの略語だと思うが・・・。
「オリジナルイレギュラーソウル通称OIS、記憶復活の条件を満たしたのに統合されず分離してしまうことで生まれる者か・・・道理でこの身体に入ったのにミドルネームが俺の名前じゃなかった訳だ」
『どういう意味だ!分かるように説明しろ!』
「それじゃ聞いてもらおうか。イレギュラーソウルについて・・・」
彼の話は十分に渡った。
要約すると俺と彼はイレギュラーソウル(以降IS)という存在になっているらしい。
ISとは記憶を復活させる条件を満たしておきながら統合されず分離してしまうことで生まれる魂だけの存在だ。
ISと転生後の身体はミドルネームという形で繋がっているため、短時間であれば転生者と同じように出来るという。
儀式を終えた者から稀にミドルネームを得た者が出るのはこれが理由だ。
ちなみに転生者はミドルネームを持っていないらしい。全てを統合させた転生者は二人分の魂を器に収めているためその分力の消費が激しいのがその理由だ。
その点ISは能力だけを統合させているため高い能力を得られるのだと。
ミドルネームがISの力ならミドルネームを習得する特別な水晶とは強制的にISを作り出す道具ではないかと聞くと彼は首を横に振った。
その方法はISの存在を知らない者が簡単に力を得られると勘違いしているだけだと彼は悲しそうな顔でそう言った。
これ以上触れてはならないと判断した俺は質問を変えた。
『ISについては分かった。それじゃあオリジナルってどういう意味なんだ?』
「ISになったあとも身体が生きている者のことさ。記憶復活の条件は前世の死因と同じ方法で大怪我をした後生き延びること、つまりISになった時点で条件は満たしてるってことだ。たとえその後身体が死んだとしても・・・な」
質問を変えた意味なかったな。
地雷踏み抜いただろこれ。
『えっと・・・つまり俺はその身体のオリジナルイレギュラーソウル、OISってことでいいんだよな?』
「あぁ、その通りだ。転生体を失ったISはアナザーイレギュラーソウル、略してAISと呼ばれている。AISは波長さえ合えばどんな身体でも使うことが出来るようになるんだ。俺が今お前の転生体を使っているのはその力を使っているからだよ」
『お前がその身体を使っている時、俺はその身体を使えないって事か・・・』
「いや?オリジナルの方が権限が上だから身体の使い方を覚えれば自由に出来るよ」
その後彼の鬼のような修行を受けることになることを今の俺は知らなかった。