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-イレギュラーソウル-  作者: 雪村遥人
領地開拓編
2/7

異変

強い光が視界を白く染め網膜を刺激する。

それが窓から差し込む朝日である事に気づくのに数秒を要した。

窓を開け全身に日光を浴びながら大きくあくびをして庭を眺める。

二階から見える庭は見晴らしがよく、今日のように天気のいい日は絶好の昼寝場所になる。


コンコン


「失礼します」


ドアをノックする音と同時に一人の女性が入ってくる。

彼女はこの家に仕えて五十年になるベテランの使用人だ。通称ばぁや


「おはようございます坊っちゃま。朝食の準備が整いましたので食堂へお越しくださいますよう」


「すぐ行くよ」


ばぁやは小さくお辞儀をして部屋を出た。

俺も服を着替えてから食堂へ向かう。

食堂のドアを開けると五つある席の内四つが既に埋まっていた。


「遅いぞ!!リアより遅いとは何事だ」


「申し訳ありません。しかし父上、朝食の時間は七時半と決まっております。そして現在の時刻は七時二十分、遅れてはおりません。俺が叱責を受ける道理は無いはずでは?」


リアというのは俺の二つ年下の妹の名だ。

妹のほうが早かったというだけで規定時刻を守っている俺が何故叱られなければならないのか。


「道理が無いだと!?妹に負けて悔しいとは思わんのか!?」


思わずため息をつきたくなる。

こんな理不尽の塊のような男がよく領主になれたものだ。


「そもそもお前にはウォルター家の人間であるという自覚が足らんのだ」


ウォルター家とはイルフィラーゼという国に所属している八等爵家である。

そしてウォルター領現当主が俺の父であるゴーネス=アル=ウォルターだ。


「まぁまぁ父さん落ち着いて。ユウだって別に遅刻した訳じゃないんだしさ、ユウを怒るくらいならリアを褒めてあげるべきじゃないかな」


そう父を宥めたのは俺の兄にしてウォルター家時期当主のカイル=シス=ウォルターだ。

一四歳にして騎士団への推薦を受ける程の剣技を持つ自慢の兄だ。


「私が褒められる理由などありませんよ兄様。兄さんは昨日森で事故にあっていたのです。奇跡的に怪我がなかったとはいえ体調は万全ではないはず、むしろ朝食の時間に間に合ったのを褒めるべきでは?」


表情を変えずに淡々と話すこの少女は俺の妹のリア=ウォルターだ。まだ四歳とは思えない大人びた話し方は母に教えられたもの。


「まぁいい、座りなさい」


自分の席に座ると奥から料理が運ばれてきた。

メニューはトーストにベーコンと目玉焼きを載せたものだ。


「そういえば父さん今日はユウが儀式を受ける日だよね。準備はどうなってるの?」


「それなら村の者にやらせているから問題ない。昼までには終わると報告を受けたばかりだ」


「そっかーユウはどんな職業になるのかな?」


儀式とは自身の職業を決める行事のことで今後の人生を左右する重要なものだ。

ちなみにカイル兄さんの職業は剣士、騎士を目指すきっかけになったらしい。

父は確か策士だったか、知力が大幅に上がったらしいのだがあまり信じてない。


「領主様ー!」


玄関から男性の声が届く。

ちょうど朝食を食べ終えた俺は父に手を引かれて村に向かう。

家から村までは近いようで遠い。

地図で見れば近いのだが、この家は村を一望できる高い崖の上に建てられているため村に行くには家を囲うように舗装された螺旋状の坂道を下るしかない。

何故こんな面倒な場所に家を建てたのか、当時の領主の思考回路は意味不明だ。


「今年の儀式は四人だったな?」


父は村に入ると儀式の準備をしていた一人の青年に声をかけた。


「五人ですよ。去年怪我をして儀式に参加できなかった者がおりますので一人多いんです」


「そういえば去年は一人少なかったな。それで儀式はもう始められそうか?」


「はい。あとは儀式を受ける子供を広場に集めるだけです」


昼までには終わると報告を受けていたらしいが思ったより早く終わったようだ。


俺も儀式を受けるために広場へと向かう。

石畳で舗装された広場の中央に人の頭程ありそうな大きい水晶が設置されていた。

普段は教会に保管されているものだが儀式の時のみ持ち出してくるのだ。


俺の後から四人の子供が広場に集まってきた。

今年の儀式を受ける者達だ。


「おはようユウ、どんな職業になるか楽しみね!」


笑顔でそう話しかけてきたのはシエルという女の子だ。初めて村に来た時から仲良くしている。


「ちょっとシエル!ユウくんは領主の子供なんだからもっと丁寧に話さないと不敬罪になるかもだよ!!」


焦ったような声でシエルに注意をするこの少年はリーク、シエルと同じく仲のいい友人だ。

ただ俺の父を極度に恐れていて父が近くにいる可能性が高い時は必ず敬語を使っている。


「リークは気にし過ぎだよ。『言葉遣いが多少崩れた程度で子供を罪人扱いするほど父は小さな男では無いからね』」


広場に父が入ってくるのが見えたためわざと大きな声で言った。

これを聞いた父は嫌味ではなく自慢されていると判断したらしく、薄く笑顔を浮かべていた。


「これよりウォルター領天職の儀を始めます」


「名を呼ばれた者から前に出よ!」


儀式の手順は予め説明されている。

名前を呼ばれたら水晶に手を置き、合言葉を唱える。これだけだ。


「ユウ=ウォルター!」


「はい!」


短く返事をして水晶の前に移動する。

目をつむって手をかざし、合言葉を唱える。


「〈神の御霊よ・理の儀式に応え・我に使命を与えたまえ〉」


合言葉を唱え終えると水晶に光が灯り、かざしていた右手を伝って右足、左足、左手と流れていく。

そしてその光が頭に流れた瞬間、激しい頭痛に襲われた。

視界が歪み、自分が今どんな態勢なのかも分からなくなった。

痛みが圧迫感に変わる。頭を多方面から押さえつけられるような感覚が思考を乱す。


数秒後頭の中で金属が弾けるような音が響いたかと思うと、さっきまでの痛みと圧迫感が嘘のように消失した。


全身を巡った光は水晶に戻り・・・消えた。

そして光が消えるのと同時に無機質な声が聞こえてきた。


『体内に二つの魂の存在を確認、このうち一つが魔力による擬似魂であることが判明。前世の記憶の復元条件を満たすが統合に失敗、分離され行き場を無くした人格が魔力を利用して擬似魂を形成したと予測。魂、擬似魂共に問題無しと判断。処理完了、儀式を終了する。』


その声の後視界に職業名が表示される。

[魔工技師]聞いたことの無い職業だ。

後で調べておこう。


それよりも気になるのはさっきの声だ。

魂が二つあるとか前世がどうとか言っていたがあれはなんだったんだ?

ショックによる前世の記憶の復元・・・統合?

まるで訳が分からない。

そもそも前世とはなんだ?

それに儀式中に声が聞こえるなんて話は聞いたことがない。

調べる必要がありそうだな。


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