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-イレギュラーソウル-  作者: 雪村遥人
領地開拓編
1/7

プロローグ

全身を打つ冷たい雨と倦怠感に襲われ、俺は目を覚ました。視界に映るのは分厚い雲に覆われ薄暗い空と高い崖のみだった。

状況から察するに俺はこの崖から落ちたのだろう。

雨のおかげで意識は戻ったものの身体は動かないままだ。

どうやら耳もおかしくなっているらしい、これだけの激しい雨にも関わらず雨音が全く聞こえない。


---俺は死ぬのか?---


そう思った時、走馬燈のように落ちた時の記憶が蘇ってきた。


---俺は・・・自殺したんだ---


長期間にわたり悪質な嫌がらせを受けていた俺は主犯三人の目の前で死んでやろうと思い三人が毎日通っているゲームセンターのビルの屋上に立っていた。

双眼鏡を使い下を見ると三人がゲームセンターに向かい歩いているのが見える。

今落ちれば確実にアイツらの目の前に落下するだろう。

遺書をポケットに入れて迷うことなく飛び降りた。

記憶はそこで止まっていた。


視界が記憶から外れて戻る。

映る景色は変わらず崖と薄暗い空のままだった。

そして違和感に気づく。

ビルから飛び降りたはずなのに俺が倒れているのは崖の下だ。

この違和感は俺の思考をクリアにするのに充分な好奇心をくすぐった。


「ユウー!!どこにいるの!?返事してー!!」


続いて何処からか声が聞こえた・・・気がした。

雨音を受け入れない耳が人の声など拾うはずもない、きっと幻聴だろうと考えて切り替え用途したが、人が近くに居るかもしれないという思考は意識よりも早く働き、倦怠感を忘れさせ全身に活力を与えた。

なんとか起き上がろうとしたが何やらヌメリとしたものに滑りまた倒れてしまう。

嫌にベタついた手を確認すると赤黒い何かが付着していた。鉄のような臭いが、その何かが血液である事を物語っていた。

慌てて周囲を見渡すと自分の身体より少し小さい位の大きさの血溜まりの中で倒れていたのが分かった。当然それだけの量の血液を失えば人間が生きていられるわけが無いことも理解している。


「起きたか?坊主」


人の気配を感じ木陰に目をやるとそこには20代前半程の青い髪の青年が本を片手にくつろいでいた。


「聞こえないのか?」


---きこえ・・・何だ?---


青年が何を言っているか分からない俺はどうすればいいかも分からない。ただどうにかして聞こえないのを伝えなければならないとそれだけを考えていた。


「あのっ・・・僕耳が・・・」


「分かったから少し静かにしてろ〈リカバリー〉」


青年は俺の額に手を当て、小さく呟いた。


「これでいいだろ?聞こえるか?」


「今のは・・・」


「深く考えるな、君の歳ではまだ早い」


何が起きたのかは分からないが聴覚が戻ったのは有難いことだ。

お礼を言おうと青年を見ると、青年の衣服が全く濡れていないのにまた違和感を覚えた。

当然だ、雨が降っている中傘もささずに濡れないなどどう考えても不自然だからだ。

仮に防水加工されているものだったとしても髪まで濡れないなんて事はありえない。


「なんで雨が降ってるのに濡れてないんですか?」


考えるのも面倒だからハッキリ聞くことにした。

だが期待した回答は帰ってこなかった。


「夜の森は危険だ、さっさと家に帰るんだな」


青年はそう言って立ち去ってしまった。


「ここが何処かも分からないのにどうやって帰れってんだよ」


そう呟くと、スイッチがオフになったように強烈な眠気に襲われ俺は意識失った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


再び目を覚ましたのは木製のベッドの上だった。

どうやら倒れているのを誰かが見つけてくれたらしい。

両手を見ると赤黒い血も綺麗に取れていた。


「あら?おはようユウ、ご飯食べられる?」


その声は初めて聞くはずなのに何故か聞き覚えがあるような気がした。

声の主は20代後半程の女性だ、そして何故か初対面のはずなのに見覚えがあった。


いやそれよりも・・・


「どうして僕の名前を?」


女性は少し驚いたような顔をしたが直ぐに平常心に戻ったようで手に持っていた料理を落とすことはなかった。


「そう・・・頭を打って記憶が混乱しているのね」


その声はどこか寂しそうだった。


「もう少し寝ていなさい。そうすれば直ぐに思い出せるわ」


諭すような優しい声は俺の意識を奪っていく。


「おやすみなさい」


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