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18話 神の傑作

 18話




「オートバイに乗っているように見えるか? 歩いて入ってきたに決まってんだろ」


「そういう意味ではないのだけれど」


(自動二輪って概念をスルーしたのは、当然のものとして認知しているからか、それとも、ただ流しただけか。ここの生き残りなのか、それとも、俺と同じ侵入者か……または、それ以外の特異な何かか……)



「外界の者は、ここには入れないはず……どうやって……いえ、いいわ。答えなくて」



 その女は、淡々と、無表情に、


「不思議ではあるけれど、『どうしても答えを聞かなければ気がすまない』という訳ではないから」


「そうかい。助かったよ。俺にも、理由は分からないんでね」


「とりあえず……それ以上、近づかないで。そして、すぐに帰りなさい」


「恥ずかしがり屋さんなのかな、それとも孤独主義かな? もし後者だったら、気持ちは分かるぜ。ボッチってのはいいよな。誰にも邪魔されず、自由で、静かで、豊かで、なんというか、救われているって実感できる」



「絶望したくないなら、帰りなさい。死にたいなら、勝手にしなさい」



「選択肢をくれんのかい。優しいねぇ。しかし、穏やかじゃないねぇ」


「ワタシに近づくと、アレが動く。アレが動けば、ワタシ以外、全員死ぬ」


「だよなぁ。アレは恐いもんなぁ。美味しいんだけどなぁ。恐いのは頂けねぇよなぁ」


「……」


 そこで、その美女は、はじめて、センの方に顔を向けた。


 無表情のまま、しかし、確かな不快感を張りつけた表情。


 その顔を見て、センはニっと笑い、


「ようやくこっちを向いてくれたな。こんにちは」


「………………こんにちは」


「センだ。こっちはアダム。そっちは」




「ユンドラ・エルドラド」




「フルネームの自己紹介、いたみいるぜ。それじゃあ、そろそろ建設的な話をしていこうか。――アレってのは?」


「……」


「答えたくないか? なら、別の質問を――」


「アレは――」


「答えてくれんのか。なら、さっさと言え、なんて無骨な事は言わないさ。各々のタイミングってのがあらぁな。――で、アレってのはなんなのかな?」






「――神の傑作」






「いいねぇ」


 言いながら、センは、心の中で、


(まあ、今までの神生で、8回くらい、その称号を持つヤツを相手にした事があるわけだが……そんな空気が読めていない事は言わないさ)


「アレには誰も敵わない」


「誰も……ねぇ。神の手によって生まれた創作物なのに、神でも勝てないのか?」


「神は死んだ」



「ぶふっ」



「……何?」


「いや、悪いな、笑うつもりはなかったんだ。全面的に謝罪する。申し訳なかった。失礼だったと反省はしている。どうか、気にせず、続けてくれよ、ニーチェ先生」


「ワタシはユンドラなのだけれど?」


「ああ、もちろん、そうだとも。それで? 神が死んだって話だが、なぜそれが分かる? 神の葬式に参加した経験でもおありなのかな?」


「そうでなければおかしいというだけ。神は、きっと、もういない」


「その結論に至った根拠がほしいねぇ」


「いくら呼びかけても、返事をしてくれた事がない」


「それが不在証明になるかっつぅと、微妙なところだが……まあ、どうとらえるかは個々の自由さ。好きにすればいい」


 そこで、センは、コホンと息をついて、


「ところで、お前に近づくと、噂のアレが動くって話だが、どの程度近づけば、その『アレ』とやらが動き出すのかな?」


「ワタシを拘束しているエリアに入った瞬間。具体的に言えば、そこから後、10歩ほど、ワタシに近づいたら、アレは動き出す」


「10歩か。と言う事は、後9歩か?」


 一歩、前に進んでそう言うと、


「死にたいの?」


「せいかーい」



 センは、おざなりの拍手をして、



「正式には死にたいではなく『終わりたい』なんだが……まあ、俺以外のヤツからすれば、些細な違いさ。気にしなくていい。――あと8歩」



「忠告はした。もう止めない」



「ありがたい判断だ。わずらわしいのは嫌いでね。ところ、一つ、聞いていいかな?」



 残り、7歩。



「あんたは、なぜ、拘束されている?」


「分からない」


「おやおや、そいつはもしかして、約束された勝利の『記憶喪失』ってヤツかな? これ以上、テンプレ増し増しになると、こちらとしては、色々と辛くなってくるのだが」


「記憶を失った訳ではない。ワタシは、いくつかの情報をインプットされた上で、『ここ』に発現した現象。『外界の者は、ここに入る事はできない』という事や、『部外者が、そのエリア内に足を踏み入れたらアレが動く』という事は知っている。しかし、ワタシが、なぜ、ここに存在しているのかは分からない。なぜ、ワタシが外にでようとすると、アレが邪魔をしてくるのか……ワタシは、何も知らない」


「ふむふむ、そっちのパターンね。――あと、六歩」


 言いながら、心の中で、


(……『この空っぽの都市には、そもそも誰も入ってくる事はできない』……のに、『その中にある、このエリア内に、誰かが入ってきた場合は、アレが動く』ときたか……くく……笑わせるじゃねぇか)



 残り、5歩。



「一つ聞かせてくれ」



 残り3歩。



「そこから出たいか?」



「逆に聞きたいのだけれど、ここに居続けたいと思う?」


「俺はごめんだ。しかし、俺の事はどうだっていい。生き物ってのは不思議なもんで、種族は同じでも、個体ごとに全く趣味嗜好が異なる。『何もない道路の上で永遠に漂っていたい』と思うヤツがいても不思議ではない。という訳で、そろそろ俺の質問に答えようか。そこから出たいか?」


「出たいわね。外の世界を見てみたい。ここで、ただ朽ち果てるだけだなんて嫌。けれど、無理。あたしはここから出られない」


「アレが邪魔をするからか?」


「そう。アレがいる限り、ワタシはここから出られない。つまり、永遠に出られない」


「くく……じゃあ」


 残り一歩。




「まずは、その幻想をブチ殺そうか」




「は?」







「気にすんな、ただのテンプレだよ」


 残り、0歩。



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自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
[一言] ゲンコロはテンプレと呼ばれても良いくらいの知名度だしね
[一言] 口癖なんでしょうが、それはテンプレじゃなくてパクリとかそういう類だと主人公に言ってやりたい
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