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16話 謎の霧に入ろう

 16話 



 南大陸の南方。

 深い森の奥地。


 そこに、謎の霧は発生している。


 遥か太古から、理由もなく、無限に発生し続けている謎の霧。


(直接見ても、何も感じない……か)


 センは、転移してすぐ、目に力を込めて霧を睨みつけたが、何も見通せなかった。


(触った感じは、ただの幻霧だが……)


 右手でサっと謎の霧に触れてみたが、特に異質さは感じなかった。


「……俺の目を弾いた理由は……」


 腰を落として地に触れたり、周囲の木々にコンコンとデコピンをしてみたり、色々と調査をしてから、


「霧の周囲には何もない。やはり中か……入るしかないな」


「主上様、まずはわたくしが――」


 斥候を買って出ようとしたアダムを視線で黙らせて、




「俺がビビっているようにでも見えたか?」




「いえ、決してそのような――」


「なら、黙って後ろからついてこい。お前は俺のパシリ。つまり、保護対象だ。雑用は任すが、『大事』は全て俺がさばく。お前は、呑気に、俺の背後で守られてりゃいいんだよ」


 ようするに『邪魔するな』と言われた訳なのだが、

 アダムは、センの言葉を、

 『お前の事は大事にしているから無茶はするな』と捉えた。


(ぁあ……主よ……)


 恍惚の表情でセンの背中を見つめるアダム。

 時間が経つにつれて、どんどん、センに対する感情が昂ぶっていく。


(大いなる主……偉大なる主……)


 そのたくましい背中を見つめていると、心が、どんどん熔けてゆく。


 感情の昂ぶりは、沸点に達し、


(私の……神っ!)


 世界から奪い取るように、センの背中を、ギュっと抱きしめる。

 センの温かな肌に触れて、脳が泡立つ。


 無意識の内に、胸を押しつけていた。

 少しでも、自分の柔らかさを感じて欲しいという、謎の欲求。


 触れているだけで、ただ、満たされていく。

 スルリと、センの背中に頬ずりをすると、魂をマッサージされているような、全身を貫く快感に包まれる。


 主の偉大なる――






「……は? なに? どうした?」






「ぇ……ぁ……」


 センの言葉が耳に届くと、アダムの精神に冷静さが少しだけ戻った。

 泡立っていた脳が警戒音を発する。


(やばっ……私は何を――)


 我に返ったアダムは、


「ぃえ、あの!」


 即座に、センの背中から離れて、


「も、もうしわけ――いえ、なんでもございません。その、少し、つまづいてしまい、あの……」


「つまづく? お前ほどの存在値があれば、空間把握能力もズバ抜けているはず……つまり、何か異常があったということか?」



「いえ、違います。本当に、ただ、ボーっとしていて、つまづいてしまっただけです。はい!」



「……なんで、この状況でボーっとできるんだよ。呑気に守られてろって言ったからか? 忠実にもほどがあんぞ……まあ、いいや。じゃあ、行くぞ。この中では何があるか分からない。死にたくなければ、俺の後ろから離れるな」



「はっ、決して、御側を離れません」



 アダムの返事をしたと同時、センは、いくつかの魔法を展開させる。


 自分一人だけでここに来ていたならば、無防備に、霧の中へと足を踏み入れていただろうが、今はアダムがいる。


(めんどうくせぇなぁ……なにより、このめんどうくささに慣れてしまっている自分が、いちばんメンドくせぇ)


 心の中でつぶやきながらも、まだまだ魔法を展開していく。


 強化系や防御系や転移系。


 どんなハプニングが起きようとも、決してアダムが死なないように、センは、アダムに魔法を重ねがけしまくっていく。


(……くく、過保護かよ……)


 自分で自分に呆れるほど、センはアダムに魔法をかけていた。


(これほど警戒するのは久しぶりだな……さて、何が出てくるかな……ちょっとだけ楽しみだね)



 心の中でつぶやきながら、センは、霧の中へと足を踏み入れた。







 

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