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77話 幼さという脆さ。


 77話 幼さという脆さ。


「目の前の一個一個の情報を適切に処理していく。それ以外はただのノイズ。かりに、『野球勝負でワシが神様に勝った』いうんが幻想やって、神様の実情が、ミシャンド/ラの言うとおりやったとしたら、そしたら、全員で死んだらええ。『地球が爆発しました』っていうんと同じくらいの災害に遭遇してもうた……そう思えばいいだけの話。なんちゃ難しくない」


 そこで、岡葉が、


「トウシくんが言いたい事、ちゃんとみんな、伝わっているよね? 神が想像以上に強いかどうかなんて関係ないんだ。絶対に乗り越えられない壁が相手なんだとしたら、その時は、みんなで一緒に潰されて死ねばいい。けど、もし、そうじゃないのなら、ボクらは何をすべきか。それを考えないといけないんだ。『勝てる訳がない』とか嘆いているヒマがあるなら――」


 と、そこで、味崎が、


「岡葉、もういい。みんな、分かっている。こいつらはバカじゃない」

「トウシくんが諦めていないのなら……私達も諦める気はないわ」

「そうだよ。トウシくんがいれば、どうにかなる」

「これまで以上のミラクルで、さっきの少女も、神様も、全部、なぎたおしてくれる!」


 全員を見渡すと、

 みな、半盲目的な顔で前を向いていた。

 甘い夢を見て這いずるマリオネット。


 絶望下でも、頭が折れていなければ、前を向く事ができる。

 『戦場で死ぬことができる兵士』という、壊れた人形になれる。

 だから、トウシは、先ほど、強健な態度をとり、尖ったセリフをはいた。


 しかし、それは、深層心理の乖離がもたらした、ある種の歪みでしかなかった。

 『自分が折れたらその時点で終わる』という強迫観念。


 ほとんど、脊髄反射でしかなく、

 実際のところ、心の中では、


(あかん……ムリや……ミシャンド/ラは嘘をついとる感じやなかった……ただの演技の可能性もあるけど、それより、おそらく、ほんまに神様の力がエゲつないって可能性の方が高い……)


 表では、ぎりぎり『諦めていないリーダーの顔』を保っているが、内心では、


(神様には勝てん……おそらく、というより、確実に、あの三振は演技……ワシらは全員、殺される……神様からしたら、ワシらは、育成キットの中のアリンコと同じ……ワシが、どんだけエサをくって、太って大きくなっても、神様からしたら『他のアリよりは大きい』程度でしかない……所詮は、指先でちょっと押せば殺せる虫ケラ……)


 絶望の底に沈んでいた。

 実は、もう、折れていた。

 立っているのがやっとの放心状態。


 つまり、トウシの言葉は、すべて、

 脆さを支えあうために吐かれた、傷だらけの嘘。


 トウシは、『無敵の精神力』を持っているわけではない。

 『どんな絶望を前にしても決して折れない狂気の魂魄』を有してはいない。


 確かに、とびぬけて異質なスペックを有しているが、

 しかし、トウシだって、一皮むけば、普通の男子中学生でしかない。


(ワシでは……ワシごときでは、誰も守れん……当たり前や……ワシはただの厨坊でしかないんやから……ちょっと頭の回転がはやいだけの……ただのガキ……ワシごときが……神様に勝てるわけな――)


 心が砕け散りそうになった、

 薄っぺらなウソで脆さは支えきれない。

 『己の幼さを完璧にカバーできるほどの強固なウソ』は使えない。



 『可能性が死んだ極限』を前にして、

   それでも、『ヒーロー見参』を叫べる変態はそういない。



 だから、当然のように崩れた。

 ぶっこわれて、ゆがんで、くさって、


 ――その時、



 バチィィン!!



 と、頬が痺れた。

 気付けば、ジンジン・ヒリヒリとしていて、

 真っ赤にはれて、


「……ぃった……」


 思考の底から意識を戻すと、目の前にジュリアが立っていて、



「しつこい男だ。何回、言わせる。私の前で、無様をさらすな」





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自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
[一言] トウシは才能的にほとんどセンに勝っているけどただ一つ精神力だけはセンが圧倒的に強いんですね
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