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65話 発見。


 65話 発見。


「トランスフォームしてのピッチング、最高やなぁ……病みつきになりそやわぁ」


 などと言いながら、トウシはまた振りかぶる。


「この身体能力があれば、出来ん事はないな。少なくとも、お前ら程度を抑えるんは楽勝……今後、こんな機会は、たぶん、ないやろうから、ここでちょっと実験させてもらうで」


 トウシは、ここまでの8イニングで、相手バッターの特徴を完全に掴んでいた。

 身体能力が5倍になろうが10倍になろうが、その人間が持つ『特異的な指向性』――『クセ』は変わらない(身体能力が上がれば消せるクセは多いが、今、この場で直すことは難しい)。



「ピッチングの高揚感で気負いも霧散した……あとは、ねじふせるだけ……見せたるわ、ワシの……」



 躍動する肢体。

 跳ねるように――


「投球理論を」


 グンと華麗に体躯を推動させて、腕の回転を加速させる。


 爆速のカッターがアウトローをえぐる。

 わずかに外れていたが、打者は手を出さずにはいられない。

 クルリと回転するバット。


「ここから先、一球でもカスる事ができたら褒めたるわ」


 マウンドに君臨し、打者を見下ろしながらそう宣言するトウシ。


 相手打者は、何も言えず、ただ息をのむ。

 既に、呑まれていた。

 ワンナウトが確定した。




 ★




 ノーアウト満塁から始まる地獄のスタート。

 しかし、神話狩りのメンツが『ピンチ』を認識できた瞬間は一秒たりともなかった。


 ただ、クルクルと回転するバッターを眺めていただけの数分でしかなかった。


 当たり前のように守備を終わらせてベンチに戻ってきたトウシ。

 周りは全員、トウシの凄まじさに対し、改めて感嘆・動揺しているが、

 トウシ専用のマネージャーとしてベンチに入っていたジュリアは、涼しい顔で、


「守備は問題なさそうね」


 と、ネクストへ向かう準備をしているトウシへ声をかけた。

 そんなジュリアにトウシは言う。


「攻撃も問題ない」


「なに? あんた、打撃練習もしていたの?」


「バッセンいって、キャッチャーの練習しかせん訳がないやろ」




 ★




 ――キィンと快活な音がした。

 白球は放物線を描いて、スタンドへと飛び込んでいく。


 客席は静まり返っていた。

 これで、勝負が決まってしまったから。


 あまりにもアッサリとした結果。

 ぶっちゃけた話、トウシがトランスフォームをした瞬間に、試合は終わっていたのだ。


 ゆっくりとダイヤモンドを回ってきたトウシは、最後にホームベースを踏んで、


「はい、ワシらの勝ち」


 そうつぶやくと、そこで、ジュリアが、


「あたし達の勝利じゃなく、『あんたの一人勝ち』でしょ。あんた以外、誰も何もしていないんだから」


「虹宮は頑張ってたやろ。このスーパーアウェイの中、8回まで一人で投げ抜いたあいつは、なかなかのド根性&鋼メンタルの持ち主やと思うで」


 と、そこで、虹宮が、


「いやいや、おれは、ただ、トウシくんに丸投げしていただけだから。ただの人形みたいに、投げろって言われたところに投げただけ。だから、やっぱり、結局のところ、すごいのはトウシくんだけだよ」


「いやいや、何いうてんねん。トランスフォームできたんはお前だけ。つまり、ウチのチームで投手が出来たんは、実質、お前だけやった。控えがおらん状態で、お前は、たった一人、孤独を飲み込んで、最後の最後までリズムを崩さず、ワシの注文通りに投げ抜いた……その鋼の精神力……『神』がかっとると言わざるをえんレベルや」


「いやいや、そんなに褒めないでよ」


 無為な『いやいや合戦』が永遠に続くかと思われたその時、

 トウシが、ギンと目を光らせて、


「褒めてへん。あんたが『じんろう』やぁ言うてんねん」



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