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64話 整いました。


 64話 整いました。


「野球で一番大事なポジションは間違いなく投手。せやから、当然、ワシも、自分の体を使って『投手の練習方法・成長理論』を一番多く実験をした……あとはわかるな?」


 その発言を受けて、虹宮はニっと笑い、


「……それなら、問題は何もなさそうだね。いつもどおり、みんなの命、まかせたよ、トウシくん」


 そう言って、キャッチャーが座るべき場所へと向かった。




 ★




 マウンドに立ったトウシは、まず一度空を見上げて、


(……産まれてこのかた、一回も、試合とかで投げたことなんかないワシに……)


 ふぅと息を吐いてから、

 まっすぐ、バッターに視線をうつし、


(こんな大観衆の前で、『100人近い人間の命』を背負いながら、『死に物狂いで立ち向かってくるメジャーリーガー顔負けな超人集団』相手に投げる日が来るとは……人生、分からんもんやなぁ)


 口がカラカラに乾いた。

 鼓動のペースが完全に狂っている。

 ドクンという音が脳内に響いた。


 ザラついた大観衆の声と、自分の心臓音が複雑に混ざり、

 耳を通して、トウシの魂を容赦なくかき乱していく。


(震える……なんか、足下がフワフワしとる……)


 平衡性が揺らぐ。

 『地面と接地できていない』という明確な錯覚。


(ちっさな球体の上に立っとるみたいに、安定せん……虹宮……お前、こんな状況で、よう、あれだけポンポンと機械的に投げられたな……)


 スゥっと息を吸い、

 ハァと吐く。


 緊張している人間が行う『基本的な一連の流れ』を、自分自身に強調認識させる。


 自分を俯瞰する技。

 血の流れを活発にして、全身に酸素を巡らせる。

 グラブをわきにはさんで、左右の親指で、交互に、てのひらのど真ん中を押していく。

 目をギュっと閉じて、息を止めて十秒。


「ぶはぁ、はぁっ、はぁ、はぁ!」


 その間、こころの中では、


(リンゴ、ゴリラ、ラッパ、パンツ、積み木、キックボクシング……)


 一人しりとりをしながら、トントンとジャンプ。


 計30秒ほどの奇行を終えると、




「よっしゃ、整った。ほな、いこか」




 おそろしい速度で『平常心』を取り戻したトウシ。

 とんでもない速度で自律神経を整えてみせた、その手腕。

 過度のド緊張を経験した事がある者なら、誰でも理解できる、トウシの異常性。



 トウシは、ゆっくりとふりかぶる。

 ゆったりと足をあげて、全身をしならせた。

 グンと体重を乗せて、ダンっと踏み込む。

 リリースの瞬間、パチンと指がボールを弾く音が脳内に響いた。


 放たれたボールは、一度地面に向かった後で、グワっと浮き上がり、ズガンとミットにブッ刺さる。


 160キロを超える豪速のライズボール。

 凶悪にしなやかな手首のスナップが生み出す驚異の回転数が、硬球をピンポン球のように浮かせる。


「おぉ、メッチャ浮くやん……これは、気持ちええなぁ」


 投球後の余韻に浸っているトウシ。

 それとは対照的に、相手バッターは目を丸くしていた。


(え、こいつの球、ほんとに浮いてね……?)


 ライズボールは物理的に不可能な球ではない。

 ただ、人体の構造上、上から投げる場合、すさまじく難しいというか、ほぼほぼ不可能といっていい難易度。

 ゆえに、野球経験者でも、硬球のライズを見た事がある者は少ない。

 というか、小・中レベルでは、ほぼ確実にいない。


「トランスフォームしてのピッチング、最高やなぁ……病みつきになりそやわぁ」



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